第3話・魔法の試行錯誤は面白いけど、突然のイベントはやめてくれ!?
阿笠トバリが如月シオンと出会った約1週間後の土曜日。
ジャージ姿のトバリは、天馬市の外れにある山にきており、雷魔法の練習を続けていた。
「螺旋状のサンダーボルトもいいけど、広範囲に拡散させると麻痺がばら撒けそうだな。でも、相変わらず雷属性は強いけど魔力消費が多いな」
朝の10時過ぎ。
トバリは疲労感を感じて、大岩に雷魔法を放つのをやめて地面に座り込む。
〈取り巻き2の阿笠トバリが雷魔法を使うのはシナリオブレイクだよな……。っと、それに如月の下の名前も違ったし、この世界は本当にテスタメントソウルの世界か? いや、あくまで似ているだけかも〉
グルグルと頭の中で考えるトバリは、リュックから水が入ったペットボトルを取り出す。
「ふう、さっぱりわからん!」
水を飲んだトバリは、ズレたメガネを直した。
〈俺が今やれるのは雷魔法の練度を上げること、最低限の近接戦闘ができるようになること。他にはアイツとできる限り出会わないようにする、だな〉
トバリは湿布を貼った頬を撫でる。
「武器か……。今のおこづかいじゃ買えないよな」
リュックの中にある財布の中身を思い出して、トバリは頬を歪める。
すると誰かが悲鳴をあげながら、トバリの方に走ってきた。
「だ、誰か助けてくれ!?」
「ふあっ!? って、あいつかよ!」
運動服姿のシオンが、片手剣や短剣や棍棒、バックラーを持ったゴブリン達に追いかけられていた。
〈おいこら!? ゴブリンってゲームでは単体は雑魚だけどダンジョンなら無限湧きレベルで増える奴らじゃん! てかなんで外なのにゴブリンが5匹もいるんだよ!〉
現実に突っ込んだトバリは、リュックを手に取り岩の上に上がった。
「き、貴様は! こいつらをなんとかできないか!」
「お前が腰につけている木刀を使って倒せよ!」
「無理だ!」
「諦めるの早すぎるだろ!」
同じく岩の上に登ってきたシオンが顔を真っ青にしながら首を横に振る。
身長1メートルほどの緑色の肌に腰巻き、それぞれの武器を持つゴブリン5匹は岩の上には上がらず、2人を見て舌なめずりをしていた。
「おいシオン! なんで魔物のゴブリンが外にいるんだよ!」
「そ、その、山の中に洞穴があって、興味本位で入ったら、こいつらがいてな。で、逃げたら貴様と出会ったんだよ」
「……アホか」
「今回に関しては本当にすまない!」
シオンが申し訳なさそうに頭を下げた。
「マジでどうする?」
「実家に連絡するにもスマホのバッテリーがないしな」
「おいこらポンコツ! せめて充電してから山にこいよ」
「返す言葉もありません」
三角座りするシオンに、トバリがジト目を向ける。
「で、こいつらはどう倒す?」
「今のわたし達だけで倒すのは無理だろ」
「だよなー」
トバリはため息を吐きつつ、リュックのチャックを開けて中身を確認する。
するとお昼ご飯用に持ってきたコンビニの唐揚げ弁当と、トマトジュース、緑茶を見つけた。
「よし、早めの昼ごはんでも食べるか!」
「貴様!? こんなやばい時に昼ごはんなんて食べるな!」
「嘘だよ! それに、岩を取り囲むゴブリンは5匹だけだろ」
「は? 貴様は何を言いたいんだ?」
首を傾げるシオンに、トバリが頬を緩める。
「不意打ちで1匹ぶっ倒して、その後に削ればいいだろ」
「……なるほど。貴様もアホか」
「お前はここでなぶり殺される方がいいのかよ」
「それは! なら、わたしはどう動けばいいんだ!」
シオンは体を震わせながらも、覚悟を決めたように頷く。
「悪いけどお前の木刀を借りてもいいか?」
「わ、わかった」
シオンは腰につけていた木刀をトバリに渡す。
〈雷魔法はこいつに見せたくないし奥の手にして、今は木刀でやるしかないか〉
トバリは岩を取り囲む5匹のゴブリンのうち、片手剣を持つ相手に上から飛びかかった。
「はあぁ!」
片手剣持ちのゴブリンは急な反撃に反応できず、トバリの振り下ろしを脳天に受けた。
「気持ち悪!?」
頭から血を流して倒したゴブリンを見たトバリは、片手剣を拾ってすぐに岩の上に登り直す。
「ほ、本当にゴブリンを倒した……。って、なんで上に戻って来るんだよ!」
「今はヒットアンドアウェイだよ!」
「な、なるほど! つまり、今みたいにゴブリンを倒していくのか?」
「いや、相手も警戒してるし無理。それと木刀ありがとう」
「あ、ああ」
片手剣を持ったトバリは、軽く息を吐く。
「そんなわけで、残りは4匹になったからお前も戦えよ」
「もちろん! それで、わたしが相手するのは2匹ずつでいいんだよな?」
「お前、状況の飲み込みが早いな」
「これくらいは当たり前だろ」
〈やばい。すごい気持ち悪いけど、今は生き残るために頑張るしかないよな……〉
木刀を持つシオンが、岩の下で怒っているゴブリンを睨みつける。
トバリが軽く息を吐き、震える手で片手剣を持ちながら叫ぶ。
「いくぞ!」
「おう!」
2人が右と左で別れた後、岩の下に降りた。
待ち構えていたゴブリンは、顔を真っ赤にして2人に襲いかかる。
「悪いがリーチは片手剣の方が長いんだよ!」
トバリは片手剣を両手で持ち、短剣持ちのゴブリンの顔面を下手くそな突きで強引に貫いた。
そのまま片手剣を捨てて、別のゴブリンの方へ向く。
「さ、さあこいよ雑魚」
短剣を拾ったトバリに、棍棒とバックラーを持つゴブリンが睨みつけた。
「わたしだって負けられるか!」
対するシオンも別の短剣持ちゴブリンの飛びかかりを回避して、木刀で頭を強打した。
ゴブリンが落とした短剣を拾い、首元に刺して倒す。
シオン側に残った棍棒持ちのゴブリンが、茶色い目を光らせた。
「「やばい!?」」
トバリはゴブリンの棍棒の振り下ろしを後ろに飛んで回避してから、あえて少し距離を取る。
そのまま木の後ろに隠れていたトバリは、追いかけてきたゴブリンを不意打ち気味に短剣で首元を刺した。
倒したゴブリンは紫色の煙になって消えて、魔石やドロップアイテム、そして武器を残した。
〈マジで死ぬかと思ったけど、武器が手に入ったし良かったかもな〉
トバリは地面に落ちた片手剣、短剣は鞘に戻して、バックラーも拾う。
反対側にいるシオンは最後のゴブリンの棍棒振り下ろしをしゃがんで回避した後、足払いで転げさせる。
「これで終わりだ!」
シオンはゴブリンの後頭部に短剣を突き刺してトドメを刺した。
「「た、助かった……」」
体力と神経を使ったのか、2人はドロップ品を回収してから岩の上に戻り、へたりこんだ。
「おい、貴様。いや、トバリ、今回は助かった」
「そうかい。って、自分で倒したゴブリンのドロップアイテムはもらうぞ」
「ああ」
ゴブリン鉄シリーズの装備を持ったトバリは、何を使うか考え始める。
〈定番は片手剣だけど、少し使いづらい。棍棒はいいけどダサいし、安定なら短剣とバックラーか? うーん、今はメインを片手剣にして、サブに短剣とバックラーにしてみるかな?〉
頭の中で悩むトバリに、隣に座るシオンがニヤリと笑う。
「トマトジュースをもらうぞ」
「おいこら!? 少ない物資をとるなよ!」
「まあまあ!」
どこか嬉しそうに笑うシオンにトバリはジト目を向ける。
「休憩が終わったらゴブリンがいた洞穴に案内してもらうからな」
「別にいいが、どうするつもりだ?」
「さあな?」
緑茶を飲んだトバリは、どこか楽しそうに息を吐いた。
〈この世界は一部はゲームに近いけど大きく違うよな。ならダンジョンで実戦経験とレベリングと言いたいが、レベルや熟練度の数値を見られないし、やっていくしかないな〉
現実情報を整理しながら、トバリはクールダウンするために深呼吸を繰り返す。
「おいトバリ! まさか、洞窟でゴブリン狩りでもするのか?」
「アホ! ゴブリンが出る洞窟を見つけたら、国の騎士に通報するんだよ!」
「なるほど!」
トバリの意見に納得したのか、シオンが頷いた。
〈実際はレベリングしたいけど、ここは死んだら終わりの現実でゲームじゃない。なら、今はこの武器だけもらって、山の中で安全に修行した方がいい〉
頭の中で状況整理したトバリは、体力や魔力が回復するまで休憩する。
その後、2人は洞穴を探すために山の中を回るのだった。




