第19話 議会招集
全員がロビー中央のポッドに集まると、フレンはシステムを起動する。
激しい点滅と共に、視界がぼやけ、真っ白な世界に包まれていく。
To be continued
◆◇スティーブ・F・バーゼル◆◇
西暦2XXX年X月X日 某所
「所長、議会の招集メールが」
「ああ」
サーシャは自分の端末から、スティーブの端末へ、指をスワイプすると、立体映像の手紙が、スティーブの頭部を透過して、端末に表示される。
サクッと、刺さったような感覚に、
「遊ばないの」
「ふふ」
たわいのないやり取りを済ませ、スティーブがフォルダを開けると、難解な議題内容と、分析データ、それに付随する、大量のテキストが開示される。
「おっとっと」
複数のウィンドウが、引っ切りなしに開かれ、整然とされた空間を埋め尽くす。
スティーブは強制スクロールで、最小限、必要なページだけを残すと、
「相変わらず、膨大なデータですね」
「え?ああ、そうだね」
サーシャは、議会に出席するための、ライセンスを持ち合わせていなかったが、スティーブが、これも勉強の一環だと、本人以外には、決して閲覧が許されない情報を、コッソリと、いや、我関さずと言った、セキュリティ意識の低さで開示していた。
指のリングと連動する腕輪が振動した。同時に、電話の着信音のようなメロディーが流れる。
「スティーブ所長。議会の時間、過ぎています」
よく通る声だが、少し冷たい印象を与える女性の声が、急かす訳でもなく、事務的にそう言うと、サーシャが、頭に指で鬼の角を作ると、スティーブが笑いを堪えている。
「見えてるわよ、サーシャ」
「え!お、お姉ちゃん!?」
サーシャの姉のリーシャが、眼鏡をクイッと直し、若干、眉毛をピクッとさせ、
「早急に、お出で下さいね」
一言、釘を刺すように念を押すと、通話が切れた。
「……やってまった」
頭を抱えて、サーシャは、地方の方言を発すると、
「それじゃ、行ってくるね」
スティーブはマイペースに、身支度を整えると、玄関の扉を開けようとすると、
「ま、待って下さい、所長」
サーシャは半ベソになりながら、縋るように、スティーブを見ると、
「大丈夫だよ。リーシャ君の好物の和菓子、転送しておくから」
姉には逆らえないサーシャは、般若のようなリーシャの形相を想像して、震え上がっていたが、スティーブの一言を聞いて、
「出来れば、それにあったお茶も……」
と一言、
「はいはい」
手を振って扉を開けると、ニコニコしながら部屋を出て行った。ハァッと、深いため息をして、サーシャは、スティーブの後ろ姿を見送った。
スティーブがいる研究所から、議会が開かれる場所へは、直線で、相当な距離があったが、この時代では、各ステーション毎に、物質転送装置『ノア』によって、瞬時に移動することが出来た。
本来は、主立った公共施設や、軍用施設などの、特定の場所でしか、設置が許可されない装置だったが、スティーブの研究所は、特例的に、ノアの私的使用を許されていた。
「さて、と」
手早く、所定のアドレスを打ち込むと、機械的な音声で、
「ソレデハ転送シマス」
アナウンスと同時に、スティーブの姿は、一瞬にして消え、その肉体は、議会場前のステーションへと降り立つ。
身体が原子レベルまで分解される感覚は、この時代の人間には、差して違和感などなかったが。
議会場の入口には、屈強な警備員と、その後ろには、セキュリティ軍用ロボットが、門を護る、仁王像のように鎮座していた。
若い警備員の一人が、
「所属と、IDの提示をお願いします」
スティーブが、リングを差し出そうとすると、
「結構ですよ、スティーブ様」
もう一人の、白髪の老齢の男性が、そう言うと、
「いいのかい?」
「もちろんです」
男性は機械を操作して、ゲートを開けると、
「いってらっしゃいませ」
と、深々とお辞儀をした。
「あ、あの」
若い警備員が、大丈夫かと、心配そうな表情をしていたが、
「お前さん、あの御方を知らんのかい?」
「え、その」
今年、配属されたばかりの新人で、関係者の顔を覚える余裕がなかった男性は、困ったように、視線を泳がせていたが、
「あの御方は、スティーブ・F・バーゼル様。この国の根幹を担う、最重要人物の一人じゃよ」
「え!あの!」
男性が驚くのも無理はない。
自分の年齢と同じ、いや、年下ではないかと思えるほどの容姿に、
「ほほっ、お前さん、今、自分より年下だと思っとったじゃろ?」
と、面白そうに笑うと、
「あの御方は、儂よりも、ずっと年齢が上じゃぞい」
「え、ええ!」
思わず、素っ頓狂な声を上げて、新人は目を丸くした。
「で、でも」
アタフタと、スティーブの後ろ姿と、先輩の顔を交互に見て、
「ナノテクノロジーは知っておるな?」
この時代の人間の寿命は、二十一世紀の人間よりも、遙かに長命だった。
それは、医学と、科学技術の発展による、恩恵に他ならなかった。
先程の年代の終わり頃に、著名な数人の研究者により、それまで、不治の病と称される、例を挙げるならば、癌などの、疾病の根治の為の特効薬が生まれ、さらには、ナノテクノロジーと呼ばれる、技術の実用化が承認され、人類から、病気と呼ばれる悪魔は消え去った。
その後、ナノテクノロジーを発展させた技術により、細胞の老化抑制、生活の質を落とさず、健康な状態を維持することも可能となった。




