第5話・お約束の憑依したら強いはなく、試行錯誤とと鍛錬で少しずつ強くなっていきます!
次の日の日曜日。
4月中旬の朝日が空に昇る中、トバリはジャージに着替えてランニングをしていた。
〈テスタメントソウルは、一応勝てる負けイベントのオンパレードでやり込み勢に熱愛されていたゲーム。それは覚えているし、負けイベを超えたら別のストーリーが起きるのも知っているが、昨日のやつは俺の知っている内容じゃない!〉
汗を流すトバリの顔色はあまり良くない。
「かなりやりこんでいた俺でもわからないストーリーがあるなら、原作知識とは別で分けないといけないよな……」
〈と、なると、ここからはアドリブかよ〉
住宅街にある自宅に戻ってきたトバリは、シャワーを浴びて着替える。
リビングに行くと、30代後半くらいのワカメヘアーの女性がトバリの姿を見て微笑んだ。
「おかえりトバリ。最近はよく走っているけど、鍛えるのに目覚めたの?」
「そんなんじゃないの母さん。それで父さん達は出かけたのか?」
「ええ。あの人はレンとクルミを車に連れて武術道場へ行ったわ」
母親がトバリの分の朝食をテーブルに置いた。
軽く首を振ったトバリは、テーブル席に座りトーストを口にする。
「ふーん。2人も元気だな」
「トバリも前みたいにゲームばかりじゃなくて頑張っているわよ」
「俺はダイエットしているだけだ」
「細身なのにダイエットってガリガリになりそうね」
母親が対面の席に座った。
〈やっぱりこの世界はゲームの世界じゃなくて、ゲームに似たパラレルの日本だな〉
コーンスープを飲んだトバリは軽く息を吐く。
「太るよりマシだよね」
「ふーん。じゃあトバリも武術道場に通う?」
「やだ。俺が行ったらフルボッコにされて門前払いされる印象しかない!」
「いやいや!? そこまで酷いどころじゃないわよ」
「それでも自分のペースで体力作りをしたいんだ」
トバリがベーコンエッグをパンに乗せて齧り付いた。
「ふーん? それならゴリ押しするのはやめておくわ」
「そうして欲しい。っと、ご馳走様」
「はーい。トバリ、お昼はどうするの?」
「今日も外で食べるよ」
「わかったわ」
母親から昼食代の千円を受け取ったトバリは、足早にリビングから出ていく。
「最近のトバリは別人みたいに変わったわね」
リビングで食器を片付ける母親が嬉しそうに呟いた。
ーー
トバリは荷物の入ったリュックを背負い、徒歩30分の場所にある山の中へ来た。
「やっと1人で訓練できる……」
ホッと息を吐いたトバリは、リュックを木の根元に置いてから大きな岩の前に立つ。
左手を向けたトバリは自信満々に叫ぶ。
「サンダーボルト!」
大岩に雷の電撃が突き刺さり、破片が周りに飛ぶ。
トバリはメガネを押さえながら軽く微笑んだ。
「悪くない」
〈サンダーボルトも悪くないけど、ゲームの時みたいな元素技や元素奥義も使いたいな〉
サンダーボルトを大岩に叩き込むトバリは、頭の中で色々と考える。
「基礎型、集中型、拡散型で使い分けるか? いや、他にいろんな型を作れそう」
大岩がサンダーボルトの連打でバラバラに砕けた。
「準備運動も終わったし、あいつのところにでも行くか」
砕けた大岩をよそに、トバリはリュックを持ち徒歩3分くらいの川辺に移動する。
そこにはものすごい勢いで泳ぐシオンがいた。
「まだまだ!!」
「……あ、あの馬鹿はがむしゃらに頑張っているな」
トバリの目の先には、体操服姿のシオンが体力作りをしている。
その姿にトバリが、口を大きく開けて固まった。
「ん? やっと来たか!」
「まだ集合時間の9時にはなってないのに特訓とか、お前は元気すぎるだろ!」
「体力があるのがわたしのいいところだからな!」
シオンが笑顔で川から上がってきた。
「あ、ああ。てかお前、実家で鍛えなくていいのか?」
「別に? 師匠との修行は平日だけだから休日は暇なんだよ」
「そうかい」
目を逸らしたトバリが、背負っていたリュックを地面に下ろした。
「なあトバリ。訓練をするのはいいけど、何をするつもりなんだ?」
「まずは基礎体力作りで素振りや筋トレだな」
「ふーん? ならわたしと模擬戦しないか?」
「アホ。今の俺が近接戦闘でお前に勝つのは難しいだろうが」
トバリがため息を吐くと、シオンがジト目を向ける。
「トバリはヘタレなのか?」
「はいはい、ヘタレですよ。っと、お前も自分の訓練したらどうだ?」
「わたしは頑張っていたから少し休憩させてもらう」
「了解」
シオンは濡れたまま岩に座った。
対するトバリはリュックから鞘付きのゴフデツの片手剣を取り出した。
「へっぴり腰だけど大丈夫か?」
「参考書や剣術動画で予習はしてきたから、多分大丈夫!」
「そ、そうか……。って、トバリは剣術初心者かよ!?」
「ああ!」
剣術の予習をしてきたトバリは、何回か素振りをする。
「おいおい……。貴様は素振りは下手くそだな」
「うっさい。せっかく試しているんだから、集中させろ」
「別にいいけど」
トバリは素振りを繰り返しては、リュックから取り出したノートに書き込む。
〈予習では手首や腰で振ると書いていたけど、やってみた感じは縦振りの時より、斜めから振り下ろす時の方が必要だな。それに水平斬りは片手で持つと引っ張られるし、俺の筋力も足りてないな〉
50回ほど素振りをしたトバリは片手剣を地面に置いて息を吐く。
「やっぱりそう簡単に上手くならないな」
「当たり前だ! てか貴様はわたしに意見を聞かなくてもいいのか?」
「今のところは問題ない」
「ええ!? 普通なら自分より強いやつにやり方を聞くとか指導してもらうとかあるだろ!」
「俺は普通じゃないんだよ」
トバリはノートにペンを走らせる。
〈それに28歳の大人が半分の年齢の子供に剣術を習うとかメンタルがキツイからな〉
ひたすらノートに書き込むトバリに、シオンが不服そうに頬を膨らませた。
「そうかい。なあトバリ、1人で強くなるなんてほぼ無理なのを知らないのか?」
「効率を考えるなら誰かに弟子入りするか、指導を受けた方が早く強くなれるのは知っているさ」
「ならなんで人に頼らないんだ?」
「別に? 俺はゲーマーで、攻略サイトとやり込みで強くなるのが好きなんだよ」
「……どういうことだ?」
首を傾げるシオンに、トバリがニヤリと笑う。
「俺の最終的な夢は最強になり自己満することで、もっと好きなのは上に行くためにやり込むこと。お前にわかりやすく言うと、誰かに引っ張られるより、自分で見つけて強くなるのがいい」
「効率わる!? お前な、個人のやり方より長年の歴史あるやり方をした方が楽だぞ!」
「かもな」
シオンの突っ込みに、トバリは頷く。
「トバリは効率厨じゃないのか?」
「アホ、効率だけで生きてたら人生つまらないだろ」
「それもそうか。って、貴様は本当に13か14歳なのかよ」
「だから28歳と言っているだろ」
「んなわけあるか!? そのわかりやすい嘘をやめろ!」
〈本当なんだけど!?〉
睨みつけるシオンに対して、トバリが驚いた。
「はいはい。っと、もう50回振ってみるか」
「わたしの出番がないのが納得いかないんだが?」
「そもそもお前の武器は日本刀で片手剣じゃないだろ」
「確かに……」
トバリの返答にシオンが真顔で固まった。
その後、2人は素振りや体力作りを続け、お昼に一旦休憩を挟んだ。
〈ん? あれ、なんでゴブリンがいるんだ?〉
少し離れた場所に数匹のゴブリンが現れて、トバリは首を傾げるのだった。




