33話・シオンさん、ありがとう!
ナバールリゾートのホテル・アクアランスのトバリの部屋。
風呂に入り終わったトバリは、カーテンを上げて星が輝く夜空を見上げた。
トバリの手はかなり震えており、悔しそうに唇を噛んだ。
「どうすればいいんだ!」
雑にベッドに寝転んだトバリが天井を見上げた。
〈理由はあるとはいえ俺は最低なやつだ。しかも、近衛姉妹がいるってことは、俺の死亡フラグも残っているかもしれない〉
トバリが布団に包まり震えた。
「この世界がゲームに似たオリジナルなのはわかるけど、取り巻き2の俺は雑に殺される存在なのかよ」
弱々しくベッドに拳を叩きつけるトバリは、ギリッと歯を鳴らす。
「俺はどうしたらいいんだろうな」
頭の中で考えても答えが出てこないトバリが、苦しそうに呟いた。
その時、部屋のドアが荒々しくノックされる。
「トバリ、入ってもいいか?」
ドアを叩くシオンへ、トバリは立ち上がり近づく。
「……シオンか。悪いけど1人にして欲しい」
「またネガティブな考え事をしているやつをほっとけるかよ」
「なんでわかったんだ!?」
トバリが唖然とする中、廊下にいるシオンがため息を吐く。
「豪華な夕食バイキングで難しい顔をしてたら気づくだろ!」
「ったく、廊下で騒ぐなよ」
「それはすまない。で、早くドアを開けろ」
「お前はマイペースすぎるだろ!?」
頬を引きつらせるトバリが、仕方なくドアを開けた。
すると、しかめっつらのシオンが、部屋の中に入ってきてトバリの手を掴んだ。
「お、おい、何を!」
トバリがギリギリでドアを閉める。
そのままシオンがトバリを部屋まで連れて行き、胸ぐらを掴んで頭突きをした。
「「いったあ!?」」
互いに額を抑えて地面に転がる。
「こ、このバカ娘! 急に頭突きするなよ!」
「うるさい! 貴様がヘタレているから気合いを入れてやったんだ!」
「しばくぞテメェ!」
「フッ! いつものトバリに戻ったな」
「……え?」
シオンが額を抑えながら立ち上がり、トバリに手を伸ばした。
「ほら、いつも通り立てよ」
「お前な……。仕返しだ!」
「ごふっ!? き、貴様、相変わらず容赦ないな」
「悪いが、お前に容赦する気はない」
トバリはシオンの手を借りて立ち上がった後、腹パンをお見舞いした。
その一撃でシオンが苦しそうにお腹を抑える。
「あ、ああ。いつものトバリだ」
「そうかい。で、お前はここに何をしに来たんだ?」
「貴様がヘタレた理由を聞きに来たんだよ」
「おおう。お前、人の話なんて聞けるのか?」
「昔はともかく、今なら聞けるわ!?」
シオンの返答に、トバリは苦笑いを浮かべつつベッドへ座る。
「わかった。それで聞いて欲しいんだけど、お前は『名家の近衛家』は知っているか?」
「ん? 確か近衛家って、日本の首都である中央都の大名家だよな?」
「やっぱりか……。実はお前らが海水浴場へ行っている時に、プールで近衛家の姉妹に絡まれたんだよ」
「は? どういうことだ?」
シオンはトバリの隣に座りジト目を向ける。
「端的にまとめると、妹側にかき氷を不意打ちで顔面にぶつけられて、オモチャ扱いされて、姉がきて妹をお仕置きして、会話に巻き込まれて、逃げてきた、だな」
「お、おう、なんとなくはわかった。てかトバリはソラに続いてまた面倒なやつを引き寄せたな」
「出会った初日に喧嘩を売ってきたお前が言える言葉か?」
「それもそうだな」
「認めるが早い!?」
軽く息を吐くシオンへ、トバリが呆れたように額に手を置いた。
「ああ。それで近衛姉妹と出会ったのはわかったが、貴様はなんでヘタレていたんだ?」
「……それは。近衛姉妹はどっちも覚醒者だったんだよ」
「は? マジで?」
「マジで! しかも姉の方は目がかなり冷たかった」
トバリはお昼のプールを思い出し、体を震わせた。
「お、おう、それでビビったのかよ」
「もちろんビビったのはある。でも近衛姉が『君がシンラ学園に入学したら試合しよう』と言っていたんだよ」
「そうか。で、ボコボコにされる妄想でもしたか?」
「いや……下手したら殺される気がしたんだ。まあでも、相手に悪気がないのはわかるけどな」
「あー。トバリは試合を命のかかった決闘と勘違いしたのか」
トバリが俯く中、シオンがヤレヤレと首を振った。
「それもある。ただ、頭から死亡フラグが離れないんだよ」
「なるほど。トバリはかなりマイナス思考が強いネガティブだし、苦しそうだな」
「ああ。でも、自分で整理して明日には戻すさ」
セミダブルのベッドに倒れ込むトバリへ、シオンが目を細める。
「トバリは人に助けを求めるのが下手くそだな」
「急になんだ?」
「この際だから言わせてもらうが、貴様はわたしをどう思っているんだ?」
「バカ娘」
「そうだけど! わたしが欲しい答えはそれじゃない!」
頭を掻きむしるシオンへ、トバリが体を起こす。
「お、おう、ちなみに答えはなんだ?」
「トバリ! わたしは貴様にとってお荷物か! それとも才能のない足手纏いか!」
「戦闘面やグイグイと引っ張ってくれるのは助かるぞ!」
「なら、なぜ貴様はわたし達を頼らないんだ!!」
「それは」
バツが悪そうにトバリが目を逸らすと、シオンがポロポロと涙を流し始めた。
「確かに、わたしやソラは貴様を振り回したり迷惑をかけてばかりだ! でも、それでも、わたしはお前の友達でありたいんだよ!」
「お前……」
「トバリが何を抱えていて怖いかはわからない。でも、少しはわたし達を信用してほしい!」
シオンが汚く涙と鼻水を流す。
その姿にトバリが、無意識に手を伸ばした。
「アホ」
「いたっ!?」
トバリはシオンの額にデコピンをする。
額を抑えるシオンへ、トバリがぎこちない笑みを浮かべた。
「お前は相変わらずアホだな」
「これでも、わたしは学校の成績は上位だぞ!」
「ああ。だからさ、ポンコツでも前向きなお前は面白いんだよ」
「え?」
固まるシオンへ、トバリがため息を吐く。
「正直、俺は強くなんてない。なんならメンタルはクソ雑魚だけどさ、アホなプライドで痩せ我慢をしていたんだよ」
「はっ! トバリのメンタルが雑魚なのはよく知ってる」
「そうかい。なあシオン、悪いけど俺とチームを組んで助けてくれないか?」
「何を今更。貴様の隣はわたしの特等席だろ」
「シオンありがとう」
「おう!」
服の袖で顔を拭いたシオンが、トバリに抱きついた。
その抱きつきを受け止めたトバリは軽くため息を吐く。
「なあバカ娘。お前の汚い液体が俺のジャージに着いたんだけだ!?」
「今は我慢しろ!」
「ええ!?」
シオンの無茶振りにトバリが叫んだ。
その後、シオンが満足するまで、トバリが抱き枕になるのだった。




