第23話 執筆準備
「パパ、土曜日からお祭りだね」
「ああ、楽しみだな」
私達が住む地域は、首都圏でも珍しく、土地の人々の結束が強く、神社を起点として、四つの組合が寄り合い、祭りを執り行っていた。
今年は私達、西組が当番組で、考君達、氏子衆が中心となり、祭りを盛り立てる。
「幟上げは、凄いんだぞ」
「うん!僕も見に行きたい!」
神社前の道路に、大きな旗竿を、四箇所に設置して旗を掲げ、結界を人工的に作ることで、神様を迎える。
でも、これって、とても大変なんですよね。
私が生きている時に、お手伝いで、考君と一緒に出掛けた時、大の大人が、沢山集まって持ち上げても、なかなか上がらなかったもの。
「今年は当番年だからな、気合いが入るってモンだ、腕が鳴るぜ!」
普段、余り、外に出ない考君が、この日の為に、密かに筋トレしてたこと、私見てたけど、ホント、お祭好きよね、昔から。
「よしっと」
考君は手早く、食事の準備を済ませると、テーブルに料理を並べる。
昔から料理は、私より上手だったけど、朝が苦手な考君が、朝ご飯をしっかりと作ってくれるなんて、毎日、感謝してる。
サラダは、とても瑞々しく、食材に拘りのある考君は、凜ちゃんのために、安全で美味しいお野菜を、農協が開く、朝一の市場にわざわざ出向いて、食材を吟味して買って来てくれる。
朝が苦手なのを克服出来たのも、私の替わりに、凜ちゃんの健康を考えてよね、ありがと、あなた。
「いただきまーす!」
凜ちゃんは、お箸を器用に持って、パクパクと、気持ちのいい食べっぷりで、出された食事を食べると、それを満足げな表情で、考君が、優しい眼差しで凜ちゃんを見ている。
なんて温かな空間なんだろう。
私も一緒に、ご飯を食べることが出来たら、どんなに幸せか。
ううん、こうして、二人の姿を眺めるだけでいいの。
それ以上は贅沢よ。
それに、何時まで、二人を見守っていられるか、私には解らないのだから。
「いい食べっぷりだな、凜」
自分が作った料理を、毎日、美味しそうに食べてくれる凜ちゃんに、考君は、きっと救われていると思う。
子供の成長を心配しない親なんていない。
心と体が満たされて、初めて、その子が伸び伸びと、やりたい事が出来ると思うから。
「しっかりと噛むんだぞ」
「はーい!」
お口を大袈裟に上下させて、ご飯を食べながら、
「パパ、おかわりー」
「あいよ」
炊飯器から、何処で買ったのかしら、旅館で出るようなお櫃、しかも、プラスチック製じゃない。
もっと本格的な、木製の、綺麗な木目が入ったお櫃から、杓文字でご飯を掬うと、凜ちゃんの小さなお茶碗によそった。
なんか、お母さんみたい。
食事が終わると、学校に行く準備を、考君が一緒になって手伝い、玄関に出る。
扉を開けると、ムッとする熱気に、思わず、考君が、
「暑いなぁ、まだ八時だってのに」
壁時計を見て、余りの暑さに、凜ちゃんを心配してか、なかに戻って、すぐ帰って来ると、
「これ、舐めてけ」
と言って、飴玉を凜ちゃんの口に放り込む。
「わー、シュワシュワするー」
包装紙には、塩分飴と書かれていた。
流石だわ、考君!
「持ち物チェーック!」
扉を一旦閉めて、考君が、何処かの隊長さんのように、ビッと姿勢を正すと、
「はい!」
直属の部下のように、凜ちゃんも、敬礼の真似事をすると、
「ハンカチ!」
「持ってます!」
「水筒!」
「ここに!」
首に掛かった、戦隊モノのキャラクターがプリントされた水筒を、自慢げに持ち上げ、
「宿題!」
「アイアイサー!」
まだ、子供には大きなランドセルを、上下にジャンプして飛び跳ねると、
「よし、行って来たまえ!」
「はい、隊長!」
最後に、考君が、凜ちゃんを、ギュッと抱きしめて、
「凜は、俺の宝物ー!」
「へへー」
楽しいスキンシップを終えると、凜ちゃんは元気に学校へと走っていく。
ふふ、私にも、同じことして欲しいわ、すっごく、楽しそうなんだもの。
ダイニングに戻り、洗い物を済ますと、考君は自分の部屋に上がって、パソコンの電源を入れた。
こんな朝から、お仕事?私がいた時は、午前中は夢の中、十時過ぎに起きてきて、ようやく、一日がスタートだったのにね。
パソコンが立ち上がると、パスワードを打ち込む。
私の誕生日なのは相変わらず。
一太郎のアイコンをクリックして、今、執筆中の原稿に取り掛かる。
考君、昔から、このワープロソフトを愛用して、他のモノを使わないのは変わらないわね。
「ガム、ガムっと」
二種類の板ガムを、机にキチンと置いて、コップに冷えた緑茶を入れると、CDラジカセに、自作で編集した、お気に入りのBGMをセットし、デスクチェアに座ると、身体を解す。
昔から仕事道具には、強い拘りがあったわよね。
その椅子も、ビックリするくらい高くて、流石に、黙って買ってきた時は、すごい喧嘩になったわよね、あれは、なかなか激しかったわ。
でも、今も大切に使ってるんだもの、時効よね、きっと。
「さてっと」
眼鏡を二階にあるシンクで、丁寧に洗ってから、専用の二枚の布で、指紋と埃を綺麗に拭き取ると、キーボードに指を走らせる。
そのルーティン、昔から変わってない。
なんか、安心するなぁ。




