第15話 データ初期化
それにしても、本来のゲームでは、初期装備の武器として、4種類を所有した状態でスタートのはずが、思わぬ鬼仕様に、
「ざっけんなよ、クソがー!」
ヘッドバンキングで、小刻みにビートを刻むと、
「あっ、おもしろーい」
と、釣られるように、クラインも真似をする。
そのやり取りとノリは、まるで子供向けの漫画で出てくる、登場人物のギャグ要素を、これでもか、と実演する、リアルな反応に、
「おい、クラインよー」
肩をガシッと掴むと、
「何?キング君」
笑顔で答える、クラインを見て、
「お前の武器、貸して欲しいんだけどよ」
実際の仕様では、他人の武器をレンタルすることは、不可能であったが、これしかないと、目を充血させたキングが、そんなルールなど、知ったことか、と言った形相で尋ねると、
「うん、いいよー」
期待通りの返答に、
「オッシャー!キタコレ、ヤッホーい!」
今迄のパーソナルとは、かけ離れたテンションで、キングが飛び上がって喜ぶと、
「クライン。武器は、どれくらい持ってるんだ、ええ?」
キングが食い入るように、視線をクラインに向けると、おもむろに、ポケットからスマートフォンのような、変わった形のデバイスを取り出すと、
「はい、どうぞー」
スマートフォンを渡され、画面をスクロールすると、武器の一覧が表示される。
「流石だな、クライン」
現行での、アップデートで手に入れられる、武器は全て入手し、さらに、オフラインで手に入れられる武器も綺麗に揃っていた。
「へへへ」
鼻を擦って、照れるクラインに、
「これ、どうやって出せばいいんだ?」
その質問に、不思議そうな顔して、
「キング君、そんなことまで忘れちゃったの?これはね……」
クラインが、キングが欲しい武器を聞いて、その武器のアイコンをダブルクリックすると、
「おお!」
ポンッと音がなると、何もない空間から、お目当ての武器が出現すると、キングは驚いたように声を上げた。
「便利ってモンじゃねぇな、どういう仕組みだよ、これ?」
感心したように、スマートフォンを見ると、
「何だっけ?大昔の科学者が発明した技術を、再利用したとか、何とか」
うろ覚えの知識を、クラインは適当に話すが、キングは、目の前に出てきた、武器の手触りを、丁寧に確認していた。
「これ、結構ズッシリしてんだな」
その場で武器を構えると、
「カッコイイなー、流石、キング君、無駄のない構えだね♪」
武器の仕組みを確認して、現実とゲーム内の世界での感覚の差を、短時間で擦り合わせるセンスは、その名前に恥じない、完璧なモノだった。
「よし!こんなモンか」
武器を仕舞うと、クラインが、
「キング君、ポッケのスマホ、見せてくれる?」
「あ、ああ」
自分では気付かなかったが、ズボンの右ポケットには、確かに、クラインと同じスマートフォンがあった。
それを差し出すと、
「……やっぱり」
画面を操作すると、何かを納得したのか、クラインが、ハーッと、ため息をすると、
「どうしたんだよ、クライン?」
その落胆振りに、キングも、その画面を見ると、
「げっ!」
キングのスマートフォンの画面には、この世界を統括する、管理者からの警告文が、赤い文字で表示されていた。
自身のアカウントに、予期せぬ、不正な処理が行われため、保有データがクラッシュしたことを知らせていた。
「この状態だと、今迄のログは、戻らないかもね」
クラインが対応策を考えていたが、
「しゃーねぇって、これ、初期化は出来るんだよな?」
「え?で、でも」
キングが保有していた資産や、ランク、それに、全てのアイテムを放棄する発言に、クラインは信じられず、
「管理者に連絡すれば、記録が戻るかもしれないんだよ、いいの?」
引き止めるように、キングを見つめるが、
「データのクラッシュを復元するだけでも、何ヶ月掛かるか解らねぇだろうが。時間が勿体ないってんだよ」
そう言って、ガッツポーズを取ると、その迷いのない眼差しを見て、クラインは、熱い感情が込み上げ、
「す、すごいよ!やっぱり、キング君は『KING』なんだね!」
クラインは憧憬の眼差しで、キングを見つめていた。
キングは、クラインに操作方法を教えて貰うと、初期化の処理をした。
画面がブラックアウトして、ロゴが現れると、キングの記録は綺麗に消えると、不具合が解消したことで、アイテムの武器欄には、初期装備として、4つの武器が表示された。
「よしっ!」
キングは、その中でも、初心者でも使い勝手がよく、玄人にも親しまれる、万能武器である、初心者マークが付いたシューターを出すと、
「へっ、原点にして頂点の武器、初めての試合には持ってこいだな!」
目を輝かせ、戦闘モードになっているキングを見て、
「僕、友達に連絡するね」
と言って、電話を掛けると、すぐに相手に繋がった。
「もしもし、アーチェちゃん?」
電話口では、寝起きなのか、欠伸をしながら女性らしい声で、ゴトッと、ベッドから転げ落ちる音が聞こえると、
「クライン、どうしたの?」
眼鏡を探しながら、ボサボサのロングヘアを掻きむしると、遠くで、ルームメイトのシフォンが、キッチンで食事を用意しながら、
「アーチェ、誰から?」
と、尋ねると、アーチェはハンドサインを送ると、シフォンは料理を味見しながら、
「今日も大丈夫って、言っておいて」
アーチェが、両腕を大きく丸くすると、
「キング、そっちにいる?」
アーチェの言葉に、クラインは、困った様子で、
「それが、ちょっとね」
奥歯に物が挟まった物言いに、
「クライン、簡潔に」
と、促され、先程までの一連のやり取りを、口頭で、端的に説明するように努めた。




