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第13話 神プレイヤー

 その衝撃は凄まじかった。


 宗教関係者は、自分達が信仰する世界が証明され、一般人にとっては、飽くまで、冠婚葬祭での、煩わしい行事に於ける、説法としてあった架空の世界観であり、それ以上に、この苛烈な光景を見て震え上がったのは、犯罪を犯すことに、何の躊躇もしなかった人間達であろう。


 「……な、何てことだ」


 国際犯罪組織のボスである、カイン・ウィリアムズは、だだっ広い私室のリビングで、グラスに注がれていた、ウィスキーを思わず落とすと、その地獄の光景を目の当たりにして、


 「オー、ジーザス、オー!」


 それまで、神など信じていなかったカインが、縋るように跪き、手を組んで、懇願するように、聖書の言葉を魘されるように呟く。


 このような光景は、カインだけでなく、テロリストのような、己の神の名を掲げることで、その凶悪な行為を正当化し、悪行の限りを尽くしてきた人間達の思考を、根本から引っ繰り返した。


 マーリンの行動は、それまでの人類史の足跡に、特大の爪痕を残したと言っても過言ではない偉業を、彼自身は無自覚に、ほんの思い付きで実行してしまったのだ。


 斯くして、この事変は後生に生きる、スティーブの時代まで、多大な影響を及ぼし、一つの楔となって、今日の犯罪抑止力に、絶大な効果を発揮するシステムの根幹となった。


▼Case.3 織田 和馬 Age 18


 西暦2018年 6月6日 水曜日 日本


 和馬(かずま)は薄暗い部屋の中で、キーボードとマウスを操作して、ブルーライトの強い光に、瞬き一つせず、画面内で繰り広げられる戦闘に、意識を集中していた。


 「ああ!このボケが、ミスってんじゃねぇよ、トーシロがぁ!」


 バンッと、キーボードを叩くと、和馬はイライラとした口調で、同じクランのプレイヤーに罵詈雑言でディスると、ヴォイスチャットで、やり取りしていた仲間の一人が、


 「す、すみません、キング」


 その声から、和馬よりも年齢が低いことは解るが、和馬も実際にあったことはなく、オンライン上で知り合ったフレンドで、和馬のプレイに惚れ込んで、熱いファンメールを何通も送ってアピールし、流石の和馬も根負けして、フレンド申請を許可したのだった。


 和馬がプレイしている、ゲーム上のシステムとして、フレンドの上限は三百人で、常に、戦ったプレイヤーからのフレンド申請が、引っ切りなしに、画面左上に現れるので、当の本人は、プレイに集中出来ないと、イライラするが、その神業のプレイに、影響が出る事は決してなかった。


 「クライン。左の壁裏に、一人、あとスペシャルを発動する野郎が、リスポン地点で芋ってる。壁裏の馬鹿は、お前の武器なら、楽に倒せるぜ、いいな?」

 「は、はい!了解です!」


 先程、こっぴどく怒られた少年、クラインが、汚名返上とばかりに、颯爽と敵陣に向けて移動していった。


 和馬がプレイしているゲームは、4対4という、小規模な人数で行う、ジャンルで言えば、TPSの部類で、海洋生物と、人間が切り替わることで、多彩なアクションが出来る。


 発売当初から、開発元のゲーム会社が、積極的にテレビコマーシャルを流し、ユーザーの目に触れる機会を増やすことで注目を集めると、新規IPに関わらず、その人気は爆発的なモノとなり、関連商品の縫いぐるみ、カプセルトイなど、店舗に出した瞬間から、飛ぶように売れ、すぐに品切れとなった。


 「ったく、無印と違って、コッチの民度はまだマシだけどよ」


 和馬が、両手を操作しながら、


 「無印は今、チートだらけで、やれたもんじゃありませんよね」


 クラインが、合いの手を入れるように呟くと、


 「割れは仕方ねぇさ、俺は余裕だけどな」


 和馬の言葉は、自慢ではなく、至極当然の意見で出た言葉で、それを聞いたクラインは、


 「キング、パネッっす!」


 不正行為で、強化されたスペックのプレイヤーに勝つことなど、本来は不可能であるが、和馬はそんな輩に、1キルも許さず、オールダウンさせて、相手のクランが、回線を一方的に切断するという動画を、クラインが編集して、YouTubeに上げると、動画再生数は、一千万回を、優に超える神動画となった。


 クラインの動画には、広告が貼ってあり、その広告収入は、幼いクラインには、目が飛び出す程の金額であった。


 同じクランに参加していた、残りの二人が、分け前が欲しいと、卑しく、高圧的に恫喝すると、和馬が、


 「ダセぇことしてんじゃねぇよ、このクズが!テメェらとは、もう組まねぇ、消えろ、カスが!」


 と、ヴォイスチャットで一喝すると、二人は負け犬のように、捨て台詞を残して、インターネットの世界へと消えいていった。


 その言葉に感激し、


 「キング!この動画は、キングのプレイあってのモノですよ。僕には、こんな大金は多すぎます。キングにも……」

 「馬鹿が」


 和馬は、ハッと笑うと、


 「それは、お前が編集して、自分の力で手に入れたモンだろうが。俺のプレイなんざ、関係ねぇよ」

 「で、でも」


 クラインが遠慮していると、


 「俺のチャンネルの登録者、知ってるよな?」


 和馬が運営するゲームチャンネルは、日本のYouTubeでもトップクラス、顔出しは一切せず、自身のプレイだけで、多くの視聴者のゲーム魂に、熱烈な闘志を焚き付ける、和馬の存在は、そのカリスマ性に惚れ込んだユーザーに取って、憧れの存在であった。


 その収入も桁違いで、会社に就職して、上司のパワハラや、長時間の業務を熟し、ようやく手に入る給与より、遙かに多い和馬のギャランティーは、十代の若者にとって、夢のような環境であった。


 「お前も本気でプロを目指すなら、その金を、機材と回線周りの増強に使うんだな」


 オンライン対戦に於いて、個人のタレント力は最重要だが、それと同等に、大半のウェイトを占めるのが、ゲーム環境の充実である。


 コンシューマ機は、基本的に、環境が統一されているが、パソコンではそうは行かない。


 ハイスペックと、カジュアルなスペックとでは、和馬がプレイするゲームに於いて、処理速度の差は致命的だ。


 それが、高ランクプレイヤー同士の戦闘ならば、0.1秒のラグが、戦局の明暗を、大きく分けてしまうからだ。

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