18話・シオンが意外と話が通じて良かった!
如月家の屋敷、客室。
朝食を食べるトバリの対面にいるシオンが、不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「なんでトバリはわたしを置いて朝練に行くんだよ」
「お前が気持ちよさそうに爆睡していたからだろ」
「それなら起こしてくれよ」
「やだ」
トバリは味噌汁を飲みホッと息を吐く。
「ひどい!? トバリはわたしのことをどう思っているんだ!」
「バカ娘」
「あ、はい。ごめんなさい!」
冷たいトバリの一言に、シオンが申し訳なさそうに頭を下げた。
「まあでも、慣れて来たけどな」
「う、うん。それで今日は何をするつもりなんだ?」
「知り合いから山の調査は今日の昼に終わると聞いて、そこに行くつもりだ」
「ふーん? わたしも行っていいか?」
満面の笑みを浮かべるシオンへ、トバリが首を傾げる。
「んー……。別のやつと約束しててな」
「ええ!? トバリはわたし以外に友人がいたの!?」
「ひどいな!? 俺だって友達くらいはいるぞ」
〈まあでも、学校では浮いているし浅い関係が多いんだけどな〉
トバリはシオンから目を逸らし、焼き鮭を食べた。
「そう。じゃあ、今日は自主練しとく」
「やけに素直だな」
「ふふん! トウカは昨日の折檻で当分は座れないはずだから、今のうちに模擬戦を仕掛けて2勝目を取りたいんだよ」
「おおう。絡め手を使い始めたな!?」
「お前のおかげだ」
ドヤ顔のシオンにトバリが苦笑いを浮かべる。
「な、なるほど。お前も頭が柔らかくなって来たな」
「まあな! それでトバリはこの後どうするんだ?」
「一旦家に帰って荷物の整理とかしてから、現場に向かうぞ」
「わかった! 昨日は無理言ってすまない」
「いやいや。美味しいご飯と温かい布団をありがとう」
「おう! またこいよ」
笑顔で手を振るシオンに、トバリもつられて頬を緩めて手を振った。
そのまま荷物を持って廊下に出たトバリは、軽く息を吐いた。
〈原作に新道ソラなんていなかったよな……。ほんと、俺の想定通りには動かないからリアルは楽しいな〉
トバリは軽くスマホのメッセージを見た後、柔らかく微笑んだ。
ーー
如月家から自宅に戻ったトバリは家族と軽く話した後、荷物を整えて青月山の出入り口へ向かった。
〈しっかし、シオンやトウカを見る限り如月家は教育をしっかり……いや、考えると怖いしやめておこう〉
トバリは頭を振った。
「あー! トバリさん、こっちッス!」
「お、おう、新道さんは元気だな」
「同い年なんだしソラでいいッスよ」
「いや、あの……」
「ソラ」
「は、はい、ソラさん」
ソラからの冷たい笑顔に、トバリはビビりながら頷く。
「ッス! トバリさん、騎士さんから入山OKが出たので早く入るッスよ」
「あ、ああ。って、ソラさんは元気だな」
「筋肉と体力はおれの自慢ッス」
トバリの手を掴んだソラは笑顔で引っ張る。
パワーのある引きに、トバリは戸惑いながら息を吐いた。
「お、おう。ソラさんはなんで鍛えるのが好きなんだ?」
「それは……。おれは生まれた時からガタイが良くて、それで小さい頃に父さんのスポーツジムに行って楽しかったことがスタート、ッスね!」
「な、なるほど! かなりいいと思うぞ」
「ありがとうッス!」
〈あ、うん、なんか俺はフォローばっかりしてないか? 本当ならここまでやるつもりがないのに……〉
頬を引きつらせるトバリに対して、ソラが屈託のない笑みを浮かべる。
「お、おう。ソラさん、いつまで俺の手を掴んでいるんだ?」
「ああ、ごめんなさいッス! やっぱり嫌だったらッスか?」
「んー。いや、単純に関係がまた浅いからグイグイ来られるのに驚いているだけだ」
「なるほど! じゃあ、少しずつトバリさんを知りたいッス」
キラキラと目を輝かせるソラに、トバリが言葉を返す。
「お、おう、友達としてよろしくな」
「はいッス!」
〈よし、変なフラグを立てなくてよかった〉
トバリはホッと息を吐き、ソラは手を離した。
2人は少し歩いて、青月山の出入り口にある駐車場へ到着した。
「騎士は帰ったのか?」
「そうみたいッスね」
大きな駐車場には騎士の車両は残っておらず、2人は首を傾げた。
そのまま2人が山に入ろうとした時、50代くらいの警備員が待機所から出て来る。
「2人とも、今から青月山に入る気かい?」
「え、ええ。そうですが、何かありましたか」
「うむ。青月山にあるダンジョンは騎士団の看板があるし、入るなよ」
「そもそもおれ達は許可証も免許証もないから、ダンジョンに入る気はないッス」
「ならよかった」
警備員のおじさんが息を吐き、軽く一礼した。
「気をつけろよ」
「「はい」」
黄色い目を太陽に光らせた警備員が、待機所へ戻っていく。
「あのお爺さん、おれ達を心配してくれたんスね」
「かもな」
〈それにしてもあの警備員さん、目の色が黄色だったよな……〉
トバリが口元に手を置いて考える中、ソラが山を見つめる。
「トバリさん、行くッスよ」
「あ、ああ、わかった」
テンションが高いソラにつられて、トバリも頷く。
2人は自販機で飲み物を購入した後、騎士団の調査が終わった青月山へ入山するのだった。




