↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/27

第14話 ゲーマーの夢

 和馬がクラインに助言したのは、プレイは荒削りながら、そのセンスを、高く評価してのことだった。


 和馬が、他のプレイヤーを認めることは珍しく、それ故に、その発言を聞いたクラインは、


 「キ、キング」


 と、声を震わせて歓喜していた。


 「丁度13時間経過した、か」


 和馬が時計を確認すると、


 「今日は上がりだ、お疲れ」

 「は、はい!またお願いします」


 ヴォイスチャットを切ると、パソコンの画面を消した。


 ゲーム界隈では、ゲーム廃人と言う言葉をよく耳にする。


 和馬は、この言葉をネガティブに捉えておらず、寧ろ、モチベーションを保つ、誇らしい言葉としていた。


 よくTwitter上で『俺は6時間連続でゲームしたぜ、廃人決定だな』と、書き込みをする馬鹿を見ると、和馬の怒りは凄まじく、12時間の壁を越えてから物を言えと、吐き捨てるように、その発言を侮蔑した。


 時間の感覚が、やや曖昧な思考で、机には、エナジードリンクが数本、ディスクに無造作に置かれ、ゲーミングチェアに凭れ掛かっていると、


 「……」


 ふと和馬は、子供のように空想に耽っていた。


 それは、幼い頃、戦隊モノのヒーローに憧れて、ごっこ遊びをするように、ゲームの世界のキャラクターとなって、縦横無尽にバトルに明け暮れるという、取り留めの無いものだった。


 しかし、その瞬間、和馬が感知出来ない深層意識に、魔法の能力が覚醒し、異変が起きた。


 「!」


 脳を揺さぶるような感覚に、最初は、長時間のゲームのやり過ぎで、脳がトリップしたのだと思ったが、それ以上とも言える、現実離れした現象が起きると、


 「な、何だ!」


 自分のいた世界が暗転すると、消したはずのパソコンのディスプレイから、眩い光が全身を包み込むと、部屋から、その肉体は忽然と消えていた。


 時間にして数秒だったが、次に和馬が目覚めた場所は、見覚えのある、歩行者天国のアスファルトの地面だった。


 「う、う~ん」


 目覚めた和馬は、すぐに違和感に気付いた。


 身体がやけに軽く、フニャフニャとした、軟体生物のように、全身の骨がなく、落ち着きのない状態で辺りを見回すと、建物に備え付けられた鏡を見て絶句した。


 「は?ま、マジか……」


 驚くのも無理はない。


 和馬の姿は、海洋生物の姿となって、ピチピチと、その場で跳ねていたのだから。


 その姿は、ゲームに登場する、キャラクターそのもモノで、事態を素直に飲み込めず、


 「ヤベーな、やり過ぎて変な夢を」


 と、冷静になって、夢が醒めるのを待っていたが、街頭の時計が1時間経過しても、一向に醒めることはなかった。


 そして、サーッと血の気が引いていく。


 空想で思っていたことが、いざ実際に現実のモノとなると、人間と言うのは、受け入れることが容易ではないらしい。


 そう、和馬が目覚めた能力は『転移』であった。


 如何なる世界でも、それが書籍や、架空のゲームであっても、自由自在に、その世界に入り込む能力は、本来は、元の世界に戻ることも可能であったが、無意識に目覚めた能力のため、自覚出来ず、今の世界に転移して、ただ途方に暮れ、その場で、ピチャピチャしていると、


 「キング君、何やってるの?」


 と、声を掛けて来たのは、その髪型と服装から、クラインが操作する、アバターであることは、すぐに解った。


 「え?あ、あの」

 「こんな暑いのに、地面で寝てたら、干上がっちゃうよ」

 「い、いや、どう戻っていいか、解んねぇんだよ」


 仮にも、クラインと言うこともあり、威厳を示そうと思っていたが、確かに、ジリジリとした、太陽の光によって、アスファルトは、焼けるように熱せられ、和馬はフライパンで焼かれる、食材そのモノであった。


 恥を忍んで、クラインに、人間になる方法を尋ねると、


 「もー、今日は暑いし、流石のキングもボケボケしちゃうよね」


 と言って、人間になる方法を教えて貰うと、和馬は、ようやく、地面をその両足で立ち、


 「助かったぜ」


 クラインに礼を言うと、当の本人は、目を丸くして、驚いた顔で、


 「キング君が、お礼を、僕に?」


 信じられない、といった表情で、その場で硬直していたが、次第に顔が綻び、満面の笑顔になると、


 「ううん、全然、全然だよ!」


 と言って、嬉しさを全身で表すように、その場で、人間と、海洋生物の姿を高速で変化させた。


 ゲーム内では、本来、敵を煽る行為でマナー違反だが、実際の世界では、喜びを表すリアクションだったことが、クラインの態度を見て、和馬は、ゲームの世界の価値観を、一つ理解すると、


 「へっ!マジで来ちまったんだな、この世界によ!」


 先程までの動揺は露と消え、全身を漲る活力は、すぐに、バトルへの渇望へと変わっていった。


 「クライン、バトルはいつも通りか?」


 確認するように、クラインに尋ねると、


 「う、うん、そうだけど」

 「やるか!」


 我慢出来ず、ロビーに続く道に向かおうとするが、


 「ま、待って、キング君!」


 慌てたように、クラインが制止すると、


 「何だよ、クライン」


 和馬ことキングは、逸る気持ちを押さえられずにいるが、


 「キング君、武器も装備も、全然ないじゃない、どうしたのさ?」

 「へ?」


 キングは、クラインの言っている意味が解らなかった。


 現実では、全武器、全装備をコンプリート済だったからだ。


 まさか、この世界に来た弾みで、帳消しになったのかと、キングは慌てたが、それでも、初期武器ぐらいあるだろうと、身体の隅々を確認したが、シューター一つなかった。


 服装だけは、ガチガチの初期装備で身に着けていたのが、唯一の救いだった。


 これが無かったら、公然猥褻罪で御用となっていただろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。