第8話・回復魔法があればすぐ治るが、現実はそう簡単にはいかないよな……。
天馬市にある市民病院の5階の病室。
シオンが正座する中、トバリは今日あった出来事を話した。
「そんなわけで青月山に出たゴブリン4匹とゴブリンソードマンを死ぬ気で倒し切りました」
〈俺が隠している雷魔法以外のことは全て話したけど大丈夫かな?〉
トバリはビビりながら椅子に座る医者、田辺、コトラを見る。
すると、コトラが立ち上がりトバリに深々と頭を下げた。
「トバリ君、私の孫娘がかなりひどい目に合わせてごめんなさい」
「い、いえいえ、生きているのでまだマシですよ」
「ありがとう」
頭を上げたコトラが、申し訳なさそうな顔をしている。
「お、お婆様、あのわたしは?」
「アナタにはお説教と折檻が待っているわ」
「ですよね!? バイバイ、わたしの健康な体」
シオンが死んだ魚のような目を浮かべる中、メモをとっていた田辺が首を傾げる。
「ふむ。ゴブリンはともかく、あのソードマンをどう倒したんだ?」
「えっと……。トバリ、どう言えばいい?」
「それはその。ものすごく必死に倒しました」
「いやその、自分は倒し方を聞いているんだけど」
田辺が苦笑いを作り、トバリが露骨に目を逸らす。
「騎士さん、今は倒した方法より2人が無事なのに感謝しましょう」
「は、はい、コトラ様!」
敬礼をする田辺を見たコトラが軽く微笑む。
〈助かった……。いや、コトラさんは何かに気づいてそうだな〉
トバリは冷静に考えて冷や汗を流す。
「そ、その、ソードマンを倒した方法は秘密でいいですか?」
「普通にダメだよ!?」
「あ、はい、でも言いたくないんですよ」
「何か隠し事でもあるのかい?」
「「あります!!」」
田辺の疑問にトバリとシオンが真顔で頷いた。
「そ、そうか。かなり気になるが、2人とも怪我人だし今は下手に聞くのはやめておくよ」
「「ありがとうございます」」
トバリとシオンが田辺に向けてベッドの上で一礼した。
「あ、ああ。では、話を変えるが、ソードマンが青月山に出た証拠を貰っていいかい?」
「……え? 嫌です」
「そりゃそうか。でも、こちらとしても証拠品が欲しいんだよ」
田辺が渋い顔をする中、トバリがジト目を向ける。
「前みたいに魔石とドロップアイテムの買取はいいですよ」
「本当か! ならすぐに手配を」
「でも白銀の剣はダメです」
「ちょっ!? 一番大事なのは無理なのかい!」
トバリが横に首を振り、田辺が突っ込んだ。
医者とコトラが無言でトバリを見つめ、シオンが笑顔で頷く。
「ソードマンの武器なら、トバリが使う方がいいからな」
「な、なるほど……。強引に押収したいけど、それはあまりやりたくないな」
〈田辺さんが普通に怖いんだけど!? まあでも、魔物のドロップ品は基本的に倒した人の物だから、押収するなら何かしらがあるはず〉
口元で手を置くトバリに、コトラが頬を吊り上げた。
「トバリ君、わがままを言わずに白銀の剣を騎士に渡してくれないかしら?」
「え、でも、それだと自分の剣が」
「ふふっ。代わりにウチにある魔剣を1本あげるわ!」
「「「「えええ!?!?」」」」
コトラの一言に、トバリ、シオン、医者、田辺が大声で叫んだ。
「お、お婆様! 流石に白銀の剣と如月家に保管されている魔剣は差がありますよ!」
「わたしも白銀の剣だけで魔剣を渡す気はないわ。でも今回は大切な孫娘を命をかけて助けてくれた恩人で、魔剣を渡す価値はあるわ」
「いや、その、魔剣はもらえないですよ!?」
トバリが唖然としていると、コトラが首を傾げた。
「それじゃあ、トバリ君の武器はわたしが知り合いの鍛治師に頼んで用意してあげるわ」
「そ、それなら……。コトラさん、ありがとうございます!」
「いえいえ! こちらこそ、バカな孫娘を助けてくれてありがとうね」
コトラとトバリは互いに頭を下げ合う。
今回のソードマン戦で手にした武器やドロップアイテムは、田辺が回収して外にいる部下へ渡した。
「では、自分は青月山への調査に向かうよ」
「は、はい! また別の洞窟がありそうなので気をつけてください!」
「ありがとう! ……え? だとすると、山刈りした方がいいのか?」
「そうなりますね」
「あ、ああ、日曜日なのに残業だ」
辛そうな顔で田辺が病室から出ていった。
〈田辺さん、その気持ちよくわかりますよ!〉
前世でサラリーマンをやっていたトバリは、田辺に同情した目を送る。
「医師様、すみません。2人と話したいので席を外してもらえますか?」
「は、はい! 何かあればナースコールのボタンを押してください」
「ええ」
コトラは椅子から立ち上がり、医者へ一礼した。
医者の男性が外に出てドアを閉めた後、コトラがトバリの目を見て微笑んだ。
「さてトバリ君、君は何を隠しているの?」
「も、もしかして、自分が大人なのに気づきましたか?」
「……え? いや、トバリ君はシオンと同年代くらいよね!?」
「コイツはたまにわたしへ年上マウントを取ってくるんだよ」
「おいこら!?」
トバリは振り向きシオンに突っ込む。
「冗談はさておき。トバリ君、黒縁メガネを取ってくれない?」
「え、その、なぜでしょうか?」
「それは……。私の予想が正しければ、トバリ君は属性魔法に覚醒しているわよね」
「お、お婆様、なぜそれを!?」
コトラの揺さぶりに、シオンが過剰に反応した。
その姿にトバリが頭を抱える。
「おいシオン!?」
「やっぱりトバリ君は属性魔法に覚醒していたのね」
「……あ、まさか、釣られた?」
「いや? たぶんコトラさんはある程度は予想していて、お前の反応で確定させたんだろ」
「当たり。トバリ君は頭の回転がいいわね」
微笑むコトラに、トバリとシオンが固まった。
「お、お婆様は、なんでトバリが属性魔法を使えることがわかったんだ?」
「んー、まずアナタ達だけじゃ、あのソードマンを倒せない。でも、もしトバリ君が属性魔法に覚醒していたら話は変わるわよね」
「そ、それはわかるんですが……つまり?」
「ああ! お婆様は、ソードマンをどう倒したかの方法で一番可能性が高いやつを言ったのか!」
「そう! シオンもいい反応をするわね」
コトラがニヤリと笑い、シオンが悔しそうに唇を噛む。
「トバリごめん!」
「あ、ああ、この大きな貸しは別の機会に返してもらうぞ」
「もちろん!」
ぎこちないトバリは、笑顔のコトラへ向けて言葉を返す。
「……自分はどうしたらいいんですか?」
「トバリ君からの説明を聞きたいわ」
「ですよね!」
トバリは頭を抱え、コトラは静かに姿勢を直すのだった。




