34話・僕に予算をください! あ、だめですか……。
次の日、ナバールリゾート2日目の朝8時過ぎ。
少し豪華な朝食ビュッフェを食べる、トバリ、シオン、ソラ、河原の4人。
トバリがハーブソーセージを食べると幸せそうに微笑んだ。
「うまい」
「トバリも元気になったみたいでよかったッス」
「あ、ああ。昨日は考え事をしていてごめん」
目を逸らすトバリへ、シオンがニヤリと笑う。
「昨日はわたしの胸の中で泣いていたな」
「なるほど。バカ娘は都合よく記憶を改竄するなよ」
「ああ! わたしの好きにして何が悪い!」
「シオンさんも相変わらずだね」
4人掛けのテーブル席に料理が乗る中、河原が苦笑いを浮かべた。
「それでトバリは何を考えていたんスか?」
「あー、その、言いづらいんだけど……」
「おれは問題ないッスよ」
〈なんで俺の周りは相手が発言の許可を出すんだ?〉
トバリは温かいコーンスープを飲んで、ホッと息を吐く。
「お、おう。昨日会ったことなんだけど、近衛家の姉妹に絡まれてかき氷を不意打ちで顔面に食らったり、姉が妹にめっちゃ怖くて、その殺気をモロに浴びて勝手に死にそうだと怯えていたんだよ」
「なるほど……。トバリさんはマイナス思考が強いッスからね」
「だよな! ったく、トバリはわたしみたいにポジティブに考えよう!」
「「「え? シオンは考えていたの?」」」
「わたしでも考えるぞ!?」
シオンはガリっと不機嫌そうに大きめのソーセージを齧る。
その姿に隣に座るトバリは苦笑いを浮かべた。
「まあでも、今回はシオンのおかげで助かったよ」
「ふむ! トバリは1人で考えずに、もっとわたしに頼れ!」
「あのさシオン。おれを忘れるなッス!」
「悪い悪い! 目の前にいるのに気づかなかった」
イタズラ小僧のように笑うシオンへ、ソラがジト目を向けた。
「帰ったらまた木製メイスでシオンのお尻を強打してやるッス」
「おいこら!? あれはめっちゃ痛いんだぞ!」
「だったら防具を着るか対策しろッス」
「やだ」
首を横に振るシオンへ、河原が真顔になる。
「シオンさん、防具を着ないのは審判をしているおれも心配になるんだぞ」
「別に模擬戦だし、いいだろ」
「よくないよ!?」
河原が頭を抱える中、トバリが同情する視線を向ける。
「河原さん、シオンに言っても無駄ですよ」
「それはわかるんだけどね」
「ったく、わたしだって今日みたいな実戦は防具を着るぞ」
「「「模擬戦の時から着ろよ!?」」」
「やだ」
満足そうにソーセージを食べ終えたシオンがトレイを持ち立ち上がった。
「そんじゃ、わたしは追加の料理をとってくる」
「お前な……。じゃあ俺も行くよ」
トバリもトレイを持って立って、2人で料理を取りに行く。
その姿をソラと河原が嬉しそうに見守る。
「トバリ君も少し復活したみたいでよかったよ」
「ッスね!」
トバリの後ろ姿を見る河原とソラは食事に戻り、飲み物が入ったコップに口をつけた。
ーー
朝食が終わり自分の部屋に戻った4人は、装備に着替えてホテル1階のエントランスで集合した。
「「「トバリ……」」」
「いやあの、どうしました?」
「どうしたじゃないッス! なんでトバリの防具が薄っぺらいんスか?」
「予算の都合だ!!」
シオンは和風の甲冑、ソラと河原は金属製の騎士鎧一式を着ている。
だがトバリは防刃シリーズの青色ジャケット、シャツに黒いズボン、ショートブーツに近い安全靴で左腰にはゴブテツソード、右腰にはソーディアを装備していた。
「予算って、トバリはお金がないの?」
「お前らが金持ちなんだよ!?」
「確かにわたしの実家は金持ちだが、河原さんやソラは違うかも知れないだろ!!」
エントランスのソファー席で叫ぶシオンへ、トバリがジト目を向ける。
「あのな。ソラは叔父さんが鍛冶師で装備を作ってもらい、河原さんは騎士免許持ちの元地方騎士だっただろ」
「……え? 河原さんはともかく、ソラの叔父さん鍛冶屋なのは知らないんだけど!?」
「うん、なんかごめん」「ごめんッス!」
「お、おう。一般家庭の俺の方が申し訳ない」
河原が目を逸らす。
「まあでも、これでも最低限はダンジョンに入れる装備なはず」
「確かに防刃シリーズでも入れはするけど、トバリ君は大丈夫?」
「最悪は奥の手を使いますよ」
「「「普通に大丈夫だ!?」」」
トバリは右腰に装備しているソーディアの柄を軽く撫でた。
「それで河原さん、そろそろ行きますか?」
「だね。みんな、荷物もいいかい?」
「「「もちろん!!」」」
3人ともリュックを背負い、河原へ頷いた。
「それじゃあ、ダンジョン・魚民へ行く前に打ち合わせするよ」
「……え? 直で行かないんスか?」
「ダンジョンに入る前に話し合うのは大切だよ!?」
河原がトバリ達へダンジョン・魚民の情報が載ったパンフレットを渡していく。
「ふむ。ダンジョンはかなり広くて攻略はされてないんだな」
「そうそう。しかも、割と近いところにエリアボスの大部屋があるよ」
「河原さんは魚民に入ったことがあるんですか?」
「ああ。シンラ学園に通っていた時に、修学旅行で入ったよ」
「「「どんな修学旅行なんだ?」」」
首を傾げる3人へ、河原が苦笑いを浮かべる。
「シンラ学園は中央都にあるから、割とココが近いんだよ」
「ああ、それで遊びと鍛錬目的で来たんですね」
「そうそう」
河原が懐かしむようにエントランスの天井を見上げた。
するとパンフレットを読んでいたシオンとソラが、目を光らせる。
「へえー? エリアボスのトライデントシャーマンの槍は割と高く売れるんスね」
「手取り20万なら2体倒せば今回の予算を回収できそうだな」
「お、お前ら、なんで急にやる気になっているんだ?」
トバリが2人の反応を見てドン引きする。
「新しい装備を買うのにお金がいるんスよ!」
「そうそう! よし、このエリアボスを倒しまくるぞ」
「んー。このトライデントシャーマンはゴブリンソードマン並だから、そう簡単には倒せないよ」
「「……え?」」
「ですよね!」
やる気満々の2人が固まり、トバリが頷いた。
「ま、まあ、何はともあれ、話し合いをしてからダンジョンに行くよ!」
「「「はい!!」」」
少しして復活したシオンとソラ、そしてトバリは河原と共にダンジョンに行く前の打ち合わせをしていくのだった。




