第7話・負けイベント……辛いわ!!
天馬市の外れにある山の川辺。
2メートルを超えるゴブリンソードマンに対して、トバリとシオンが左右から斬りかかる。
「「はあぁ!!」」
2人の振り下ろしを、ソードマンが顔色ひとつ変えずに両手の籠手で受け止めた。
「チッ!」「なっ!?」
舌打ちをするトバリと唖然とするシオン。
反応が違う2人だが、攻撃を受け止めたソードマンが力任せに弾き飛ばす。
トバリは川の中に落ち、シオンは川辺を転がった。
「う、嘘だろ。なんなんだよコイツは!」
シオンはアドレナリンが切れてきたのか、歯を食いしばりながら立ち上がった。
ソードマンはシオンの方に向き、片手剣を赤色に光らせる。
「させるか!!」
川から出たトバリが地面に落ちている石を拾い、ソードマンの後頭部へ投げた。
するとソードマンの頭に直撃して、相手は鋭い目でトバリの方に振り向く。
「グオオォ!!」
咆哮を上げるソードマンにトバリは膝をつき、シオンは尻餅をついた。
〈やっぱり、ゲーム中盤に出てくる中ボスのゴブリンソードマンを相手するのは無理ゲーすぎる。……いや、テスタメントソウルのやり込み勢として、負けイベをぶっ潰すのは面白いよな〉
なんとか立ち上がったトバリへ、咆哮を終えたソードマンが片手剣を赤く光らせたまま突っ込んできた。
「悪いが、ソードストライクはもう知っているんだよ!」
高速で突っ込んできたソードマンへ、トバリは全力でしゃがんで片手剣を両手で持ち低い位置へ置いた。
「ゴッ!?」
ソードマンが高速で斬撃を放つが、トバリの頭を通り過ぎ、置いてあった片手剣に左足を深く斬られたことに気づいた。
トバリは急いで川から上がり、全力でシオンの方へ向かう。
「おいシオン、無事か?」
「短剣で尻が切られたし、めっちゃ痛いんだけど!」
「軽口を叩けるなら余裕はありそうだな」
「まあな! でも、フルボッコにされて体が痛いのは本当だぞ!」
シオンのズボンには血が滲んでいるが、満面の笑みで立ち上がる。
「ったく……。なあシオン、今から見せるのは誰にも言うなよ」
「急になんだ?」
川の中で膝をついたソードマンに対して、トバリが軽く息を吐く。
そして覚悟を決めたトバリが、左手を突き出す。
「サンダーボルト!!」
「ゴオォ!?!?」
「……え?」
トバリの左手から放たれた雷属性魔法・サンダーボルトは、水に濡れたソードマンに大きなダメージを与えた。
「えええ!? お、おいトバリ、貴様は覚醒者だったのか!!」
「話は後、今はこいつをぶっ倒すぞ!」
「あ、ああ!」
サンダーボルトで焦げたソードマンはそれでも立ち上がった。
トバリは連続でサンダーボルトを放ち、ソードマンに継続してダメージを与えていく。
「シオン、今だ!!」
〈ソードマンの動きが鈍った……。おそらく雷魔法の麻痺が入ったな!〉
まだアドレナリンの効果が続いているのか、シオンがソードマンの左手に片手剣を深く突き刺す。
トバリはニヤリと笑い、無意識に片手剣に雷魔法を纏わせた。
〈これは……まさか!〉
無意識に出た雷属性の斬撃が、籠手ごとソードマンの右手を飛ばした。
宙に舞うソードマンの片手剣。
「ゴオォ!!」
痛みにパニックになるソードマンだが、回し蹴りで2人を蹴り飛ばした。
「「がっ!?」」
〈さ、流石に雷魔法は魔力的にもう無理か!〉
川の中を転がる2人は、なんとか立ち上がり片手剣を構えた。
ソードマンは左足のダメージが大きいのか、そのまま膝をつく。
「「こ、これで終わらせる!!」」
片手剣を両手で握る2人は、そのままヤケクソ気味に飛び掛かる。
2人がソードマンの両足に片手剣を深く突き刺し、トバリが落ちている白銀の剣を拾う。
「トドメだ!!」
ゴブリンソードマンは何かを悟ったのか、目を閉じた。
トバリは息を切らせながら、手に持った白銀の剣を膝をついたソードマンの頭に突き刺す。
〈か、勝ったぁ!!〉
全力を出し切った2人はドロップアイテムを拾って川の外に出てへたり込んだ。
「いっつ! 斬られた背中と腹が痛い」
「わたしは全身が痛いんだが!」
「お、おう、お前、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない! なあトバリ、手当を頼む!」
「それくらい自分でやれよ!?」
笑顔で近づいてくるシオンにトバリがドン引きする。
「チッ! 少しくらいして欲しいんだけど?」
「俺が問題あるんだよ! あ、おい、鼻血のついた手をこっち向けるな!?」
「ザマァー!」
シオンは鼻血を右手につけてトバリに向けた。
その姿にトバリは全力で目を逸らしながら、内心で突っ込んだ。
〈如月がキャラ崩壊してないか?〉
ドン引きするトバリが離れる中、シオンが軽く息を吐く。
「バカ……」
少しだけ頬を赤くしたシオンは、痛みに耐えながら立ち上がる。
ーー
数時間後、天馬市にある市民病院。
怪我だらけでボロボロの2人は、ドロップアイテムや武器をリュックに詰めた後に、救急車を呼び病院に運ばれた。
そのまま手当を受けたトバリとシオンは、病院の医者へ状況を話した。
「……は? 青月山にゴブリンソードマンが出たのかい!?」
「「は、はい」」
「よ、よく無事だったね」
30代前半の男性医者が口を大きく開けた。
別々のベッドに寝っ転がる2人が、死んだ魚のような目を浮かべる。
「え、ええ。意地とヤケクソと奥の手でなんとか倒せました」
「そうか。って、あの、ゴブリンソードマンを倒したの!?」
「「は、はい」」
「すごいね……。じゃなくて、生きていてよかったよ」
医者がホッと息を吐く。
2人部屋の病室で、トバリが申し訳なさそうに口を開く。
「あの、病院代はどうなりますか?」
「そ、そこかい!? ま、まあ、多分だけど、今回は保険が下りるし負担はだいぶ少ないよ」
「よかった……」
安堵したようなトバリに、シオンが苦笑いを浮かべる。
「トバリは庶民的だな」
「名家のお嬢様にはわからないですよ」
「ああ」
シオンは笑顔を隠すために布団を顔に被せた。
その時、病室の扉が誰かにノックされる。
「失礼します。地方騎士の田辺です」
「どうぞ」
椅子に座っていた医者が立ち上がり、ドアを開けた。
外には30代前半くらいの顎鬚が目立つ、男性騎士が病室の中に入る。
「ん? あの、班長さん?」
「き、君は! 昨日、ゴブリンの巣穴を報告してくれた少年か!」
「その節はありがとうございました」
ベッドに横になるトバリは口を動かしてお礼を言った。
「あ、ああ。また君達が関わっているんだね」
「いやその、今回も巻き込まれました……」
「どんだけ不運なんだ!?」
田辺のツッコミに、トバリが顔を窓際のベッドで寝ているシオンへ向ける。
「おいシオン! いつまで寝ているんだよ」
「明日まで寝る!」
「ええ!?」
ヤケクソ気味に叫ぶシオンに、トバリがドン引きした。
その時、空いているドアから筋骨隆々の着物姿の初老の女性が中に入ってくる。
「失礼します。ここに私の孫がお世話になっているとお聞きして来ました」
「えっと? どちら様ですか?」
医者が首を傾げる中、初老の女性が柔らかく微笑む。
「私は如月コトラ。そこで不貞寝しているシオンの祖母です」
「お、お婆様!?」
急に飛び起きたシオンはガクガクと震えながら正座した。
その姿にコトラは冷たい笑みを浮かべる。
「シオン。アナタまた迷惑をかけたのね」
「い、いえ、その」
「退院して怪我が治ったらお説教と折檻は覚悟しなさいね」
「ひいぃ!? か、勘弁してください」
「ダメ。あなたの身にしっかり教えてあげるわ」
シオンは顔を真っ青にしながら震える。
〈こ、この人、目が赤い!? と、なると、覚醒者かよ〉
コトラの赤い瞳を見たトバリは唖然としながら瞬きをする。
「申し訳ありません。少し圧が漏れてしまいましたね」
「は、はい、その、では事情聴取を始めます!」
〈田辺さんありがとう!〉
病室の空気が冷たくなる中、トバリは田辺に心から感謝するのだった。




