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第20話 莫逆の友

 「クロノス因子じゃよ」

 「え!」


 クロノス因子とは、体内を構成するDNAに、人為的な操作を行うことで、理論上は不老不死に近い状態へ昇華させる、究極の遺伝子であった。


 しかし、誰もが、この力を手に入れられるという訳ではない。


 選ばれし、一握りの類い希な才能と、影響力を持つ人間だけが、手にすることを許される、特別なファクターであった。


 スティーブは受付の女性に挨拶を済ませ、議会場へと入っていく。


 この世界の中枢を為す、議会『ヘスティア』は、各国の代表や、研究者など、これからの未来を担い、重責を背負う、特別な立場の人間で構成されていた。


 スティーブが座る席は、議会中央、円卓の十二席の内の一つにある。


 会議は粛々と行われるなか、ノンビリとした様子で席に着くと、


 「相変わらずやな、スティーブはん」


 関西弁のような口調で、席の隣にいた女性が、ニカッと笑うと、


 「そうかい?カンナ」


 カンナは、シシッとイタズラっ子のように、議会中央で話すと、議長、マクゼ・アラファートの顔を見ながら、


 「メッチャ怒っとるで、あれ」


 定時報告を読み上げているマクゼは、平静を装っているが、時折、スティーブとカンナがいる席に視線を向けると、言葉にならない無言の圧力を掛けていた。


 「気のせいじゃないかい?」


 手元に映し出された資料を、一瞬で目を通すと、映像を切る。


 「流石やね」


 小さな声で会話を済ませると、これ以上、マクゼの機嫌に油を注がないように、カンナも大人しく、資料に目を通していた。


 「このように、我々、ヘスティアの地道な活動、特に、二十一世紀に起きた、人類最大の事象『降り立ちし、異界の門』により、全人類に備わった、魔法に付随する影響を監視し、時間干渉による矯正、修復によって、人類の正しい未来を構築する活動は、着実に成果を積み上げております」


 マクゼはそう言うと、誇らしげに手を挙げ、会場にいる関係者を労った。


 「しかし、まだ課題はあります」


 一呼吸すると、


 「一つは、神秘を秘匿し、歴史の影で活動してきた、本来の純粋な魔法を行使する、魔術師の存在。彼らは、自身の存在意義を主張し、我々と、未だ敵対しております」


 魔法という概念は、当時の人間達に取っては、マーリンが現れるまで、只の絵空事でしかなかったが、しかし、密かに地球上では、その力は連綿と受け継がれていた。


 ただ、歴史の表舞台に立つことが無かっただけで、本物の魔術師は存在していたのだ。


 彼らは、その力を我がモノとし、決して一般の人間には、その痕跡を残さないことを、絶対の掟として、その身に課していた。


 その秩序が、突如、マーリンによって破られた時の、魔術師の怒りは図りしれなかった。


 諸悪の根源を探し出し、抹殺しようと、数多の刺客を送り出すが、誰一人、探し出すことは出来なかった。


 「それと、今現在も、最重要危険人物として指定される、フォーエンハイム・ウル・ラスタの存在も無視出来ません」


 アリスの元に訪れた、男性の名前が、この時代でも挙がるのは、十分過ぎるほどの意味があった。


 「フォーエンハイムの所在は、現在も捜索しておりますが、今だ、特定には至っておりません」


 マクゼは苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、


 「発見次第、適切な処理を行います」


 重要な報告を済ませると、事務的な雑多な情報は、秘書である、リーシャに任せて退席すると、


 「魔術協会の連中、へそ曲がりが多いからなぁ」


 カンナが欠伸をして、会議に飽きたのか、スティーブをツンツンと、指で刺して遊んでいると、


 「無理もないと思うよ」

 「お?アッチの肩持つんか?」


 カンナは別段、怪訝に思うでもなく、ノリツッコミでスティーブを見ると、


 「問題は……」

 「フォーのオッチャンやな」

 「そう言うこと」


 二人は、この時代に於いても、フォーエンハイムが及ぼす、悪影響を思い出す度、身の毛がよだつ思いで、その名を刻み込むと、


 「まっ、何とかなるやろ、騎士団に任せておりゃ安泰や」

 「……」


 フォーエンハイム討伐の為、魔法と軍用武器を自在に操り、少数精鋭で構成された専門部隊、そのメンバーの顔を知る者は、この会場に於いても、誰一人いなかった。


 会議は何時も通り、定時で終了すると、ゾロゾロと関係者が帰って行く。


 「お疲れさん、っと」


 カンナはスティーブの肩をポンと叩くと、


 「ああ、またね」


 スティーブも席を立つと、


 「スティーブ」


 遠くからマクゼが声を掛ける。


 「アカン、ウチ先行くわ」


 ギロッと睨まれ、そそくさと、脱兎の如く逃げると、


 「マクゼ、どうしたの?」

 「ここでは話づらい、私の部屋に来てくれ」

 「うん、いいよ」


 二人は議長室へ向かう。


 後ろには、リーシャが従者のように続く。


 ヘスティアの最上階、見晴らしがいい一室に着くと、


 「スティーブ、何か飲みますか?」


 リーシャに促され、


 「うん、何時もの、お願い出来るかな?」

 「ええ」


 スティーブは、眼前に広がる街並みを見ながら、


 「いい景色だね」

 「そうか?」


 先程の態度と違って、フランクな物腰で、マクゼがスティーブの横に立つと、


 「だいぶ、建物が変わったけど」

 「何時の話をしてるんだ、ええ?」


 スティーブと同じ、クロノス因子を持っているマクゼは、老人臭く話すと、


 「君は若さがないな」

 「お前と一緒にしなさんな」


 と、目を合わせると、どちらともなく笑い出した。

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