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第21話 魔女との縁

 「それで、話って?」


 スティーブが尋ねると、マクゼは困ったように、天を仰ぐと、


 「あの魔女が、な」


 その一言で、ピンと来たのか、


 「侑子(ゆうこ)ちゃん、何て?」


マクゼは、内ポケットから、古めかしい羊皮紙を差し出すと、


 「はは、これはまた」


 書かれている内容を一読すると、スティーブは降参のポーズを取る。


 「あの魔女め、交渉の仲介役を頼んだのに、何も解ってない」


 クシャッと、無造作にゴミ箱に捨てると、羊皮紙は自然発火して消失した。


 「侑子ちゃんは魔術協会のトップだよ。自分達の不利益になること、了承する訳ないじゃない」


 別段、不思議でない様子で笑うと、


 「お前、どれだけの金品を巻き上げられたか、解ってないだろ?」


 ムカムカと、マクゼが感情的になり、


 「商売上手だからね、侑子ちゃん」


 脳天気に、マクゼの肩をポンと叩くと、


 「ただのボッタクリだ、ありゃ!」


 近くにあった本棚をボンッと叩くと、その腕力に負けて、分厚い書籍が陥没した。


 「マクゼ、落ち着いて下さい」


 ティーポットをお盆に載せ、机に置くと、リーシャは、手を差し出して促すと、


 「クソッ!」


 怒りが収まらないなか、フウッと、大きく息を吐き出すと、椅子にドシンっと、深く座ると、


 「スティーブ」


 リーシャは、一言、そう言うと、スティーブは黙って、マクゼの正面に、お行儀よく座った。


 「いい香りだね」


 と、リーシャが淹れた紅茶を、美味しそうに口に含むと、


 「うん、美味しい。抽出時間も完璧、流石だね」

 「ふふ、ごゆっくり」


 そう言うと、席を外し、奥の秘書室へと入っていった。


 お茶菓子を頬張りながら、


 「相変わらず、上手くいってないの?」


 その一言に、


 「相変わらずは、余計だ、ったく」


 足を組んで、シガレットケースから、葉巻を出し、慣れた手付きで煙を吹かすと、


 「辞めたんじゃなかったの?」

 「吸わなくっちゃ、やってられん」


 以前、禁煙宣言を自慢げにしてたのに、と思いながら、マクゼの心労を、誰よりも理解していたスティーブは、それ以上、触れることなく会話を戻すと、


 「魔術協会とは、もう、何百年も平行線を辿ってるからね。何か、双方に取って、有益なファクターがあれば、或いは……」


 スティーブの、明晰な頭脳を持ってしても、その最適解は、容易には導き出せなかった。


 「お前からも、アイツに何か言ってくれよ。仲、いいんだろ?」


 魔術協会の人間と、ヘスティアの人間は、水と油、と言うか、犬猿の仲と称した方が、シックリくるほど、関係は、熟年夫婦のように冷え切っていた。


 それも、尋常ではない年月を重ねることで、溝は、パックリと分裂していた。


 そんな関係下に於いても、スティーブだけは、魔術協会の人間達に煙たがれることなく、協会の関係者と、分け隔てなく接し、トップである侑子とも、定期的にホームパーティーを開くほどの仲であり、本来なら、こう言った人材を、仲介役に据えれば良かったが、周りの人間がそれを許さなかった。


 組織のトップである、マクゼの莫逆の友であるスティーブを、万が一、危険な目に遭わせようものなら、その損失は、ヘスティアに取って、計り知れないモノになるからた。


 本人は、そんなことなど、お構いなしで、警護を連れず、堂々と、正面からお邪魔するのだから、関係者の肝は冷えぱっなしだった。


 「侑子ちゃんも、頑張ってるよ」


 短く、たった一言、そう発すると、


 「解ってる」


 以心伝心、その真意を読み取ると、マクゼは、それ以上、愚痴を並べず、話題を変え、


 「騎士団だがな、統括する、フェドロック団長から、連絡があったぜ」

 「見つかったの?」

 「まさか、痕跡の一つもないそうだ」

 「工房も、探索出来ないほどの、陰行の術の精度、流石としか言えないね」

 「感心してる場合かよ。また、犠牲者が出たんだぞ」

 「……生け贄が」


 フォーエンハイムが使う、魔術の核となる魔術源は、生物の生命力、とかく、人間を贄とすることで抽出される魔力は、他の動物よりも高純度であった。


 効率的に、自身の魔力の貯蔵量を確保するため、人間から、魔力の元である、生命力を奪うことに、何の躊躇もなかった。


 「フェドロックも頭を抱えてたぜ」


 討伐のために結成された騎士団には、莫大な国家予算が投入され、騎士団を支える情報支援部隊、軍備開発研究所など、彼らを支援する、数多くの人間達の期待が、いや、全国民の期待を一心に受けていた。


 その任務を遂行する責任者である、フェドロックが、何も成果を上げず、湯水のように、活動費を消費することに対し、官民からの批判の声が上がらない訳がなかった。


 「フェイ、少し痩せたよね」


 愛称で呼ぶスティーブは、彼の体調を案じながら、自分に何か出来ないか、真剣に考えていた。


 「大丈夫さ。フェイは、そこらのヤワな連中より、図体もハートも、よっぽどタフだからよ」


 力強い眼差しで、マクゼが、スティーブを見ると、


 「うん、そうだね」


 と、頷いた。


 そして、お茶菓子を食べ終わると、おもむろに立ち上がり、


 「僕、そろそろ行くね」

 「おお、サーシャにも宜しくな」


 マクゼが手を挙げて応えると、スティーブはリーシャに声を掛け、部屋を後にした。


 研究所に戻ると、サーシャが中庭に咲く、花々に水を上げながら、陽気な鼻歌を響かせていた。

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