第26話 小さな酒盛り
「準備出来たぞー」
テーブルに所狭しと盛られた、色鮮やかな料理が食欲をそそるわね。
凜ちゃんは、待ってました、と言わんばかりに、ダッシュで席に着くと、まあるいミートボールを一口頬張り、
「パパ、すっごくおいしい!」
「おっ、それ、俺の自信作なんだ」
この手の食材は、今なら冷凍食品でも、しっかりした物があるのに、考君は、一から作っちゃうなんて、主夫のスキル、高すぎ、ふふ。
考君は、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、専用のグラスへ上手に泡を立て、
「お疲れ様、ってか」
一口、喉を潤すように飲んで、一気に飲み干すと、
「かー、悪魔的だぜ!」
もう、漫画の影響かしら。
今にも、顎が尖るような顔しちゃって。
「いいなー、僕も、僕も」
「凜には、これな」
そう言って、炭酸が入った、瓶ビールを一回り小さくした、子供向けの、泡ビール風のジュースを渡すと、凜ちゃんは嬉しそうに、アルミキャップを取り、考君を真似るように、綺麗にコップに注ぐと、
「プハー!」
可愛らしい声で、上機嫌になると、
「ヨッ、大将、いい飲みっぷり!」
考君が囃し立てると、凜ちゃんテンションマックス。
身体を小刻みに動かして喜んでいる。
ふふ、将来が楽しみね、ちょっと心配だけど。
二人の夕食は、賑やかで、あっという間に過ぎていった。
食事が終わり、二人で後片付けを終えると、ソファに腰掛け、最近出たばかりのゲーム機を起動する。
ゲームは一日一時間なんて、昔、何とか名人のオジサンは言ってくれたけど、約束を守る子なんていないわよね。
考君は、対戦型ゲームを起動すると、メンバーが集まるのを待っていた。
「パパ、今日は新しい武器、使えるんだよね?」
「おお、ちゃんと買ってあるぞ」
買う?ああ、ゲームのこと。
これ、今、すごい人気があるわよね。
考君、凜ちゃんにせがまれて、ゲームキャラクターがプリントされた、お弁当箱とお箸、揃えるのにも苦労してたし、大人も熱中するゲームかぁ、私も、やったら嵌まったかしら?
代わり番こに、コントローラを渡して、対戦を楽しんでいると、一時間は短いくらいね。時計を見て、考君が、
「じゃ、凜、次は宿題だな」
「もうちょっと、やりたーい!」
凜ちゃんは、プーッと頬を膨らませるが、考君は、
「約束、だろ?」
「うー」
「凜が勉強してる時は、俺もゲーム、やーらない!」
そう言って、電源を切ると、凜ちゃんの頭をポンと、優しく撫でて、宿題のドリルを、ソファの前に置かれたテーブルに広げると、凜ちゃんも納得したのか、素直に問題を解いていく。
ふふっ、子供を説得するには、見本となる大人が、態度で示さないと納得しないって、ちゃんと解ってるのね、あなた。
一度集中すると、凜ちゃんは、出された宿題を、もの凄い速さで終わらせていく。
すごいわね、ホント。
「終わったー」
全ての宿題を終えると、凜ちゃんは嬉しそうに考君の顔を見る。
「よく出来たな、寝る一時間前まで、やってよし!」
「わーい!」
寝る前まで、楽しく遊び、一日は終っていく。
ベッドで仲良く、川の字、あっ、私が居ないから、川じゃないか。
う~ん、ハの字?仲良く寝息を立てる、二人の顔を見ながら、私も静かに目を閉じる。
西暦2018年 7月21日 土曜日 日本
祭りの初日、早朝5時から、旗揚げの為、地域の氏子達が集まっていた。
考君と凜ちゃんは、朝が早いというのに、目がパッチリとして、近くにいた、同じ組のオジサン達と、楽しく話している。
「凜坊、朝から元気だな」
そう言って、煙草を吹かしながら、色付きのサングラスを掛けた、厳つい強面の中年男性が、無造作に、凜ちゃんの髪を撫でると、
「正男オジチャン、おはよー」
「おお、おはようさん」
恰幅がよく、どう見ても、その筋の人間にしか見えない男性に、凜ちゃんは、臆することなく、満面の笑みで応えた。
「正男さん、お世話になります」
「ああ、こっちも頼むぜ、孝太郎」
なんてね。
正男さんは昔から、この地域を仕切る、最古参の纏め役で、その風体もあって、ヤンチャな子達からしたら、本物以上に怖がられる存在だけど、とっても懐が広くて、温かい方なのよね。
私も随分、お世話になったもの。
「オジチャン」
「おっ、どうした、凜坊?」
凜ちゃんが、正男さんの、大きな足にしがみつき、
「僕も幟揚げ、手伝って、いい?」
「……」
流石に、子供が手伝うには、危険を伴う作業の為、正男さんは、困った顔をするが、少し考えて、
「幟揚げには、身長が、な」
「えー」
「それ以外なら、いいぜ」
「ホント!」
「手先が器用な凜に、打って付けの仕事があるぜ」
「いいんですか、正男さん?」
本来は、祭りの見学の為、凜ちゃんを連れて来た考君は、申し訳なさそうに、正男さんを見ると、
「次の世代に、物を教えるのも、年寄りの仕事だぜ」
正男さんは、ニカッと笑うと、口から煙草が落ちそうになり、
「おっとっと」
慌てて煙草を掴む。
その何とも言えない、愛嬌と人となりは、この地域を守る、無くてはならない存在です。
「んじゃ、始めるかね」
正男さんの号令で、西組の氏子が一斉に集まると、旗を揚げる前の段取り作業を始める。
効率良く旗を大きな旗竿に通し、準備を終えると、立て掛けた旗竿に、氏子達が一列に群がる。




