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瀬戸内ロワイヤル  作者: アマテン


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7/8

山口県:前編 シャルロットの葛藤と名取舞来週

シャルロット視点


 私の名前はシャルロット・ジークハイド、由緒正しき騎士の一族の一人。しかし今の世の中血族の古さやプライドだけでは暮らしてはいけない。我が家系も伝承される剣の技術で警備会社を立ち上げ頑張ってきたが、十年前ライバル会社の犯罪の濡れ衣を被され倒産の危機。その時助けてくれたのは偶然イギリスに来ていた名取グループの社長名取雄一さんと撫子さん夫婦。名取グループの援助もあって持ち直し今まで無事生活することができた。

 その恩を返すため何かできないかと考えていたところ、雄一さんたち夫婦の子供である界殿の婚約者を決める大会が日本で開かれることを知った。これは恩を返すチャンス!今まで男の人に告白されたことはあるが、身体も精神も軟弱な者ばかりで交際する気にはなれなかった。できれば母さんたちのような一目ぼれからの恋愛をして結婚したかったが近寄ってくる男性があんなのばかりだからしょうがない。それにこの身を救っていただいたのだから、この身で返すのも騎士の誇り。

 両親の許可をもらい大会に参加。物心ついたころから一流の騎士にあこがれ、剣術・体術・礼儀作法などを学んできたので大会は順調に進み本戦に出場した。日本語や漢字などの読み書きについても勉強し続けていたので母国語並みに話しかけるので問題はなかった。


 本戦が決まり一度イギリスに帰った私の元に界殿が家出したという一報が届く。急いで名取島に向かうと雄一さんたちから詳しい事情を説明された。界殿は現在日本全国を逃げ回り、一定期間ごとにXにて痕跡を残すらしい。雄一さんたちは界殿の突然の家出に疲労困憊している。なんでこんな優しい親を持っているのに家出するんだ。二人がかわいそう。


 そんな憤りを感じながら界殿の捜索に参加。そして2か月後千光寺にて初めて顔を合わせる。ただそこに立っているだけだが全く隙がない。もし捕まえられるなら捕まえようと思ったんですが。そこから自己紹介をはじめ界殿から捕獲するための時間をもらった。最初は舐められてると思い模造剣を構え向かったが2分後


「ハァ ハァ ハァ」


 地面に手を突き動けなくなっていた。界殿に挑戦した他のみんなも動けないでいる。私の剣術はことごとく受け流され体力を削られ続けた。でもなんでだろう?私と向かい合ってる界殿の目・・


 千光寺から逃げおおせた界殿は次に山口県に向かった。今までなら私もすぐに界殿の探索を始めたんだけど


タッ タッ タッ


 私は今鳥居が立ち並ぶ階段を上っている。ここは山口県の元乃隅神社。この神社は周りが開けた場所に建てられており、境内へは123其の鳥居が連なる緩やかな傾斜を周りに広がる木々や絶壁の海を見ながら登っていく。


「はぁ~」


 今までならこの光景に感動していたのだが、あの界殿の目が忘れられない。時折やってくる雄一さん・撫子さん夫婦から日本について教えてもらってから、日本の文化や観光地に興味を持って、よく大会中や界殿の探索中にも観光を楽しんでいたんだけど。


「えっ?」


 心ここにあらずで歩いていたせいで足を踏み外し前に倒れこんでしまう。危ない!


「危ないわよ!」


ガシ


 突然後ろから声が聞こえ腕を捕まれ引き戻される。後ろを振り向くときれいな女の人がいました。


「大丈夫って日本語通じる?Can you speak Japanese?」

「大丈夫です」

「日本語うまいわね。ぼーと歩いてたら危ないわよ」

「そうですね・・」

「?なんか危なそうね、上の境内へ向かうのよね?」


 助けてくれたのは戸締孤世さん、日本の大学に通う大学生で私と同年代みたいです。孤世は私を心配して一緒についてきてくれた。この神社の境内の大鳥居には賽銭箱が設置されており、高さ6mの位置に設置されているので『日本で一番入れにくい賽銭箱』として知られているらしい。私も何度か投げてみましたが中々入りません。


「何があったか話してみたら?気持ちの整理になるかもよ」


 確かにそうかもしれない。知り合って短いけど孤世はいい人そうだし何かアドバイスもらえるかも。それに軽く話をしたところ孤世は界殿の婚約者候補の大会は知らないみたいだし。


「孤世は婚約者や恋人はいる?」

「いないけど?」


 私は千光寺であったことを濁して説明する。あの時私を見る界殿の目は冷たかった。武道の心得からよく相手の目を見て動きを読むことがあるので、相手の瞳を見る機会は多い。あの目はまるで私自体に興味はなく、ただ動きを見てるだけ。他の婚約者にはあんな目を向けていなかった。なんで?


「うーん、所々濁されてよくわからないところはあったけど、何となく相手の気持ちは分かったわよ」

「え?」

「シャルロットの自己紹介だとその恩義のある夫婦のために結婚するように聞こえて、彼には興味がないみたい。まあ、政略結婚で両方が納得してたらいいけど周りには彼に好意を抱いている人もいるんでしょ?だったらそんな態度取られるわよ」

「・・・」

「そんな気持ちなら彼との結婚は考えた方がいい思うわよ。政略結婚は別として、基本結婚ってお互いのことを知って一緒に過ごしたいと思ったらするものでしょ?そんな気持ちなら相手にも失礼だし」


 言いたいこと言って孤世は指で5円玉をコイントスの要領で弾く。5円玉はきれいな放物線を描き飛んでいき


チャリン


「お、入ったわ。じゃあ私帰るわね」


 孤世は鳥居の道を下っていく。私は近くのベンチに腰を下ろし頭を抱える。何してるんだろう、私。確かにあんな自己紹介、それも初めて会う界殿に失礼じゃないか。確かにあんな冷たい目で見られる。彼との結婚を雄一さん夫婦に恩を返す手段としか考えていなかった。どっちみちこんな気持ちじゃ本戦に挑んでいても他の候補者に負けていたわ。


 そんな後悔の中、私の脳内はクリアになってくる。ベンチに座って20分後、


「よし」


 私は立ちあがり、5円玉を賽銭箱に放り投げる。5円玉はそのままきれいな円を描き


チャリン


 賽銭箱に吸い込まれていく。



「界様、舞様がマンションに入ってきました」

「え?・・おばあちゃんたちに聞いたのかな?舞さんの他には?」

「望がいます。それ以外はいません」


 舞さんは雄一さんの妹つまり俺の叔母に値する人物で有名な小説家だ。それも言語に対する習熟速度が速く十か国を超える言語の読み書きができ、様々な国で本を出版している。名取島で暮らしていた時に何度かやってきておばあちゃんたち同様親しくさせてもらった。たしか名取島で一緒に暮らすためにいろいろ準備するため世界を飛び回っていたはず。今の連絡先も伝えてないから連絡も取れないし。ちなみに『舞おばさん』と呼ぶと切れる。すごく切れる、

 望さんは舞さん専属のメイドで、実力はマスターランクでクロエに次ぎ舞さんの様々なトラブルを解決するトラブルシューティングのプロ。まあ、一応


「逃げれる準備だけしていて」


 山口県の拠点は高層マンションの一室。おじいちゃんの知り合いに協力してもらって山口県にいる間お借りしている。このマンションのセキュリティは非常に硬く、ここの場所がばれるのはおじいちゃんたちからしかありえないと思う。


「界君、久しぶり」

「ふぐ」


 部屋に入ってきた瞬間舞さんが抱き着いて、胸の感触で鼻が防がれる。まあいつものことだからされるがまま。1分ぐらいしたら解放されやっと話ができる。


「ん~、満足満足」

「おじいちゃんたちから場所聞いたの?」

「ええ。界君が家出したって聞いたときすぐに兄さんたちに連絡したけど、まああんな感じだったから。でやっと動ける状況になったから父さんたちに場所を聞いてやってきたの。もちろん私たちは界君の味方よ。苦戦してたら望を貸し出そうと思ったけど、クロエたちが付いてるなら大丈夫そうね。もし手伝ってほしかったら言ってね」

「うん、ありがとう」

「それで一週間ぐらい泊まろうと思ってるんだけどどこ行こうか行きましょうよ」

「俺たちも予定は組んでてね」


翌日


「そろそろ見えてきますね」


 俺たちは錦川をボートで下っている。操者はクロエ・望さん。業者に頼もうかと思ったけど二人がボート操れるんだって。マスタークラスってスゲー。ボートが向かう先には錦川を掛ける大きな5連アーチの橋が見えてきます。


「あちらが錦帯橋です。継手や仕口などの精巧な組木の技術で造られた橋で何度も改修され現在も使用されている日本三名橋や日本三大奇橋の一つです」


 クロエの説明を聞きながら錦帯橋をくぐっていく。錦帯橋のをよく見ると使用されている木材にも色や朽ち具合に違いがあり、地元の人が何度も修繕し使い続けたのが分かる。


「金属やプラスチックを使わず木材だけっていうのがいいわね。職人の誇りや技術の伝承がうまくいってるのね」

「木製だけって珍しいと思ったけど職人のことは考えなかったよ。さすが舞さん、目の付け所が違うや」

「界もこれからよ。私の場合、小説の取材で木細工の職人に話を聞いたことがあったからね。界君はどんなところに注目したの?」

「俺は木材の種類や朽ち具合を見てた」

「確か違うわね。修復の時期の違いがはっきり分かるわ」


ボートから降りたら次はロープウェイに向かう。


「ロープウェイって揺れないんだね」

「界君はロープウェイは初めて?」

「うん」

「確かに日本じゃ乗る機会少ないよね。高山地帯の国々だと結構使われてるわよ。まあ吹き抜けとかもっと左右にぐワングワン揺れるけど。さすが日本製ってとこね、安全設計はきちんとされてるわ」


 ロープウェイの座席に座り周りの景色を見る。眼下には森が広がっており普段では見れない木のてっぺんの姿が見える。あれは鷲かな?大型の鳥が木のてっぺんに留まってる。森の奥には先ほどボートで渡ってきた錦川と錦帯橋それと街並みが見える。


「いい景色だね」

「ええ、岩国市を一望できるわね。街並みもおもむきがあっていいわね」


 ロープウェイが向かう先は岩国市の山頂にそびえたつ巨大なお城:岩国城。


「城巡りは日本観光の醍醐味の一つよね。一つの地域に複数の城があるなんて日本ぐらいよ」 

「岩国城は毛利家の家臣吉川広家が建てた城ですが廃墟され戦時中は使われなかったみたい」

「廃墟?」

「ええ。当時は大名が家臣に城を持たして、別荘感覚で出向いて自分の国(領)を統治していたんだけど。幕府が大尿として登録できる城は一つまでという一国一城令を発し、その時城としての機能を破棄させられた主のいない白となったの。それが廃城。それから色々あって明治維新の年短い間だけど藩として認められて主のいる城と認められたんだけど、廃藩置県によってお役御免となったわけ。まあ城として戦争には使われなかったから文化財としてきれいに残ってるんだけど」

「へぇ、城に歴史ありだね」


 ロアがタブレットを見ながら説明してくれる。


「でも城を別荘替わりなんてスケールが違うね」

「まあ実際は役所って感じかもしれないけど。まあどっちみちスケールはでかいわね」


 そろそろ昼時、本日の昼食はラーメン。


「観光に行って、その土地のご当地ラーメンを食べる。これも日本の楽しみ方よね」

「具材はもやし・ネギ・チャーシューとシンプルでスープはとんこつみたいだけど、これが牛骨からとったスープね?」


 俺たちが頼んだのは下松牛骨ラーメン。スープはさらっとしてこの独特な味と風味が牛骨なんだね。


ズルズル


 麵は中太面でスープと絡まってスルッと胃に入ってくるね。


「付け合わせのいなり寿司もおいしいわね。ご飯にはいりごまが混ぜられてるわね」

「なんかの記事で見たけど地方によってはいなりの中身って変わるんだよね?」

「はい。ニンジン・シイタケ・レンコンなどを加えたちらし寿司風、豆腐やひじきを加えたヘルシー風、鶏肉やエビなどを入れたがっつり風などがありますね」

「へえ、どれもおいしそう」

「今度作らせていただきます」

「ありがとう。お願い」


 俺とクロエの会話を聞いて舞さんと恵さんが微笑んでいる。


「どうしたの?」

「ロアちゃんもだけどクロエちゃんとも良好な関係を気づけてるのね。安心したわ、名取島にいたときは常に警戒していて島内の人には打ち解けていなかったでしょ?」

「まあ常に監視されていたからね、メイド隊含め」

「それは申し訳ありません。本来専属になるってことは、専属になった方のために時にはサポートに回り時には叱ったりとその方のことを考えて行動します。本来動向を監視するのもどうかと思いますが狩りに頼まれたとしたら専属にはならないのがメイド界の常識なのですが」

「クロエが謝ることじゃないよ。彼女自身の判断なんだから。さあラーメン食べて次の場所に向かおう!」



「すごい透明。沖縄や海外の海みたい」


 次に来たのは別府弁天池。別府厳島神社の境内の推進4mほどの池で、最大の特徴はエメラルドグリーンに光るその水の透明さ。石灰岩を多く含む土地が水で溶け変化した大地:カルスト台地から染み出た水が湧き出ており、太陽の光の当たり方・見る場所で池の光り方は変わってくるので見ていて飽きない。


「あれは鯉ね。池の色で初めて見る色のコイに見えるわね」


 確かにエメラルドブルーの鱗のコイに見える。元は白い鱗なんだろう。池の中には他の小魚やサワガニ・カエルなど多種多様な生物も生息しており見て飽きない。


「ちょうどいいしあの鯉を主役に写真撮ろう」


 パシャ


「ほら、界君。神社にお参りに来ましょ?」

「うん」



「今日の夕ご飯は長州黒かしわという山口の地鶏をふんだんに用いたお鍋です」


 クロエが持ってきたのは大きな黒い鍋。中にはかしわ(もも肉)や手羽先、胸などの鳥の部位や鶏肉をミンチに自然薯を混ぜ込んで作った自家製の団子・白菜やもやし、水菜、キノコ類も入ってる。


 クロエに掬ってもらった小鉢の中の出汁を飲んでみる。

 

「おお、すごい鳥のうまみ」


 濃厚な鳥のうまみに昆布だし・あとから足されたポン酢の味が合わさって味わい深い味に。つぎはかしわ(もも)部分。


「肉は柔らかいけど、噛み応えは十分あるね。出汁もしっかり吸い込んでるし」

「手羽先もおいしいわよ。身がほろほろで骨からぽろって外れるわ」

「野菜も食べてみてよ、界様。出汁がしみ込んでておいしいわよ」


 ロアのおすすめの野菜も食べえみる・・本当だ。出汁がしみ込んでるわあ。エノキもシイタケもかみ切るごとに出汁とキノコのうまみが染み出てくる。


「こちらもぞうぞ」

「早速作ってくれたんだね。ありがとう、みんな」


 クロエが差し出してきたのはいなり寿司。食べてみると


「中身はひじき?」

「はい。それぞれ器ごとに中身は変えています」

「そうなんだ。次は何を食べようかな?」

「ねえ、望。締めはどうするの?」

「うどんを入れようと思ってます。明日の朝はご飯を入れておじやを作ります」

「それは楽しみね」

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