26話・お願いと秘密をバラしたけど、これでよかったかな?
如月訓練施設内にある第8道場。
お願いするように手を合わせる河原へ、トバリが満面の笑みを浮かべる。
〈俺の内面はほぼ話してないけど、雷魔法の秘密を言わされたし、どうするかだな〉
トバリはコクリと頷いた。
「あくまで河原さんができる範囲ですが、来週の火曜日から木曜日に、隣の納豆県にあるダンジョンリゾートへの引率をお願いします」
「……え? そこってナバールリゾートかい?」
「はい! なお、やってほしいのは親の許可取りの同席、車の運転、ホテルの予約、ダンジョンに入る時の付き添い、その他の大人の力が必要になるところですね」
「いやいや!? 確かに出来ないことはないけど、お金はどうするんだい!」
河原は焦ったように言葉を返すと、トバリはニヤリと笑う。
「実は昨日、青月山で大物のクマを倒しまして。その報酬が30万円あるので、費用の大半はこちらで持ちますよ」
「なら、大丈夫か?」
トバリはいい笑顔を浮かべる中、隣にいるソラが肩を突いた。
「2人だけでナバールリゾートへ行くんスか?」
「ん? ああ、ソラへの願いの一つに付き添いをお願いしたかったんだよ!」
「おおお! もちろん引き受けるッスよ!」
「もう1人増えた……。まあでも、オレの負担が増えるだけか」
河原が苦笑いでため息を吐く。
目を輝かせるソラは、トバリの肩を優しく掴んだ。
「うんうん! じゃあ今週の土曜日にショッピングモールへ買い物に行きたいッス!」
「お、おう。荷物は自腹だからな」
「わかっているッスよ」
ソラは楽しそうに微笑む。
その姿にトバリは目を逸らし、河原の方を見る。
「河原さん、土曜日の買い物に付き合ってくださいね」
「あ、ああ。車はどうするんだい?」
「費用は俺が出して、名義は河原さんでレンタカーを借りましょう」
「それなら、車は大きいやつのほうが良さそうだね」
「ええ」
諦めた表情の河原へ、トバリが笑顔で頷いた。
「トバリ、ありがとう!」
「別に? 男2人で行くよりお前がいてくれた方が楽しいんだよ。てかソラ、お前は男2人と旅行してもいいのか?」
「知らない男性なら嫌ッスけど、トバリと河原さんなら問題ないッスよ」
「「そ、そうか? お前、気をつけろよ」」
「え?」
ソラの言葉にトバリと河原がドン引きする。
「あ、あの、新道さん。君は男性への免疫があるのかい?」
「んー? そもそもおれは漢になりたいんスよ!」
「「どういうこと?」」
トバリ達が首を傾げると、急にソラが真面目な表情を浮かべた。
「おれ、昔から体が大きくて小さい頃は女子に『お前は女じゃない!』とよく言われていてハブられていたんスよ」
「な、なるほど……。辛いなら無理に話さなくてもいいぞ」
「ギリギリ大丈夫ッス! それで女子が苦手になって、自分のことを『おれ』と言ってかっこいい漢を目指すようになったんス」
どこか辛そうなソラへ、トバリがぎこちない顔になった。
「正直、ソラの苦しみは俺にはわからない」
「そうッスよね」
「でもさ、今のソラはすごくかっこいいぞ」
「え?」
ソラが顔を上げると、笑顔のトバリが瞳に映った。
「河原さんはともかく、俺は馬鹿な変人で厨二っぽいところもあるから、お前が変でも気にしないぞ」
「と、トバリ……。励まし方が下手ッスね」
「まあな」
道着の裾で目を拭いたソラが、硬めに微笑んだ。
「なんでトバリはおれに優しくしてくれるんスか?」
「べ、別に優しくはしてない。ただ俺が言いたくなっただけだ」
「ツンデレッスか? まあでも、トバリも変人なのはよくわかったッスよ」
「そうそう。個人的に人生は下手に真面目に生きるより、楽しく生きる方が面白いだろ」
「確かに! トバリは合理的っぽいのに、微妙に非効率ッスよね」
ニヤリと笑うトバリはソラへ右手を差し出す。
「かもな」
「ふふっ! トバリは不器用だけど優しいッス」
「アホ。俺は優しくないぞ」
ソラは優しくトバリの手を握った。
「優しいッスよ」
「お、おう。話を変えるが、他に思うところはあるか?」
「んー。後は、漢を目指すと決めた時から体を鍛え始めたッスけど、これがめっちゃ楽しくて今では筋肉が増えるのが嬉しいッスね」
「すでに人生を楽しんでいるじゃん!?」
唖然とするトバリへ、ソラが軽く頷いた。
「はいッス! でも、トバリと一緒に鍛えるのもすごく楽しいッスよ」
「そ、そうか。なら、河原さんの許可があったら、この道場も使って鍛えるか」
「そうッスね! 河原さんもそれで大丈夫ッスかね」
「あ、ああ。前日に連絡してくれたら、できる範囲で道場を空けておくよ」
「「ありがとうございます!!」」
トバリとソラが河原へ頭を下げた。
すると河原が、笑顔で立ち上がる。
「話はまとまったし、そろそろ午後の鍛錬に移ろうか」
「「はい!!」」
手を離したトバリとソラも頷き、ペットボトルや荷物を壁際に置いて木製の武器を手に取る。
その時、鍵がかかった道場の扉を誰かがドンドンと叩き始めた。
「トバリ、河原さん、扉を開けろ!」
「「あ……」」
「この声は誰ッスか?」
「俺が言っていた友人のバカ娘だよ……」
「理解したッス」
露骨に目を逸らすトバリをよそに、ソラが鋭い目を浮かべた。
少しして扉を叩く音が強くなったので、河原が仕方なく鍵を開ける。
「シオンさん、どうぞ」
「河原さん、ありがとう! って、トバリの横にいる女は誰だ?」
「今、なんて言ったッスか?」
「え?」
シオンの一言にソラの顔色が変わり、鋭い目になった。
〈やばい!? なんとなくだけど、ソラを女性扱いするのは本人の地雷だよな〉
トバリの背中に冷たい汗が流れる中、シオンが首を傾げる。
「ああ、もしかして高校生の方? じゃあ敬語を使ったほうがいいですか?」
「おれはこれでもトバリと同じ中2だ!」
「……え? じゃあわたしとも同い年じゃん!?」
唖然とするシオンへ、ソラは冷たいオーラを出し始めた。
その冷たい空気にトバリと河原は壁際へ避難する。
「く、クーラーの効きすぎかな?」
「たぶん違います。それと今は2人から距離をとりましょう」
「それがいいね」
逃げる男性陣をよそに、ソラが出入り口に立つシオンにメイスを向ける。
「君に模擬戦を申し込みたいッス」
「へえー? 面白そうだな」
「「普通に乗るんかい!?」」
ソラの申し出に、獰猛な笑みを浮かべたシオンが頷く。
そのままソラとシオンは木製の武器を持ち、互いに睨み合うのだった。




