17話・逃げたはずなのに、別のキャラの濃い人が出てきたんだけど!?
次の日、日曜日の早朝。
トバリは私服に着替えてゴブリンソードを左腰に装着した後、如月家の屋敷を出て徒歩5分の場所にある青月山の出入り口に来た。
〈雲ひとつない晴天。散歩するには気持ちいい朝だな〉
トバリは客室の布団で爆睡するシオンを思い出しながら、歩みを進める。
すると地方騎士達が拠点にしている駐車場から、女性の声が聞こえてきた。
「騎士さん。まだ青月山には入れないんスか?」
「ダメだ! それに君はまだ中学2年生だったよね」
「それでも筋肉を鍛えるために山へ入りたいんス!」
「普通にスポーツジムに行けばいいだろ」
身長175センチくらいある筋骨隆々の赤髪サイドテールの女性が、出入り口にいる男性騎士にお願いするように手を合わせた。
「スポーツジムじゃ甘いんスよ!」
「そ、そうか……。じゃなくて、もう少しで調査は終わるから今は待っててくれ」
「ええ!?」
門前払いを受けた赤髪女性は、肩を落として出入り口から離れていく。
その姿を少し離れた道路で見ていたトバリは、露骨に目を逸らす。
〈下手に関わると面倒そうだな〉
トバリは散歩目的で歩道を歩き、騎士から離れた赤髪女性とすれ違う。
すると、彼女がトバリの顔をジッと見て腕を掴んだ。
「え、ちょっ!? 急になに!」
「その装備! 眼鏡さん青月山に入りたいんスか?」
「ちがーう!? 俺は散歩目的で歩いているだけだし、それにこの片手剣は自衛用だ」
「なるほど……。つまり、眼鏡さんは戦闘はできるんスね」
〈なんか、コイツはシオンとは別のタイプでやばそうだな〉
トバリは赤髪の女性に視線を向ける。
彼女は白銀の騎士鎧一式、背中には大盾を背負っており、左腰には金属メイスを装備している。
その姿にトバリは、掴まれた腕を見て冷や汗を流す。
「あ、あのさ、初対面の人の腕を掴むのは強引すぎないか?」
「ああ! ごめんなさいッス!」
赤髪女性が申し訳なさそうに手を離し、トバリは腕を軽く回した。
「ふう。じゃあ、俺はこれで!」
「待ってッス!」
「ごふっ!? 急に襟首を掴むなよ!」
ジャケットの襟首を掴まれたトバリが、首元を抑えた。
「ごめんッス! でもおれの話を聞いて欲しいんスよ」
「いや待って! 初対面を相手に踏み込みすぎだろ」
息を整えるトバリに、赤髪女性が首を傾げる。
「えっと? 眼鏡さんは天馬第3中学の生徒ッスよね?」
「そうだけどなんで知っているんだ!?」
「やっぱり! 音楽の選択科目で別クラスの眼鏡さんの顔を見たことがあったんスよ!」
「は? じゃあ君はそのガタイの良さで俺と同じ中2なの?」
「はいッス!」
満面の笑みを浮かべる赤髪女性に、トバリが口を大きく開けた。
「ええ……。赤髪さんの見た目的に高校生と思ったんだけど?」
「よく言われるッス。それで眼鏡さん、お時間は大丈夫ッスか?」
「無理と言いたいけど、逃げたらまた捕まえるよな」
「うす!」
赤髪女性の笑顔に、トバリがため息を吐く。
「ハァ……。わかった、話には付き合うけど君の名前は?」
「おれは新道ソラ、ッス!」
「新道さんね。俺は阿笠トバリだ」
「トバリさん……。よろしくお願いします!」
「あ、ああ」
ソラが柔らかく微笑む中、トバリがぎこちない笑みを浮かべた。
「それで、新道さんは何でそこまで青月山に入りたいんだ?」
「ふふふっ! 実は噂で青月山に魔物のゴブリンが出たらしいッスから、実戦目的で来たんス!」
「……あ、はい。ちなみに最近知ったのか?」
「いや? 前から知ってはいたんスけど、夏休みになったんで突撃しにきたんスよ」
「そういうことか」
トバリとソラは近くのベンチに座った。
「しっかし、細身のトバリさんが鍛えているなんて知らなかったッスよ」
「これでもやり込みで鍛えるのが好きだからな」
「おお、おれと一緒ッスね!」
「な、なんか違う気がする」
黒い瞳を輝かせるソラに、トバリがドン引きする。
「大元は同じッスよね?」
「新道さんはゴリ押しが好きだな!?」
「はいッス!」
「認めるの早いな……」
ソラは笑顔を浮かべ、トバリの手を取る。
「それでトバリさん。山に入るにはどうすればいいと思うッスか?」
「魔物と戦いたいなら如月訓練施設のシミュレーション室に行けば良くない?」
「おれは本物の魔物を殴って自分の筋肉と戦闘力を鍛えたいんス!」
「こ、こだわりが強いんだな」
トバリが呆れたようにため息を吐く。
「うす! トバリさん、青月山に入る方法は思いついたッスか?」
「ない!」
「ですよね! 仕方ない、いつもの筋トレで我慢するッス!」
立ち上がったソラにトバリは、掴まれたままの手を引っ張られた。
「新道さん。俺の手を離してくれないかな?」
「ああ、ごめんなさいッス!」
「別にいいけど、他の人にすると勘違いされるぞ」
「え? トバリさんはおれを女性として見るんスか?」
冷たいオーラを出すソラに、トバリがぎこちなく笑う。
「せ、性別の問題じゃなくて、ほぼ初対面の距離として問題なんだよ」
「なるほど! それならよかったッス」
ソラは睨みつけるのをやめて、柔らかい雰囲気に戻った。
「お、おう。新道さんが急に雰囲気が変わってびっくりしたぞ」
「おれは女性扱いされるのが嫌いなんスよ……」
「そうか。理由はわからないけど、何かあったんだな」
「は、はい! トバリさん、ありがとうッス」
トバリの返答にソラは軽く微笑んだ。
〈あれ? なんか嫌な予感がする〉
冷や汗を流すトバリに、ソラがさらに手を引っ張った。
「ではトバリさん。おれの朝練に付き合って欲しいッス!」
〈ここで断るのは出来るけど、今は散歩ついでだから少しだけ付き合うか〉
トバリは少し考えた後、軽く頷く。
「わかった。でも、長くはできないぞ」
「はーい! それとよかったら連絡先の交換もしたいッス」
「あ、うん」
手を離したソラはスマホを取り出し、トバリもポケットからスマホを出した。
2人は連絡先の交換をした後、互いに目を逸らす。
「それじゃあ、筋トレの付き合いをよろしくお願いします!」
「あ、ああ」
ソラがニコリと笑い、トバリは苦笑いを浮かべた。
2人は朝イチからランニングや筋トレを行い汗を流す。
なおトレーニングを始めて1時間後、シオンから電話がかかって来たので、トバリはソラと別れた。
「トバリさん、面白いッスね」
離れていくトバリを見るソラは、ニヤリと頬を緩める。
そのまま彼女は騎士の元に向かい、軽く声をかけた。
「おはようッス!」
「ま、また来たのか!?」
「ええ。それで調査はいつくらいに終わりそうッスか?」
「んー、今日のお昼に終わるらしいぞ」
「ありがとうッス!」
ソラは騎士に一礼した後、トバリに連絡するのだった。




