11話・やっぱり模擬戦は経験の差が出るよな……。
天馬市にある如月家の屋敷。
その隣にある訓練施設は一般中学校の4倍ほどの敷地があり、複数の道場やシミュレーション室、地下にはシェルターまである。
「如月家ってマジで金持ちだな」
「これでもウチはいいところの名家なんだぞ!」
「よく知ってるよ。っと、河原さんも予定が空いてるみたいだし、いくぞ」
「どこに行くつもりだ?」
スマホをしまったトバリが、首を傾げるシオンに言葉を返す。
「いつもの第8道場だよ」
「そ、そうか! って、わたしがあんまり行かない場所だな」
2人は訓練施設の敷地内を歩いていく。
「ああ。コトラさんが用意してくれた場所だしな」
「おいトバリ。お婆様から何を頼まれたんだ?」
「……2ヶ月半前に退院したら、コトラさんから『指導経験の浅い指導員がいるから、教え子役になってほしい』と言われて、了承したら道場の建物一つを専用で貸してくれたんだよ」
「それでほぼ毎日、ウチに来てたんだな!?」
「うん!」
笑顔のトバリにシオンの頬が引きつった。
「なんでわたしは気づかなかったんだ?」
「お前は2ヶ月前に退院してから今まで修行に集中していただろ」
「そうだけど! ああもう、言ってくれたらわたしが指導したのに!」
「悪いけど、お前だと後が怖い」
「なんでだ!?」
シオンは歩きながら、隣にいるトバリの肩を掴んだ。
「お前、俺と初めて出会った時から今まで何をやらかしてきた?」
「……それはごめん!」
トバリの冷たい返答に、シオンが申し訳なさそうに謝った。
「まあでも、いい事もたくさんあったからそこまで気にしてないぞ」
「あ、ありがとう! じゃあわたしの指導を受けてくれるか?」
「シオンからのアドバイスは欲しいけど、師弟関係は結びたくないな」
「酷い!?」
唖然とするシオンをよそに、トバリは第8道場の出入り口前に立つ。
トバリはスニーカーを脱いで、部屋用の安全靴に履き替えた。
「え、おい、靴を脱がないのか?」
「別に? コトラさんから靴の許可はもらっているぞ」
「そ、そうか。お婆様、トバリを優遇してないか?」
「俺もそう思うよ」
苦笑いを浮かべるトバリにシオンがジト目を向ける。
2人は共に第8道場の建物内に入ると、身長185センチの筋骨隆々で30代前半の角刈り男性が道着姿で木剣を振っていた。
「河原さん、こんにちは!」
「トバリ君、やっと来たね!」
「ええ。急な連絡に答えていただき、ありがとうございます」
トバリが一礼すると、河原はニコリと笑う。
「いやいや。オレの方こそ、時間が空いていたしよかったよ」
「そう言っていただき嬉しいです」
互いに握手する中、河原がシオンに気づいた。
「ん? ああ、如月筆頭師範の孫娘さんだな」
「そうだが? アナタは誰だ?」
「オレは河原ゴウキ。前は天馬市の地方騎士団にいたけど、家庭の事情で1年前にやめて道場に勤務し出したんだよ」
「なるほど! ウチでたまにいる騎士上がりの指導者か!」
「そうなるね」
河原は木剣を腰に戻して息を吐く。
「それじゃあ、俺は道着とプロテクターをつけてくるから河原さんとシオンは待ってて欲しい」
「わかった! って、トバリはプロテクターもつけるのか?」
「当たり前だろ!?」
シオンが口を大きく開けた。
「いやいや!? プロテクターなんてつけたら痛みがかなり減るだろ!」
「お前な! 俺は痛いのが苦手だし、根性論も大嫌いなんだよ!」
「そ、そうか……」
目を背けるシオンへ、トバリが叫びながら建物内にある更衣室へ向かう。
ーー
トバリが着替えを終えた後、第8道場。
河原とトバリは隣に並んで木剣を構え、素振りを始めた。
「うん、最初の時よりかなり良くなったね」
「は、はい……」
〈やっぱり褒められるのは苦手だな〉
強化プラスチック製のフェイスガードをつけたトバリが、バツが悪そうに目を逸らす。
トバリの隣にはシオンが木刀をブンブンと振っていた。
「河原さん、わたしの振り方はどうだ?」
「シオンさんは剣術を習い始めて何年くらいだ?」
「8年は経っているぞ」
「……え?」
急に素振りをやめた河原に、シオンが不思議そうに首を傾げる。
「わたし、変なことでも言ったか?」
「いやその、オレは片手剣使いだから日本刀はよくわからないんだよ」
「そうか! って、強引に誤魔化すなよ!?」
シオンが不機嫌そうに叫び、河原が困ったように頬をかく。
「シオンさんには悪いけど、今更オレに素振りのことを聞かれてもね」
「た、確かに! じゃあトバリ、わたしと模擬戦しないか?」
「なんで模擬戦に話が飛ぶんだよ!?」
トバリのツッコミに、シオンが笑顔を浮かべた。
「基礎の素振りもいいけど、模擬戦した方が経験になるだろ」
「その基本が大切なんだよ! それに俺の指導者は河原さんでお前じゃないだろ」
「あ……。なあ河原さん、トバリと模擬戦してもいいか?」
「え? いや、トバリ君はどうしたい?」
河原の質問に、トバリは自分の口元に手を置く。
「えっと。なあシオン、模擬戦のルールってどんな感じだ?」
「客室の時に言ったアイテムや禁止技以外は自由だな」
「あのさ、俺が奥の手を使ったら速攻で終わらないか?」
「それ言ったらおしまいだろ!?」
トバリの返答にシオンが固まった。
「奥の手? ああ、前にトバリ君がぼかして言っていたやつだね」
「そうです! ただ、その奥の手はあまり見せたくないんですよ」
「それなら、奥の手を使わなくてもいいんじゃないかな?」
「ええ!?」
戸惑うトバリに河原が真顔で言葉を返す。
「奥の手に頼りすぎると自力から育たないし、トバリ君には制限付きで模擬戦して欲しいな」
〈と、なると、シオン相手に勝ち目は薄いな。いやでも、最初から負けることを前提して考えたら気持ちが楽になるな〉
頭の中で状況を整理したトバリが、コクリと頷いた。
「わ、わかりました! ただヤバくなったら止めてくださいね!」
「おいこら! トバリ、わたしとの模擬戦がそんなに怖いのか!」
「客室で話していた別の模擬戦の内容を思い出せよ!」
「……ごめん!」
申し訳なさそうに謝るシオンに、トバリはジト目を向ける。
「お、おう。じゃあ改めて、模擬戦をやるぞ」
「そうだな! 河原さん、審判をお願いしてもいいか?」
「ああ! 2人とも頑張れよ」
トバリとシオンは一定の距離を取り武器を構えた。
その姿を見た河原が、軽く息を吐いてから2人の顔を見る。
「模擬戦準備!」
河原の鋭い一言に、トバリとシオンは真剣な顔を浮かべ向かい合う。
「「はい!」」
「それでは、模擬戦を開始!」
道場内に響く河原の叫び声。
シオンが踏み込み、トバリに接近した。
「はあぁ!」
木刀を両手で握り、シオンが上段から振り下ろした。
その一撃をトバリが自分の左側に飛び、シオンの攻撃を回避する。
「チッ! 少しは動きが良くなったな!」
「河原さんに鍛えてもらったから、動けるようにはなるだろ!」
着地したトバリがニヤリと笑い、木剣を中段に構え直すのだった。




