32話・やばい相手と出会ったんだけど!?
納豆県のナバールリゾートにある大型プール施設。
屋台の近くにあるテーブル席で、近衛がトレイに乗っているドリンクLサイズをトバリの前に置いた。
「もしかしてメロンソーダは嫌いでしたか?」
「いや、メロンソーダは好きだ」
「よかったです!」
ニヤリと微笑む近衛にトバリがジト目を向ける。
「いやあの、俺はのんびりプールで泳ぎたいんだけど?」
「ではコレを食べた後に泳ぎますか!」
「ちがーう!? 遠回しに距離を取りたいのに、なんで察しないんだよ」
「ふふっ、察してはいますよ。でも、面白そうなオモチャを逃すわけないじゃないですか!!」
近衛は急にイタズラ小僧のような笑みを浮かべる。
「ウザイ。俺じゃなくてもオモチャはいるだろ」
「ええ。でも、ボクの目についたのが阿笠さんなんですよ」
「お前、ぶん殴ってもいいか?」
「別にいいですよ」
対面の席で近衛が自分の頬を突く。
その姿にトバリは荒くため息を吐き、テーブルに肘をつく。
「お前は初対面の奴に踏み込みすぎだろ」
「あー。なんか阿笠さんは初対面みたいな感じがしないんですよね」
「……は?」
トバリが首を傾げると、近衛がポテトを食べながら微笑む。
「よくわかりませんが、ボクの本能が阿笠さんに興味があるみたいです」
「お前は電波系か、頭のネジがないのか?」
「そうなりますね」
「じ、自分で認めた……」
プール内に熱い風が吹いた。
その中でトバリはドリンクにも口をつけずに近衛を観察する。
〈この青髪に近衛か。やっぱり、あの人の関係者の可能性が高いよな〉
トバリが口元に手を置いていると、近衛が視線を少しだけ落とした。
「急に黙って何かありましたか?」
「悪いけど、もうお前と関わりたくない」
「ええ!? まだ出会って1時間くらいなのに酷いですよ!」
「初対面でオモチャ扱いしてくるやつと付き合いたいと思うか?」
「無理ですね!」
近衛が申し訳なさそうに頭を下げる。
その姿にトバリはため息を吐き、姿勢を変えた。
「そんなわけで俺は帰るよ」
「もう少しだけお話を!」
「やだ」
トバリはドリンクも飲まず立ち上がる。
流石にやらかしに気づいた近衛が、頭を上げて止めようとする。
その時、急に冷たい風がトバリ達の体に届いた。
「やっと見つけたわよスイレン」
「お、お姉様!?」
〈おいおい、マジか。なんで原作で最強クラスの生徒会長がここにいるんだよ!?〉
2人の前に現れた人物は、青髪銀眼でスレンダーな身長170センチほどの高校生くらいの女性。
彼女は冷たい息を吐き、近衛を睨みつける。
「それでスイレン。私が頼んだかき氷はどうしたの?」
「えっと、その、買い忘れました!」
「いや? さっきコイツにブルーハワイのかき氷を顔面にぶつかられました!」
「阿笠さん!?」
「へえー?」
スレンダーな女性が冷たい瞳で、震える近衛を睨みつけた。
「アナタにはお仕置きとして特別な椅子をプレゼントするわ」
「ひ、ひい!?」
笑ってない目のスレンダーな女性が軽く手を振ると、スイレンの椅子の上に分厚い氷が現れた。
「お、お尻が冷たい!?」
「言っておくけど、今のお仕置きはウォーミングアップよ」
「許してください!!」
顔を真っ青にする近衛をよそに、トバリが苦笑いを浮かべる。
「姉にお仕置きされる弟かよ……」
「ん? スイレンは一応女子よ」
「そ、そうなんですね。あの、アナタはどちら様ですか?」
「ああ、ごめんなさい。わたしは近衛ヒョウカ、シンラ学園の高等部に通っているわ!」
「ご丁寧に、自分は阿笠トバリです」
トバリも一礼すると、ヒョウカが申し訳なさそうに目を背けた。
「阿笠さんね。ウチの愚昧が迷惑をかけてごめんなさい」
「えっと、近衛さん……いや、スイレンさんは後でどうなるんですか?」
「スイレンには厳しいお仕置きをするわ!」
「容赦なくやってください」
「もちろん!」
「ちょおおぉ!? 阿笠くん、そこは止めるところですよね!」
氷の椅子に拘束されたスイレンが突っ込む中、トバリがいい笑顔を浮かべた。
「そういえば、さっき自分に殴ってもいいと頬を突き出してましたよ」
「ふーん? 罪状追加ね」
「あ、ボク、終わった……」
涙目になりながら呟くスイレンへ、ヒョウカがため息を吐く。
「大丈夫。命までは取らないわ」
「全く大丈夫じゃない!?」
「あ、あの近衛さん、椅子を持ってきましょうか?」
「ううん! 自分で作るから問題ないわ」
黒ビキニ姿のヒョウカは、軽く手を振り氷の椅子を作り座った。
「え? 冷たくないんですか?」
「冷たいけど修行のためになるでしょ」
「あ、はい。近衛さんは氷属性の覚醒者なんですね」
「そうよ。あと、愚妹と混ざると面倒だし、私のことはヒョウカでいいわ」
軽く微笑むヒョウカに、トバリがため息を吐く。
「無理です!」
「ええ!? そこは頷くところじゃないの!」
「悪いですけど、ほぼ初対面の人を名前呼びできないですよ!」
「確かに……。じゃあ、どうすればいいかしら?」
「妹さんを連れてお引き取りください」
トバリが心底面倒そうにする中、ヒョウカが目を見開いた。
「阿笠さんは、名家の近衛に興味がないの?」
「ないです。なんなら今は迷惑しかかけられてませんよね?」
「それはごめんなさい!」
〈やばい。迷惑をかけられたとはいえ、俺もかなりトゲが出ているな。少し抑えたいけど、かなりムカついてるから止まらない〉
ヒョウカが改めて立ち上がり頭を下げた。
その姿に少し自己嫌悪しているトバリが、バツが悪そうに目を逸らす。
「あの姉様が押されているのは面白いですね」
「スイレン?」
「すみませんでした!?」
スイレンの頭にヒョウカが作った氷の拳でのゲンコツがめり込み、テーブルに沈んだ。
「やっぱり躾が足りないわね」
頭を上げたヒョウカが深くため息を吐く。
「きっちり躾けてくださいね」
「もちろん。その、愚妹がやらかしたお詫びをしたいんだけど何か私にできるかしら?」
「なら、今回の件はそちらへの大きな貸しでどうですか?」
「え?」
首を傾げるヒョウカへ、トバリが頬をつり上げた。
「下手に請求したら後が怖いですし、貸しにしたら気持ちの保険にはなるんですよ」
「阿笠さんがそれでいいなら」
「ええ。そんなわけで自分は泳ぎに行きますね」
トバリはもう一度立ち上がり、2人から離れようとする。
その時、ヒョウカがトバリの顔をジッと見つめた。
「阿笠さんは体を鍛えているのか?」
「いや、その、ほどほどにですよ」
「なるほど……。もし君がシンラ学園に来たら試合とかしたいわね」
「たぶん、フルボッコにされるので嫌です」
「それは残念だ」
含みのある笑みを浮かべるヒョウカへ、トバリは逃げるように場を離れた。
〈なんで原作の生徒会長が……。いや、今は生徒会長っぽくないよな〉
チラッとトバリが振り向くと、氷の椅子を無くしたヒョウカが、左手にトレイを持つ。
次に右手でスイレンの首根っこを掴み、地面を引きずっていった。
「ね、姉様、痛いです!」
「我慢しなさい」
引きずられて悲鳴を上げるスイレンをよそに、ヒョウカが冷たい笑みを浮かべるのだった。




