第17話 縁の下の力持ち
「アーチェちゃーん、シフォンちゃーん」
手をバタバタと振って、クラインが二人の元へ駆け寄ると、
「何処にいたのよ?時間過ぎてるっての」
アーチェが、ポカンと頭を小突くと、ヘヘへッと、鼻を擦って、
「キング君が、射撃場に行きたいって言ったから、案内してたんだよ」
「はぁ?キングが射撃場?冗談でしょ?」
信じられないと言った様子で、アーチェは眉を顰める。
あらゆる武器を、完璧に扱えるキングが、今さら射撃場に行くなど、アーチェには信じられなかったからだ。
それよりも、当の本人が、離れた場所で、一向に近付こうとしないことを、不審に思ったアーチェが、
「ちょっと、キング!アンタ、何、そんな所で突っ立ってるのよ!」
近くに来るように促すと、
「……」
キングはその場で硬直し、視線は明後日の方向で、女性陣を直視しないようにしていた。
「キングってば!」
「……」
アーチェは無視されたと勘違いして、こめかみの血管が浮き出ると、
「無視すんなやっ!」
ドスドスと近付き、プロレス技の一つ、チョークスリーパーをお見舞いした。
「ぐっ、ぐぇ!」
綺麗に決まると、キングは思わず、嗚咽を漏らすが、一方で、密着していることで、アーチェの柔らかな胸を、背中越しで感じると、天国と地獄を同時に味わう、言いしれない感覚に、顔を真っ赤にしていた。
しかし、酸欠が上回ると、腕をタップして、降参の合図を必死で送ると、
「ふんっ!」
アーチェが技を解くと、
「ハァハァハァ」
新鮮な空気を吸うと、肩を上下させて、その場で寝転んで、
「な、なんだよ、コイツは!」
面食らった様子で、アーチェを見ると、
「コイツだぁ?」
馬乗りで、素速く、マウントポジションを取ると、拳を握り、鉄拳をお見舞いしようとするが、
「や、やめて!」
割って入るように、シフォンが止めに入ると、クラインが、
「アーチェちゃん!キング君、記憶がないって言ったでしょ!」
周りで見ていた者達が、心配そうに、そのやり取りを見ていた。
我に返ったアーチェは、
「……ご、ごめん」
その場で項垂れると、構えを解いて、キングを起こすと、
「ホント、ごめん」
そこまで怒るのは、単に無視されたからではなかった。
普段と、余りにも違うキングを見て、アーチェの心が酷く動揺し、何時も以上のアクションを取らせたのだ。
「……」
そんな乙女の変化を、知るはずもないキングは、それでも、泣きそうな表情のアーチェを見て、
「気にすんなって」
と、気遣うと、
「……」
アーチェは一呼吸し、少し笑顔になると、普段の彼女に戻ると、
「大丈夫ですか、キング?」
心配そうな、シフォンの顔を見て、
「へへっ、あったり前だろ」
当の本人も驚くほど、自然と女性と喋れていた。
先程のショックで、キングの女性恐怖症は無くなってしまったようだ。
「すまねぇな、心配掛けてよ」
キングは正直に、自分の置かれている状況を、再度、自らの口で説明すると、納得した三人は、
「少しずつ思い出せばいいわよ」
アーチェが、男気溢れる強い眼差しで、
「そうです。キングとの思い出は消えたりしませんもの」
シフォンが、キングの手を握り、母性に満ちた優しい言葉で、
「一件落着だね」
クラインが、満面の笑顔で、仲間の結束が深く結ばれたことに、満足げなVサインを高らかに掲げていた。
「クライン、お前」
一件、脳天気に見えて、実は、他の誰よりも、皆のことを考えて行動する、クラインの懐の大きさを感じ、キングは、感心したように、そんなクラインを誇らしげに見ていた。
と言っても、当の本人は、そのような配慮を働かせる頭など一切無かったが。
野性的な勘で、最良の一手を選べる才覚は、他でもない、キングが一番理解していた。
お互いを確認するように、視線を合わせると、誰ともなく、
「バトルっすか!」
キングが口火を切ると、
「ええ」
アーチェが頷き、
「もちろんです」
シフォンも元気に返事をして、
「待ってました!」
クラインは、ピチャピチャと跳ねながら、早く、バトルをしたい気持ちを抑えられず、嬉々とした表情を浮かべていた。
キング達はロビー中央に向かうと、プシューッと、扉が開く。
「え!」
キングは驚いた。
出てきた者達の姿は、リアルでは、オフライン上の敵役として登場する、海洋生物のキャラクターが、当たり前のようにバトルに参加していたからだ。
出てきた一人が、キングに気付くと、
「やぁ、キング。これからバトルかい?」
親しみを込めた、柔らかな口調で、男性が声を掛けてきた。
「あっ、フレン君だ!」
「クライン、今日も元気だね」
クラインの頭を、ポンポンと触ると、猫のように身体をくねらせて、クラインが喜んでいる。
その様子を見て、キングは少し、不機嫌な気持ちになったが、気にせず、
「アーチェ、シフォン、こんにちは」
騎士のように、礼儀正しく、一礼すると、
「よっ!」
「こんにちは、フレンさん」
クライン達の反応から、かなり親しい間柄と言うことは解ったが、何せ、記憶がない。
キングは、フレンのことが気になり、小声で、アーチェに情報を聞き出そうとした。




