12話・模擬戦はしんどいし、やっぱり経験の差が大きいわ!?
如月家保有の訓練施設にある第8道場。
木造の広い建物で、トバリは後ろに下がった。
「お前な、剣術初心者にガチで斬り掛かるなよ!」
「ガチでやらないと模擬戦じゃないだろ!」
冷や汗を流すトバリに、シオンが水平斬りを放つ。
その一撃をしゃがんで回避するトバリだが、シオンはすぐさま蹴りを放つ。
「ガッ!?」
なんとか腕でガードしたトバリだったが、シオンが木刀を容赦なく振り下ろす。
「この鬼畜が!!」
トバリは木剣を盾にするが、強い衝撃に膝をついた。
「悪いが、わたしは模擬戦では手を抜かない派なんだよ!」
「……そうかい!」
トバリは歯を食いしばるが、シオンの方が力が上なのか押されていく。
その時、トバリが木剣を斜めにしてシオンの木刀をスライドさせる。
「なっ!? がっ! 貴様だって鬼畜だろ!?」
「こっちは必死なんだよ」
スライドさせてシオンの体勢を崩したトバリは、無我夢中で足払いをした。
そのまま前のめりに倒れるシオンへ、木剣を叩きつける。
「がっ!? まだまだ!」
シオンは木剣で打たれた部位の痛みに耐えつつ、すぐに立ち上がりトバリの腹を左拳で殴った。
「ゴフッ!? お、お前……」
トバリはフラフラと倒れそうになり、その隙を見逃さないシオンが突きを放つ。
〈勝てるとは思わなかったけど、コイツは容赦なさすぎるだろ!!〉
シオンの突きを木剣の腹でガードしたトバリが、後ろに飛ばされる。
なんとか受け身を取ったトバリはすぐに立ち上がり、バックステップを踏み距離を取った。
「ハァハァ……。いっつ、お前、マジで性格が悪いな」
「貴様だって、容赦なく打ち込んだだろうが!」
「知るか!!」
トバリは息を整えていると、シオンがニヤリと笑う。
「まあでも、ウォーミングアップはコレで終わりだけどな」
「ええ……。お前、手を抜いていたのかよ!」
「ああ」
目を光らせたシオンが、先程とは比べ物にならないスピードでトバリに接近する。
「こっからがわたしの本気だ!」
「……あ」
「え? がっ!?」
全力で突っ込んできたシオンに対して、トバリが反射的にカウンターを放つ。
その一撃がシオンのお腹に直撃して、彼女は唾を吐き出す。
「いったあ!?」
「よっしゃ今だ!!」
お腹を押さえるシオンに対して、トバリは木剣を叩き込みまくる。
「こ、この! トバリ、汚いぞ!」
「うっさい! お前だって経験の差で俺をボコっていただろうが!」
トバリは足払いをすると、シオンは尻餅をついた。
だがシオンはすぐに起き上がり、トバリに頭突きをする。
「いったあ!? おまっ、マジで石頭だよな!!」
「ああ!」
木剣を持っていない左手を使い、トバリは頭を抑える。
「さっきは調子に乗って失敗したけど、次はそうはいかない!」
「お、おう……」
シオンが木刀を中段に構え、刀身部分を青白く光らせた。
「お、おいお前、まさか!?」
さらに距離を取るトバリに、シオンが前に出ながらニヤリと笑う。
「戦華!!」
「やっぱり武技かよ!?」
トバリは焦ったようにツッコミを入れる中、シオンの武技・戦華の横薙ぎが放たれた。
その一撃をトバリは木剣でガードするが、威力が高く床を転がる。
「や、やっぱり無理だわ! 降参!」
倒れたトバリは木剣を捨てて両手を上げた。
「そこまで!!」
「ええ!? せっかく調子が上がってきたんだけど?」
「勝負はついたし、終わりだよ」
河原のストップにシオンは不機嫌そうに木刀を振る。
トバリはなんとか起き上がり、床に座り直す。
「最初からわかっていたけど、流石に勝つのは無理ゲーだわ」
「おいトバリ! なんで最初から諦めているんだよ!」
「あのな。俺は剣術を始めて数ヶ月、お前は8年以上やっているから、これで勝てたらおかしいだろ!」
「確かに! でも勝つ気でやらないと経験が積めないぞ!」
呆れたように息を吐くシオンが、トバリに近づいた。
模擬戦を見ていた河原は口元に手を置いた後、冷静に口を開く。
「まあまあ2人とも、まずは反省会をしようか!」
「「はい」」
河原の落ち着いた声に、トバリとシオンが頷いた。
「まず、オレからの指摘だけど、トバリ君は現実が見えすぎて勝つことを諦めている。でもそれ自体は悪いことじゃなくて、相手との差が見えているのはいいところだよ」
「あ、ありがとうございます」
〈……うん、河原さんが悪くないのはわかるけど、正直劣等感の方がすごく否定したくなるな〉
渋い顔をするトバリへ、河原が言葉を続ける。
「逆に問題点は、損切りが早すぎるのと、攻撃の姿勢があまりない点だね」
「それは……。格上の相手に攻撃しても、隙を晒すだけですよ」
「まあね。だから、今の模擬戦を見る限り、君は突撃するより後の先で戦うのが得意そう」
「え? つまりどういうことですか?」
トバリが首を傾げる。
「さっきのカウンターがわかりやすいんだけど、トバリ君は対応や反応自体はできているんだ」
「でも、負けましたよ」
「そりゃ基礎能力や剣術の練度の差が大きいからね。でもまあ、今は無理でも将来的にシオンさんにワンチャン勝てるかもしれない」
「……そうですか」
〈いや、普通に無理では?〉
頬を引きつらせるトバリへ、シオンがジト目を向ける。
「おいトバリ。なんでそこまで自信がないんだ?」
「いや、だって、お前にボロ負けしたじゃん」
「アホか。経験の差が大きいし、それにわたしだって貴様にボコボコに殴られたんだぞ!」
「悪いけど、結果が全てだろ」
トバリが死んだ魚のような目を浮かべる。
その姿に河原が呆れたようにため息を吐き、トバリの頭に手を置いた。
「確かに結果はかなり大切だ。でも、君はやれる範囲で頑張ったよ」
「……え?」
〈俺がおかしいのはわかるけど『頑張った』と聞くと無意識に虫唾が走るな〉
目を逸らすトバリにシオンが背中を叩いた。
「いっつ!? おいシオン!」
「ったく、貴様は頭で考えすぎだ」
「バカのお前には言われたくない!」
「まあな」
トバリが言い返すと、シオンがニヤリと笑う。
「まあでも、マイナス思考に引っ張られるトバリより、今の方がわたしは好きだぞ」
「……そうかい」
「おいこら!? せっかく励ましてやったのにその反応はないだろ」
シオンは頬を膨らませながら、トバリの肩を掴んで揺らした。
「はいはい。俺が悪かったよ」
「全く心がこもってない! ちゃんとわたしの目を見ろ!」
「やだ!」
意地でも目を合わせないトバリに、シオンがさらに強く肩を揺らす。
2人のやりとりに河原が苦笑いを浮かべた。
「あ、その、シオンさんへの意見はなくて良さそうだね」
「なんで!? わたしにもなんか言って欲しい」
「悪いけど、オレはシオンさんの師匠じゃないから余計なことは言えないよ」
「えええ!?」
唖然とするシオンをよそに、トバリが軽く息を吐く。
「河原さん、基礎練に戻ってもいいですか?」
「あ、ああ。今の反省を生かして練習しよう!」
「模擬戦は?」
「「我慢しろ!!」」
「ひどい!?」
ワガママを言うシオンに対して、河原とトバリがジト目を浮かべた。
「なんか、コイツと模擬戦するのが怖くなるな」
「それなら、訓練施設内にあるシミュレーション室にでもいくかい?」
「おお! 案内お願いします」
「わかった」
優しく微笑んだ河原が立ち上がり、トバリも後ろについていく。
「待って待って!? わたしもいくぞ!」
復活したシオンも2人の後ろについて行く。
河原は道場の鍵を閉めた後、シオンやトバリと共にシミュレーション室へ向かう。
「ちなみに、シミュレーション室って何があるんですか?」
「基本的には魔物のホログラムで、実際の相手とほぼ同じ動きで訓練できるんだよ」
「便利ですね!?」
3人は敷地内を歩きながら、次の訓練内容を話し合うのだった。




