25話・ソラとの模擬戦……こっちもしんどいわ!!
如月訓練施設の敷地内にある第8道場。
トバリとソラは互いに様子見なのか、身体強化は使わず模擬戦を行なっている。
「やっぱりトバリさんは素早いッスね!」
「そりゃどうも!」
横振りのメイスをトバリはしゃがんで回避してから足を引っ掛けた。
ソラは足がもつれて尻餅をつくが、すぐに立ち上がる。
「いっつ! なんてか、やりにくいッス!」
「おいおい……。脇腹がお留守だぞ!」
「ぐっ!? 仕返しッスよ!」
トバリが木剣でソラの脇腹を強打する。
プロテクターありとはいえ、痛いのかソラは顔を歪めた。
だがソラもカウンターで大盾を使い、トバリを攻撃する。
「ガッ!? ガードの上からこれかよ……」
ソラの大盾殴りをトバリは木剣で防御するが、少し後ろに飛ばされた。
「ふふん! 筋力には自信があるんスよ!」
「お、おう。てか俺より10センチくらい身体が高くないか?」
「ええ! おれは175センチッス」
「……あ、ああ、本当に10センチ違う」
身長165センチのトバリはショックを受け、後ろに下がりながら死んだ魚のような目を浮かべる。
対するソラは強打された脇腹をメイス持ちの右手で軽く撫でてから、ニヤリと笑う。
「トバリさんを相手するのは楽しいッス!」
「お前も戦闘狂か?」
「おれは自分を鍛えるのが大好きなだけッスよ」
「そうかい!」
ソラが軽く息を吐き、トバリはどこか嬉しそうに頬を緩めた。
互いに前に出て、トバリの片手剣とソラのメイスがぶつかる。
「がっ!?」
「このまま押し切るッス!」
「させるか!」
力勝負はソラに軍配が上がり、トバリの木剣を吹き飛ばした。
だがトバリは反射的にソラの右腕を掴んで、身体強化ありで投げ飛ばす。
「やっぱりタダではやられないッスか!」
ソラも身体強化を使い、空中で体勢を整えて着地した。
トバリは壁に立てかけられている別の木剣を手に取り、切先をソラへ向ける。
「悪いが俺も本気で勝ちたいんでな!」
軽く息を吐いたトバリが、床を蹴りソラへ接近する。
ソラは大盾を前に突き出し、トバリの一撃に備えた。
「甘い!」
「なっ!? それ、ありッスか!?」
相手の防御を見たトバリが、大盾の下部分に身体強化ありの蹴りを入れる。
大盾のバランスが崩れたソラが、メイスで反撃するが、トバリは読んでいたのか、ギリギリで回避した。
「もらった!!」
トバリは時計回りに水平斬りを放ち、ソラの脇腹をもう一度強打した。
「うぐっ!? まだまだ!」
強い痛みを感じたソラだが、歯を食いしばり逆時計回りをしながら大盾を振り下ろした。
その一撃を後ろに下がって回避したトバリは、ニヤリと笑いソラの軸足へ蹴りを入れる。
「え?」
ソラはポツリと呟き、体のバランスを崩して前に倒れた。
トバリはチャンスと思い、倒れたソラの首元に木剣を置く。
「俺の勝ちだな」
「ううっ! ま、負けたッス!」
木剣をソラの首元から離したトバリは、含みのある笑みを浮かべ審判をしている河原の方へ向く。
「河原さん、俺の勝ちですよ」
「あ、ああ。ただ、悪いけどオレができる範囲の願いだぞ」
「わかってます」
河原の願いも虚しくトバリが模擬戦を勝利した。
そのままトバリが口元に手を置き考える中、ソラが立ち上がりメイスと大盾を構える。
「トバリさん、2戦目をやるッスよ」
「……え? いやあの、賭け勝負は最初だけだろ」
「そんなことは言ってないッス!」
「「はい?」」
トバリと河原が首を傾げると、ソラがニヤリと笑う。
「そんなわけで2戦目をやるッスよ!」
「待って待って!? そうなるとオレの負担が大きくないか?」
「じゃあ、トバリさんが勝ったらおれができる範囲で好きな願いを叶えるッスよ」
胸を張るソラへ、トバリがため息を吐く。
「悪いけど俺は28歳だから、中学生には興味ないぞ」
「ふむふむトバリさんは28歳……? いや、おれと同級生で28歳はないッスよね!?」
「精神的に28歳なんだよ」
「そういう厨二病設定なんスね!」
〈前世は本当に28歳のサラリーマンだったのに、なんで信じてくれないんだよ!?〉
ショックを受けるトバリをよそに、ソラがメイスと大盾を軽く振り始めた。
「ほらほら! 早く2戦目をやるッスよ!」
「あー、もう! わかった」
ヤケクソ気味に叫ぶトバリは、少し距離を取り木剣を構えた。
2人のやりとりに河原が苦笑いを浮かべる。
「トバリ君とソラさんは相性が良さそうだね」
河原は息を吐き、トバリとソラを交互に見る。
「2人とも、2戦目の準備はいいかい?」
「はい!」「おす!」
トバリとソラが返事をした後、河原が真顔で右手を上げた。
「それでは模擬戦開始!」
河原の合図でトバリとソラは、気合を入れて2回目の模擬戦を始めた。
ーー
追加の模擬戦と午前の訓練を終えた正午の12時半。
事前に用意した昼食を食べ終えた3人は、道場の中央に座った。
「3勝2敗か……。ソラさんに勝ち越せたのはいいけど、だいぶきつかった」
「おれだって簡単に負けるつもりはないッスからね」
お茶を飲むソラへ、トバリはジト目を向ける。
「それでソラさんは、俺になにを願うつもりだ?」
「元々の話に出ていたトバリさんの奥の手、二つ目はおれのことはソラと呼び捨てして欲しいッス!」
「お、おう? 呼び捨てっていいのか?」
「もちろんッス! まあでも、おれもトバリと呼ぶッスよ」
「あ、ああ、どうぞ」
ぎこちない笑みのトバリが頷く。
「はい! じゃあトバリ、改めてよろしくッス!」
「ああ、こちらもよろしくなソラ!」
「うす!」
ソラとトバリが嬉しそうに握手する。
そんな中、河原がトバリ達へ満面の笑みを浮かべた。
「2人とも仲が良くていいね!」
「はいッス! あ、それでトバリ、例の奥の手を見せてほしいッス」
「あ、ああ、でも驚くなよ」
「「はい!!」」
真顔で頷くソラと河原を見たトバリは、覚悟を決めて眼鏡を外し、黒いカラコンも外した。
カラコンをケースに戻して顔を上げると、トバリの金色の目が現れる。
「その目、まさか!」
「ええ! 俺は雷魔法の覚醒者ですよ」
トバリはコンタクトケースを地面に置いた後、眼鏡をかけ直してから左手に雷を纏わせた。
その姿に河原は固まり、ソラは目を輝かせる。
「おおお! トバリはやっぱりすごいッスね」
「え……。なんでお前はマイナス思考に引っ張られないんだ?」
「ん? だって、トバリが雷魔法の覚醒者とおれがどう感じるのは別じゃないッスか」
「そ、そうか」
トバリが戸惑っていると、ソラが笑顔で頷いた。
「しっかし、トバリはなんで雷魔法を隠しているんスか?」
「それは、俺が雷魔法に覚醒した理由が厳しい鍛錬の結果じゃなくて、朝起きたら使えるようになってたからだな」
「はい? 河原さん、そんなことはあるんスか?」
「え、その、オレの知り合いでも起きたら覚醒していたやつは一応はいたぞ」
「ふーん。何はともあれ、トバリさんはすごいッス!」
ソラの高いテンションにトバリは、目をウルウルとさせた。
「ソラは馬鹿だな」
「うん。でも、トバリさんだって馬鹿じゃないッスか」
「かもな」
トバリは黒コンタクトを付け直した後、ぎこちない笑みを作った。
「か、雷魔法の覚醒者なのには驚いたけど、これでトバリ君の奥の手が知れて良かったよ!」
「あの、河原さん。なんでホッとしているんですか?」
「え?」
復活したトバリがニヤリと笑い、河原が固まった。
「ああ! トバリには河原さんへの願い券が1つとおれに2つあるッスね」
「忘れていた!? トバリ君、甘めのやつを頼むよ」
「どうしましょうかね?」
トバリは最高に楽しそうな笑みを浮かべる中、河原が頼み込むように頭を下げるのだった。




