15話・あー、なんかやばいやつが来たけどすぐに捕まったな……。
シミュレーション訓練を数時間した後の如月家の屋敷。
トバリとシオンは私服に着替えて客室に戻り、豪華な夕食を味わっていた。
「あのさ……。俺まで食べてもいいのか?」
「もちろん。てか今日から夏休みなんだし、泊まっていけばいいだろ」
「着替えの服がないし、親に帰ると言ったぞ」
「ええ!?」
トバリは牛すじ煮込みを食べながら、渋い顔をした。
対面の席に座るシオンが、マグロの中トロをお皿に落としてしまう。
「わたしはトバリを抱き枕にして寝るつもりだったんだぞ!」
「お前な! 28歳の俺が14歳のお前と添い寝したらアウトだろうが!!」
「まだその嘘を言うのか!」
〈本当だよ!? なんで信じてくれないかな?〉
トバリはサーモンを醤油につけ、わさびを多めに乗せた。
「おおう。てか、俺が14歳でも家族じゃない異性と添い寝するのはかなり恥ずかしいんだよ!」
「わたしだって他のやつなら嫌だぞ!」
「その感覚を俺にも使え!?」
「やだ!」
中トロを食べ直したシオンが、満面の笑みを浮かべる。
「あ、ああ。めっちゃ口が悪くなるけど、お前はもう少し慎みを持てよ」
「めんどい! てか男勝りのわたしに今更女性らしさを求めるな!」
「な、なんで急に残念な発言をするんだ?」
「別にいいだろ! それにトバリの家族はそんなに過干渉なのか?」
首を傾げるシオンに、トバリが目を逸らす。
「しっかり連絡したら問題はない」
「なら、泊まっていけよ!」
「いやあの、お前の親に許可は取ったのか?」
「さっき母上に聞いてOKを出していたぞ」
「なんで俺に聞く前に親に確認しているんだよ!?」
トバリのツッコミにシオンがニヤリと笑う。
「そんなの、トバリを驚かせるために決まっているだろ」
「俺は胃が痛いけどな。あと、ご飯がめっちゃ美味しい」
トバリは焼き魚を綺麗に食べていく。
2人が楽しくご飯を食べていると誰かがドンドンと足音を鳴らしながら廊下を歩いていた。
「おいシオン! どこにいる!」
「……なあシオン。今の声ってまさか」
「あ、ああ、トウカだな」
シオンがバツが悪そうにデザートの栗羊羹を食べた。
対するトバリも栗羊羹と苺大福を味わいながら、露骨に目を逸らす。
「まあでも、流石に無断で客室に入ると怒られるから来るはずが……」
「見つけたぞシオン!!」
「トバリ、すまない!」
「出オチじゃん!?」
申し訳なさそうに頭を下げるシオンに、トバリが頭を抱えた。
客室の前で仁王立ちするのはシオンと瓜二つの顔に、黒髪のポニーテールで目つきがさらに鋭い胴着姿の少女。
彼女は頬に湿布やガーゼを貼り、シオンを強く睨みつけている。
「さあシオン、覚悟しろ」
「と、トウカ、今は客人が来ているから後にしろ!」
「関係ない! さあ、昨日の模擬戦の仕返しをしてやる」
「仕方ない……」
渋い顔をするシオンがスマホを取り出し、通話をし始めた。
「もしもし母上、トウカが客室に乱入してきたからなんとかしてくれないか?」
「はあぁ!? おいシオン、それは反則だろ!」
「反則? 先にやらかしたのはトウカじゃない?」
「ぐっ!?」
唇を噛むトウカに、シオンがため息を吐く。
「才能がある天才様でもマナーはダメだよな」
「し、シオン! 一回勝ったからって調子に乗るなよ!」
「勝ちは勝ちだ。それに後ろを見てみろ」
「……え?」
トウカが後ろを振り向くと、黒髪の女性が木製のシャモジを片手に冷たい笑みを浮かべていた。
「トウカ?」
「お、お母様!?!?」
「アナタは今から折檻部屋行きね」
「ひいぃ!?」
ガタイのいい侍女2人がトウカの両肩を掴んで引っ張っていく。
「トバリ君、ウチのバカ娘がごめんなさいね」
「あの、バカ娘なら俺の目の前にいませんか?」
「おいトバリ! わたしがバカなのはそうだけど、母上が言っているのはトウカの方だろ!」
「なるほど……」
黒髪の女性は緑色の瞳を浮かべ、トバリに向かって深く一礼した。
〈シオンのお母さんの目の色が緑色……もしかして風属性の覚醒者か?〉
トバリの思考が急に変わる中、黒髪の女性・如月ルナは着物の裾を持ちながら微笑んだ。
「トバリ君、ウチのバカ娘が迷惑をかけているわね」
「え、ええ。シオンの方はかなりなれてきましたよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいわ」
ルナが柔らかく微笑んだ。
トバリは背筋を伸ばしていると、シオンが口を開いた。
「母上、さっきも聞いたけどトバリをウチに泊めてもいいんだよな?」
「ウチは問題ないけど、トバリ君の方には確認したの?」
「それがコイツ、渋っているんだよ」
苦い顔をするシオンに、ルナが首を傾げた。
「トバリ君。無理にとは言わないけど、今日は遅いしウチに泊まって行かない?」
「えっと、申し訳ないですよ」
「大丈夫。シオンがやらかしまくっているから、変に気を使わなくてもいいわ」
「あ、はい」
トバリは微妙な顔で頷いた。
「なあトバリ。着替えならウチの男性陣のやつを使えよ」
「お前な……。母さん達に連絡してないのに決めるなよ」
「ああ! 阿笠さんの奥さんなら顔見知りだし連絡しておくわ」
「ルナさん!?」
唖然とするトバリに、ルナが口元に手を置く。
「ん? なんで母上はトバリの母さんを知っているんだ?」
「阿笠さんはウチの道場に通っているし、ママ友としてたまにお茶するの」
「な、なるほど……。母上って顔が広いよな」
苦笑いを浮かべるシオンに対して、ルナがトバリをじっと見つめた。
「トバリ君、どうする?」
「で、では、連絡をお願いしてもいいですか?」
「わかったわ!」
ルナは満面の笑みで一礼してから客室を出る。
トバリは疲れたよう息を吐き、天井を見上げた。
「俺は押しに弱いな……」
「知ってる! まあでも、これでトバリを抱き枕にできる」
「抱き枕を引っ張るなよ!?」
シオンが微笑み、トバリが突っ込んだ。
「悪い悪い! そういえば、トバリは母上を見た時に驚いていたけどなんかあったか?」
「ルナさんが風魔法の覚醒者なのに驚いただけだ」
「ふーん? お前も覚醒者だから気にしたんだな」
湯呑みにあたたかいお茶を注いだトバリは、軽く息を吐いた。
「ああ。俺は覚醒者とバレたくないし、今のまま黒のカラコンと眼鏡で誤魔化すよ」
「わたしは気にしてないが、なんでトバリは金色の目を隠すんだ?」
「……それは」
渋い顔をするトバリに、シオンが首を傾げる。
如月家の客室に冷たい空気が流れる中、トバリは言葉を選ぶ。
「下手に覚醒者とバレると、かなり面倒なんだよ」
「は?」
トバリの低い声に、シオンが口を大きく開けるのだった。




