13話・シオンさん、なんで強敵に突っ込むの?
如月訓練施設内にあるシミュレーション施設。
鉄筋コンクリートで作られた建物は5階建でショッピングモールくらいの広さがある。
3人は1階のエントランスで受付した後、セキュリティカードをもらい割り当てられた305号室に向かった。
「マジで如月家は金持ちだな。てか、部屋も広くない?」
「まあね! それで河原さんはここでどんな訓練をするんだ?」
「一応考えているのは、魔物のホログラムを相手に戦闘経験を積むことだね」
「戦闘経験なんて殴り合えばよくない?」
「「よくないわ!?」」
シオンの疑問にトバリと河原が突っ込んだ。
「お前はどんだけ模擬戦が大好きなんだよ!!」
「いやだって、殴り合いってテンションあがるぞ」
「あ、うん、トバリ君。シオンさんのことは置いておこうか」
「そうですね」
ドン引きするトバリ達は、荷物カゴにリュックを入れて部屋の中にある待合所のソファーに座る。
「あのな、その言い方だとわたしが頭のおかしい人に見えるだろ」
「いや、実際そうじゃないか?」
「うぐっ!? よ、よし、河原さん、まずはわたしがやってもいいか?」
「念のために聞くけど、模擬戦じゃなくてシミュレーションだよね」
「当たり前だ!」
バツが悪そうに目を逸らすシオンに、河原が苦笑いを浮かべた。
シオンが木刀ではなく、真剣のアイアンカタナを左腰に装備してから待合所を出てフィールドに上がる。
〈待合所にウォーターサーバーがあるのは便利だな〉
トバリは紙コップに水を注いで飲む。
そんな中、シオンが壁際にあるタッチパネルを操作し始めた。
「これでよし!」
「ん? シオンは何をしているんだ?」
「ああ! わたしが戦う魔物を選んでいたんだよ」
「なるほど……。それで何を選んだんだ?」
「ゴブリンソードマンに決まっているだろ!」
「は?」
シオンの選択にトバリが固まった。
「いやいや!? お前、また死にかけるぞ!」
「トバリ君。シミュレーションだから攻撃を受けてもめっちゃ痛いだけで済むよ」
「それなら安心か……?」
河原の説明にトバリが首を傾げる。
魔物選択を終えたシオンは部屋の奥を見ると、ホログラムでゴブリンソードマンが生成されていく。
〈シミュレーションのソードマンが青月山と同じレベルなら、原作の負けイベレベルのヤバさだよな……〉
待合所のソファーに座るトバリは姿勢を直す。
フィールドにいるシオンがアイアンカタナを引き抜き、中段に構えた。
「こい!」
ホログラムが実体化したソードマンの咆哮。
特殊な強化ガラスが少し震え、外の待合所にいるトバリが冷や汗を流す。
「大丈夫なのか?」
「シミュレーションは安全装置もあるし大丈夫なはず……。ただ、オレでもソロなら苦戦するソードマン相手にシオンさんが挑むとはな」
トバリの隣に座る河原が、興味深そうに笑う。
「グオオォ!!」
「面白い!」
「ええ……。なんでアイツは元気なんだ?」
ソードマンは右手に片手剣を持ち、切先をシオンに向けた。
対するシオンは頬を吊り上げ、刀を中段に構えながら突撃する。
「はああ!!」
障害物が何もない白いフィールド。
シオンがダッシュで突っ込み、刀で横薙ぎを放つ。
その一撃をソードマンが片手剣で軽く受け止め、力任せに弾き飛ばした。
「がっ!? や、やっぱり、こいつは強いな!」
地面に転がったシオンはすぐさま顔を上げた。
ソードマンはドスドスと足音を鳴らしながらシオンに接近する。
「グオオオオォォ!!」
叫び声を上げるソードマンが、片手剣のグリップを両手で持ち振り下ろす。
シオンは振り下ろしを自分の右側に転がって回避した後、反撃の横薙ぎをソードマンが籠手でガードした。
「ゴッ!」
「相変わらず、その籠手は硬いな!」
刀の刃と籠手がぶつかり合いガンッと鈍い音がフィールドに響いた。
待合所でシオンの戦闘を見るトバリは、口元に手を置く。
「アイツ、押されてはいるけどソードマンに瞬殺されてないな」
「たぶんだけど、ソードマンはまだ準備運動中で遊んでそうだね」
「そこまでシミュレーションで再現できるんですか?」
「最近バージョンアップしたおかげで、さらに本物に近くなったよ」
「な、なるほど……。技術の進歩ってすごいですね」
苦笑いを浮かべるトバリに、河原が息を吐く。
「まあな。っと、そろそろ舐めプが終わりそうだ」
「え?」
河原の一言にトバリは口を大きく開けた。
するとソードマンは容赦なくシオンを蹴り飛ばした。
「ぐっ!? やっぱりこいつは強い!」
腹を蹴られたシオンが床に尻餅をついた。
そのまま立ち上がったシオンが、お腹を左手で抑えながら後ろに下がる。
「グオオオオォォ!!」
ソードマンの気合の入った叫び声に、シオンの頬を汗が伝う。
「まずいな……」
シオンが刀を中段に構えた瞬間、ソードマンが片手剣に赤い光を纏わせる。
〈ゲームの時は便利な練習施設と思っていたけど、リアルのシミュレーションって技術がすごいな……。ってあれは武技の光だよな〉
ソードマンがニヤリと笑い、床を踏み締めた。
その瞬間、ソードマンの体が高速で動き、シオンの前まで到達する。
「チイイィ!」
シオンはタイミングよくしゃがんで、ソードマンの武技・ソードストライクを避けた。
だがソードマンは容赦なく、追加の蹴りでシオンをもう一度吹き飛ばす。
「あがっ!? ま、まだ終わってないぞ!」
なんとか受け身をとったシオンが、歯を食いしばりながら立ち上がった。
その姿にトバリが目を光らせる。
「アイツ、バカだな」
「トバリ君、君もたまにはシオンさんみたいにバカになるのもいいかもね」
「ええ」
どこか嬉しそうにトバリが微笑んだ。
トバリの目にはソードマンにボコボコにされても、気合いで立ち上がるシオンが写っている。
「シオン! 1発くらいはソードマンに攻撃を当てろよ!」
「わかっている!」
シオンの力のこもった返答に、トバリがニヤリと笑う。
「グオォ!!」
「こいよデカブツ!」
2メートルほどの筋骨隆々のソードマンに対して、シオンは真剣な顔で斬りかかった。
〈いけシオン!〉
トバリは内心で応援していると、シオンが気合のこもった斬撃を放った。
「戦華!!」
シオンが刀に青白い光を纏わせ、振り抜く。
強い光を放つ強力な斬撃が相手に届いたが、ソードマンは余裕そうに戦華を片手剣で受け止めた。
「「……え?」」
「やっぱりこうなったか」
固まるトバリとシオンを見た河原がぎこちない笑みを浮かべた。
ソードマンはシオンの顔面へ左ストレートを直撃させた。
「へぶし!?」
顔面を殴られたシオンは鼻血を出しながら地面に倒れる。
「「ええ……」」
待合所で見ていたトバリと河原が唖然とする中、決着がついたのでソードマンはいい笑顔で消えていった。
「ゴブッ!」
「アイツ、無傷で帰っていったな」
戸惑うトバリの目には、地面に沈んだシオンがいた。
「く、悔しい!! もう一度、やらせろ!」
「待って待って!? お前は鼻血の手当てをしろよ!」
「トバリ!?」
トバリはフィールドに入って、暴れるシオンを強引に引っ張りだした。
その後、怪我をしたシオンの手当てを2人がしていく。
〈こいつみたいにバカになるか〉
トバリは、河原に言われたことを頭の中で考えるのだった。




