14話・シミュレーション室、なんてか、モフコボルトさんには申し訳ないことをしたな……。
如月訓練施設内にあるシミュレーション施設。
305号室の待合所で、シオンが鼻をハンカチで抑えながら悔しそうにフィールドを睨む。
「今度こそソードマンをぶちのめしてやる!!」
「今のシオンさんの実力じゃ無理だよ」
「無理でも勝ちたい!!」
「「あ、はい」」
シオンが2人を睨みつけ、ソファーから立ち上がろうとする。
その姿に河原がジト目を向けた。
「シオンさん、今度はトバリ君の番だから待ってほしい」
「ええ!? わたしが勝つまでやらせてくれるんじゃないのか?」
「そんなわけない!? シオンさんはゆっくりしてろ」
「は、はい」
河原が少しだけ声を荒げ、シオンを黙らせる。
「河原さん、お疲れ様です」
「ああ。トバリ君はタッチパネルの使い方はわかるかい?」
「マニュアルは読んだので試してみますね」
「わかった」
トバリはリュックからソーディアを取り出し、左腰のベルトに装着した。
〈やっとコトラさんからもらったこいつを試せるな〉
トバリはテンションを上げながら、強化プラスチック製のドアを開けてフィールドに入った。
壁際にあるタッチパネルの画面を動かし、ちょうど良さそうな相手をタップする。
〈モフコボルト。ゲームなら序盤の真ん中くらいの敵でわりと強いんだよな〉
フィールドの奥でモフコボルトが実体化していく。
大きさは1.5メートルほどで、犬の顔に毛皮の多い筋肉質な体、武器は左手にサーベルを持っている。
「グルル!!」
モフコボルトは牙を剥ぎ出しにしてトバリへ威嚇する。
トバリはソーディアを鞘から抜き、右手で構えた。
「軽い……」
白銀の刃に金色の宝石が埋め込まれたソーディアの重さに驚いたトバリが固まった。
するとスタートの合図がフィールドに響き、モフコボルトが全力でトバリに接近する。
「グル!!」
「やばい!?」
モフコボルトの斬り上げを焦って回避したトバリは、反射的にソーディアを横へ振りぬく。
「ぎゃん!?」
ソーディアの刃がモフコボルトの胸横に直撃して、一瞬で切り裂いた。
そのままモフコボルトがポリゴンのかけらになって砕け散り、トバリ達は目が点になる。
「「「……え?」」」
唖然とした3人の中で、一番最初に復活したトバリが気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。
「す、すみません、河原さん。武器をゴフテツソードに変更してもう一度チャレンジしますね!」
「あ、ああ、わかった」
河原が冷や汗を流しながら返答する中、シオンが頭を抱える。
「お婆様、トバリに超強い剣をプレゼントしてどうするつもりだよ……」
「俺に聞かれてもな?」
シオンとトバリが頬を引きつらせる。
トバリは待合所に戻り、武器の変更をしてから水を飲む。
〈コトラさん、ソーディアは今の俺には宝の持ち腐れになりますので当分は封印させてもらいます〉
心の中で謝ったトバリは、ゴフテツソードを左腰に装備しながらフィールドへ戻った。
「改めて、モフコボルトを選ぶか」
壁のタッチパネルを使い、トバリはモフコボルトを再召喚した。
するとモフコボルトは鋭い目でトバリを睨みつける。
「グルルッ!」
「いやあの、さっきは事故みたいなもので怒らないでほしい!」
露骨に目を逸らすトバリへ、モフコボルトがサーベルで斬りかかった。
「ガルルルッ!」
床を駆けるモフコボルトはジャンプして、トバリへサーベルを振り下ろす。
その一撃をトバリは左に飛んで回避してから、ゴフテツソードを突き出す。
「ギャッ!」
トバリの突きが、相手の脇腹を傷つけた。
だがモフコボルトも負けておらず、振り向きざまの回転斬りを放つ。
「あぶな!?」
モフコボルトの回転斬りをバックステップで回避したトバリは、床へ着地した。
「やっぱりソーディアと違って、ゴフテツソードじゃ一撃で倒せないな」
渋い顔をするトバリへ、待合所にいるシオンが口を出す。
「おいトバリ! もっとガンガン攻めろ!」
「お前、俺の戦闘スタイルを知っているのに、無茶を言うな!」
「ああ! だから口出しをしているんだよ!」
シオンの叫び声に、トバリは冷や汗を流す。
「どうやって攻撃したらいいんだ?」
「トバリ君、攻撃方法を頭に思い浮かべたらやりやすいぞ」
「え、あ、はい?」
河原のアドバイスを聞いたトバリが、ゴフテツソードを中段へ構えた。
立ち上がったモフコボルトは、サーベルを構えながら牙を鳴らす。
「ガルルルッ!」
「よ、よし!」
トバリはビビりながら前に出ると、モフコボルトが横薙ぎを放つ。
その横薙ぎをトバリは、ゴフテツソードで受け止めた。
「や、やっぱりきつい!」
モフコボルトとトバリは鍔迫り合いになり、互いに一歩も引かない。
「そのまま押し切れ!!」
「ったく、簡単に言うな!!」
力はほぼ互角でトバリが歯を食いしばりながら、モフコボルトを睨み返す。
その時、トバリはあえて剣を斜めにして、相手のサーベルを滑らせた。
「グルッ!?」
体勢を崩したモフコボルトへ、トバリが膝蹴りを叩き込んだ。
「ガブッ!?」
「これで終わりだ!!」
モフコボルトの腹へ膝蹴りを叩き込んだトバリは、ゴフテツソードを上段に構えた。
そのまま持ち手を両手で握り、うずくまる相手に力一杯振り下ろす。
「ギャン!?」
頭を下げていたモフコボルトへトバリの振りおろしが直撃する。
その一撃でモフコボルトの頭が切り裂かれ、ポリゴンのカケラになって消えていった。
「ハァハァ……。疲れた」
集中した戦闘で荒い息を吐くトバリは、ゴフテツソードを鞘に戻してから待合所へ戻る。
そこに河原が水の入ったコップをトバリへ渡す。
「お疲れさん。まだ課題はあるけど、今は休憩しようか」
「ありがとうございます」
トバリは水を飲み、ソファーに座った。
すると隣に座っているシオンが、ジト目を浮かべる。
「なあトバリ。貴様は攻撃が下手くそすぎないか?」
「ああ。まあでも、今の戦い方でも悪くないだろ」
「わたしからしたらビビりすぎに見えるけどな」
ため息を吐くシオンに、トバリが固まる。
2人のやりとりを聞いていた河原が、渋い表情になった。
「んー……。トバリ君は『臆病さ』や『マイナス思考』が強いから、攻撃が上手くできないのかもね」
「つまりトバリもわたしみたいになればいいんだな!」
「アホ。それができた苦労しないわ!」
胸を張るシオンへ、トバリが呆れたように突っ込んだ。
「まあまあ。まだ14時半だし、好きなだけ練習したらどうかな?」
「よし! ならわたしはソードマンへリベンジしてくる!」
「「え?」」
鼻血が止まったのか、シオンはハンカチをポケットにしまい立ち上がった。
トバリと河原が首を傾ける中、シオンが自信満々にフィールドへ入る。
「トバリ君、シオンさんはやる気満々だね……」
「え、ええ、たぶん、負けず嫌いなのが響いているんですよ」
「な、なるほど」
河原が苦笑いを浮かべ、トバリは目を逸らす。
その後、シオンが好きなだけゴブリンソードマンと戦い、河原とトバリは今日の反省会を始めるのだった。




