第14話 ゲーマーの夢
和馬がクラインに助言したのは、プレイは荒削りながら、そのセンスを、高く評価してのことだった。
和馬が、他のプレイヤーを認めることは珍しく、それ故に、その発言を聞いたクラインは、
「キ、キング」
と、声を震わせて歓喜していた。
「丁度13時間経過した、か」
和馬が時計を確認すると、
「今日は上がりだ、お疲れ」
「は、はい!またお願いします」
ヴォイスチャットを切ると、パソコンの画面を消した。
ゲーム界隈では、ゲーム廃人と言う言葉をよく耳にする。
和馬は、この言葉をネガティブに捉えておらず、寧ろ、モチベーションを保つ、誇らしい言葉としていた。
よくTwitter上で『俺は6時間連続でゲームしたぜ、廃人決定だな』と、書き込みをする馬鹿を見ると、和馬の怒りは凄まじく、12時間の壁を越えてから物を言えと、吐き捨てるように、その発言を侮蔑した。
時間の感覚が、やや曖昧な思考で、机には、エナジードリンクが数本、ディスクに無造作に置かれ、ゲーミングチェアに凭れ掛かっていると、
「……」
ふと和馬は、子供のように空想に耽っていた。
それは、幼い頃、戦隊モノのヒーローに憧れて、ごっこ遊びをするように、ゲームの世界のキャラクターとなって、縦横無尽にバトルに明け暮れるという、取り留めの無いものだった。
しかし、その瞬間、和馬が感知出来ない深層意識に、魔法の能力が覚醒し、異変が起きた。
「!」
脳を揺さぶるような感覚に、最初は、長時間のゲームのやり過ぎで、脳がトリップしたのだと思ったが、それ以上とも言える、現実離れした現象が起きると、
「な、何だ!」
自分のいた世界が暗転すると、消したはずのパソコンのディスプレイから、眩い光が全身を包み込むと、部屋から、その肉体は忽然と消えていた。
時間にして数秒だったが、次に和馬が目覚めた場所は、見覚えのある、歩行者天国のアスファルトの地面だった。
「う、う~ん」
目覚めた和馬は、すぐに違和感に気付いた。
身体がやけに軽く、フニャフニャとした、軟体生物のように、全身の骨がなく、落ち着きのない状態で辺りを見回すと、建物に備え付けられた鏡を見て絶句した。
「は?ま、マジか……」
驚くのも無理はない。
和馬の姿は、海洋生物の姿となって、ピチピチと、その場で跳ねていたのだから。
その姿は、ゲームに登場する、キャラクターそのもモノで、事態を素直に飲み込めず、
「ヤベーな、やり過ぎて変な夢を」
と、冷静になって、夢が醒めるのを待っていたが、街頭の時計が1時間経過しても、一向に醒めることはなかった。
そして、サーッと血の気が引いていく。
空想で思っていたことが、いざ実際に現実のモノとなると、人間と言うのは、受け入れることが容易ではないらしい。
そう、和馬が目覚めた能力は『転移』であった。
如何なる世界でも、それが書籍や、架空のゲームであっても、自由自在に、その世界に入り込む能力は、本来は、元の世界に戻ることも可能であったが、無意識に目覚めた能力のため、自覚出来ず、今の世界に転移して、ただ途方に暮れ、その場で、ピチャピチャしていると、
「キング君、何やってるの?」
と、声を掛けて来たのは、その髪型と服装から、クラインが操作する、アバターであることは、すぐに解った。
「え?あ、あの」
「こんな暑いのに、地面で寝てたら、干上がっちゃうよ」
「い、いや、どう戻っていいか、解んねぇんだよ」
仮にも、クラインと言うこともあり、威厳を示そうと思っていたが、確かに、ジリジリとした、太陽の光によって、アスファルトは、焼けるように熱せられ、和馬はフライパンで焼かれる、食材そのモノであった。
恥を忍んで、クラインに、人間になる方法を尋ねると、
「もー、今日は暑いし、流石のキングもボケボケしちゃうよね」
と言って、人間になる方法を教えて貰うと、和馬は、ようやく、地面をその両足で立ち、
「助かったぜ」
クラインに礼を言うと、当の本人は、目を丸くして、驚いた顔で、
「キング君が、お礼を、僕に?」
信じられない、といった表情で、その場で硬直していたが、次第に顔が綻び、満面の笑顔になると、
「ううん、全然、全然だよ!」
と言って、嬉しさを全身で表すように、その場で、人間と、海洋生物の姿を高速で変化させた。
ゲーム内では、本来、敵を煽る行為でマナー違反だが、実際の世界では、喜びを表すリアクションだったことが、クラインの態度を見て、和馬は、ゲームの世界の価値観を、一つ理解すると、
「へっ!マジで来ちまったんだな、この世界によ!」
先程までの動揺は露と消え、全身を漲る活力は、すぐに、バトルへの渇望へと変わっていった。
「クライン、バトルはいつも通りか?」
確認するように、クラインに尋ねると、
「う、うん、そうだけど」
「やるか!」
我慢出来ず、ロビーに続く道に向かおうとするが、
「ま、待って、キング君!」
慌てたように、クラインが制止すると、
「何だよ、クライン」
和馬ことキングは、逸る気持ちを押さえられずにいるが、
「キング君、武器も装備も、全然ないじゃない、どうしたのさ?」
「へ?」
キングは、クラインの言っている意味が解らなかった。
現実では、全武器、全装備をコンプリート済だったからだ。
まさか、この世界に来た弾みで、帳消しになったのかと、キングは慌てたが、それでも、初期武器ぐらいあるだろうと、身体の隅々を確認したが、シューター一つなかった。
服装だけは、ガチガチの初期装備で身に着けていたのが、唯一の救いだった。
これが無かったら、公然猥褻罪で御用となっていただろう。




