↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/27

第25話 風鈴の音色

 脱衣所で凜ちゃんが、汗で滲んだ服を勢い良く脱ぎ、お風呂場の扉を開けると、大きな二枚の蓋を取って、ザブーンっと、浴槽にダイブする。


 ああっ、危ないわ、凜ちゃん。


 「こら、凜、駄目だろ」


 考君が中に入ると、それとなく注意する。


 「へへっ、ごめんなさーい」


 湯船に浸かって、泳いで遊んでいると、考君が、人形を掴むように、ヒョイっと、凜ちゃんを摘まみ上げると、


 「身体、洗ってから」


 と言って、小さな椅子を用意する。


 象さんの絵がプリントされた、黄色く、可愛らしい椅子は、凜ちゃんのお気に入り。


 湯船からすぐに出ると、チョコンと、お行儀よく座る。


 「背中は俺が洗うから、前は自分で、な」

 「うん!」


 モコモコのボディタオルに、固形石鹸を泡立てると、優しく、凜ちゃんの背中を洗っていく。


 「気持ちいいー」


 身体をくねらせ、凜ちゃんは、笑顔で天井を見ている。


 天井には、凜ちゃんが好きな動物のシールが、大小様々に、まるで、夜空の星座のように、所狭しと飾られていた。


 「よしっと」


 考君は背中を洗い終わると、タオルを凜ちゃんに渡した。


 「俺も洗っちまうか」


 考君は、見るからに、堅そうなタオルを手に取ると、ゴシゴシと、タワシで磨き上げるように、古い角質を、これでもかと落としていく。


 相変わらず、肌が強くて羨ましいわ。


 私は考君と違って、敏感肌だったから、そんなに強く、肌を洗うなんて出来なかったもの。


 ザーッと、風呂桶で身体を洗い流すと、


 「次は髪だな」


 考君が棚から、シャンプーを取り出すと、


 「僕、一人で出来るよー」

 「お、ホントか?」


 後ろに置いてあった、シャンプーハットを手にすると、


 「それもいらなーい」

 「おいおい、大丈夫か」


 何時になく、冒険的な凜ちゃんに、考君は、どうしたのかと、疑問に思いながらも、その心意気を尊重すると、凜ちゃんの行動を見守る。


 「よーし、やるぞー」


 今まで考君が手伝っていたことを、凜ちゃんは、慣れない手付きで、しかし、ゆっくりと、丁寧に、自分の髪を洗い上げていく。


 その光景を見て、考君は、子供の成長を誇らしげに、後ろから、ジッと、温かな視線を送っていた。


 「あ、あれ?シャ、シャワー」


 目をギュッと瞑っているため、シャワーヘッドの場所が解らず、手をバタバタしている凜ちゃん。


 ふふ、何か可愛い。


 考君はそっと、凜ちゃんの小さな手に、それを渡すと、


 「お湯、出すぞ」

 「あーい」


 シャワーが勢いよく出ると、凜ちゃんの頭に付いた泡が、綺麗に洗い落ちていく。


 艶のある、真っ黒な髪が現れると、


 「よし、目を開けてもいいぞ」

 「わーい」


 凜ちゃんは、今度はゆっくり湯船に入ると、考君が洗い終わるのを、ジッと見ていた。


 「パパー」

 「ん?何だ、凜?」


 身体を洗い終わり、髪を洗っていた考君が応えると、


 「今日ね、学校でねー」

 「おう、学校で?」


 シャンプーを流しながら、凜ちゃんの言葉を待っていると、


 「風鈴の音がね、会いたい人を呼んでくれるって、先生が教えてくれたの」

 「風鈴が、か?」


 そんな逸話、聞いたことないと、考君が首を傾げて、その不思議な話を聞いた、凜ちゃんの声が、どこか、期待に満ちているのを感じ取ると、


 (ああ、そういうことか)


 考君は、凜ちゃんの意図することを理解して、


 「明日、買ってくるよ」


 と、短く凜ちゃんに伝えると、


 「ホント、パパ!」

 「ああ、取って置きをな」

 「パパ、ありがとうー!」


 凜ちゃんは、湯船で大はしゃぎすると、考君は、地元の下町にある、江戸風鈴の老舗で買おうかと、ボンヤリと考えながら、髪を洗い終わると、湯船に浸かる。


 「ああ、生き返るぜー」


 ふふっ、もうっ、何ですか、それ。お爺ちゃんみたいに、顔を綻ばせて、肩までお湯に浸かっている考君は、とても、幸せそうな笑顔で、足を伸ばして寛いでいた。


 「僕も、僕もー」


 凜ちゃんまで、足を伸ばしちゃって。小さな凜ちゃんは、湯船のへりに届かず、背泳ぎのバタ足のように、考君の上で、水泳選手のように、泳いでいると、


 「凜、お湯が無くなる、やめーい」

 「ははは」


 途中で趣旨が変わったのか、凜ちゃんは、面白可笑しく、考君の上で遊んでいる。


 「言うこと聞かない、悪い子は、こうだー!」


 考君は凜ちゃんの脇をくすぐると、


 「パパ、くすぐったーい!」


 考君、それじゃ、余計にお湯が無くなるわよ。

 もうっ、ホント子供なんだから。


 でも、そんな所も、私、大好きですよ。


 二人のスキンシップは、楽しく、あっという間に過ぎていった。一段落すると、考君が、


 「さ、上がって、ご飯にするぞ」

 「うん、パパ、お腹空いちゃった」


 湯船から出ると、脱衣所で身体を拭き、凜ちゃんはリビングに走っていく。


 考君は、髪をタオルで拭き、肩に掛けて後に続く。


 部屋に入ると、先程と違い、冷房の効いた、快適な空間となった部屋で、凜ちゃんが、テレビの電源を入れ、録画された、お気に入りの戦隊モノの番組に、目が釘点けになっていた。


 考君は、前の晩に作り置きした料理を、電子レンジで温めたり、食器を手早く用意すると、ものの数分で、夕食の準備を整えてしまった。


 相変わらず、そういうとこ、見習いたいわ、感心しちゃう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。