始まりの家出
<登場人物>
名取界
名取一郎
名取撫子
名取雄一
名取佐那
白金クロエ
ロア
狛犬霧子
真柴百合子
真柴(母)
真柴(父)
名取島に来て6か月後
コンコン
「界様、起きていますか?」
8時過ぎ、起きてこない界を起こしに霧子が扉をノックして声を掛ける。返事がないので扉を開け界の自室に入ると寝ているはずの界はベッドにおらず部屋の窓は開いている。霧子は部屋の中を見渡し机の上に紙と手紙が置かれているのを見つける。紙には
『家出します。詳しい理由は手紙の中のUSBの動画を見てねby界』
それを見た霧子は直ちに無線で連絡しながら移動する。
『界様が家出しました。シフトをエクストラに変更。市スホイ外の人員は直ちに昨日21時以降の島内の監視カメラをチェックし界様の動向を確認しなさい。私はすぐに旦那様と奥様に話してきます』
「旦那様・奥様、霧子です。失礼します」
霧子はノックなしに二人のいる部屋に入る。部屋の中では雄一と撫子がソファに座り界が起きてくるのを待っていた。
「どうしたの、霧子ちゃん?」
普段冷静な霧子の慌てた様子に何事かと聞く撫子。霧子は二人に界が書いたメモと手紙を渡す。
「先ほど界様の部屋に様子を見に行ったところ界様がいませんでした。部屋の中を探したところ机の上にこのメモと手紙が。これから筆跡鑑定をしますがおそらく本人かと」
「なんだって」
「なんですって」
霧子の言葉を聞いて二人は驚いて叫ぶ。しばし動揺していた二人だがすぐに動き出す。
「現在の状況は?」
「すでにメイド隊のシフトは変更、最低限の人員以外は島中の昨日の21時以降の監視カメラの確認をしています」
「わかった。なら手紙の中身を見てみよう」
雄一は買いが残した手紙に触れてみる。
カサカサ
手紙の中には長方形の何かが入っている。手紙を開けて傾けてみると1本のUSBのみ入っており、すぐにPCに差し込み中身を確認してみる。
「中身は一本の動画だな」
動画を起動してみると界が名取島の自室の部屋で座っている映像が流れていく。
『えーと写ってるね。これを見ているってことは僕が家出したってのは伝わっているよね?家出の理由だけど教えないよ。自分たちで考えてみてよ。少しヒントを与えるとこの家出計画はこの名取島に来た時からもしもの時にすぐに出ていけるように考えてた計画。それと僕の中での認識だけど一郎爺ちゃんと佐那おばあちゃんは家族、雄一郎さんと撫子さんは血のつながった赤の他人、狛犬さん含む名取島で出会った人は監視員で味方って認識じゃないから。
さてこれからの話をしよう。雄一郎さん撫子さん勝負をしよう。いまは4月一日、僕はこれから7か月間、日本各地を逃げ回るから捕まえてみてよ。捕まったらこれからそっちの指示に従って生きるけど、捕まえれなかったら完全に消息を絶つから。さすがに何の情報もなく探せって言うのは難しいから1週間に一本僕が作った動画を僕のXのアカウントに流すから。
ルールだけどそちら側の参加者は名取家の関係者。一般人は巻き込まないでね。武器は使ってもいいけど一人でも重傷者が出たら強制終了。完全に消息を絶つから。今のところルールはこれだけ。そっちが変なことをしない限りルールの追加はないから。
さて説明するのはこのぐらいでいいかな。僕のXのアカウントは名取島の僕の部屋のPCのエクセルに書いてあるから確認してね』
そして画面の界は一呼吸すると
『全力でかかって来いよ。油断してると7か月間俺の痕跡さえ見れないかもよ』
そう言い残し動画は終わる。それから2時間後
「界が家出しただって?」
雄一たちから話を聞いた一郎・佐那・クロエが名取島の別荘にやってくる。
一郎たちはすぐに界が残した動画を確認する。
「監視カメラを確認して昨日の界の21時以降の動きはわかった。窓から木を使って地面に降りてそのまま本島とつながっている橋に移動。橋の整備用の通路を通り本島に渡ったみたいだ。それ以降の足取りはわかっていない」
「二人はなぜ界ちゃんが家出したかわかったの?」
「タイミング的にいいなずけの企画のせいでしょ?勝手に決めて拗ねてるんじゃないかしら?」
「そうだな。せっかく会う時間も削って界のためにこの企画を考えたのにな。いろいろ関係各所に連絡しないと。少しは大人になってほしいものだ」
「そうか・・」
一郎たちは二人からその話を聞いてため息をつく。雄一たちはそのまま屋敷から出て界の探索を始める。一郎たち参院は最初の現場である界の部屋を見に行くことに。
「どこで間違ったのかしらね?雄一の教育」
「そうだな。界の家出の理由に全く気付いていない。このままだと界の勝ちだろうな、この勝負」
二人は先ほどの雄一たちとの会話を聞き落胆する。一郎たちも界の計画は知らなかったが、家出の理由に関しては何となく想像はついた。でも唯一郎たちには伝えない。これは親として彼らが気づかないといけないことだから。
「でもまさか全国規模のかくれんぼをするとは思いませんでしたね」
「ああ。発想がぶっ飛んでるな。さすが儂たちの孫じゃ。これからどう成長するか楽しみじゃ」
そんな会話を続けながら界の部屋に入る3人。界の部屋だが事前に何か情報がないか調査され少しあれている。部屋を見渡したクロエは違和感を見つけ一郎たちに静かにするようにジャスチャーをする。確信を得たクロエはメモ帳を取り出しさらさらと何か書き二人に伝える。それを見た一郎は
「もう雄一たちは思惑通り家を出たぞ。わしたちはお主の味方だから出てきなさい、界」
ゴトッ
すると天井のいたが一枚ずれそこから出てきたのは・・・
前日21時界の部屋にて
扉を閉めた後、バッグに必要な物を詰め窓を開ける。さあ計画を進めよう。窓のふちに手をかけぶら下がる。さらに一段下の出っ張りに足をおろしカニ歩き、大きな樹の側までくると
ダンッ
太い枝に飛びつきぶら下がり、そのまま太い幹まで移動して地面に降りる。監視カメラの位置はすでに確認済み。あとで追跡がしやすいようにわざと監視カメラに映りつつ本島をつなぐ橋の近くに到着。
このまま橋の上を渡ると監視しているメイドにばれるの。なので橋の点検用の通路に向かう。この通路は橋全体に異常がないか検査するために作られ、基本1か月に一回検査される時まで使われない。なので警備もパスワードと指紋スキャン、監視カメラの3つ。パスワードは管理室で確認済み、指紋認証は名取島に来た段階で登録済みで通れるんだけど、ここは工具で電子版を外しコードを切って進入する。そのまま本島側に行き近くの監視カメラに映る。これで計画の第一段階は終了。
そして監視カメラに映らないようにUターンしてまた橋を渡って名取島の自分の部屋に戻る。これで本当に逃げたと思うはず。俺はそのまま机にメモと手紙を残すと天井の壁を外し天井裏に入る。実はこの屋敷の天井外すことができ、天井裏には人がしゃがんで入れるくらいのスペースが広がっている。ここにいればばれないでしょ。一応天井裏を覗かれても大丈夫なように最終手段も隠してるけど。
6時ごろまで天井で寝て息をひそめる。8時になると狛犬さんが扉を叩いて起こしに来る。何度かわざと寝坊して確認したから。それから屋敷の中はあわただしくなる。屋根裏からは部屋の中は確認できないけど壁の切れ目から玄関近くの様子は確認。いまはメイドのシフトが緊急シフトに変わってるから捜索隊が外に出たら一気にこの島の見張りは手薄になる。そのタイミングで橋を渡って外に出ればOK。軍資金だけど今まで真柴家で貯めた貯金と名取島に来てお小遣いとしてもらった300万(50万×6か月。確かに破格の値段だけどお金さえ渡せばいいとでも思ったのかな?)の計400万。これだけあれば計画は実行できる。
2時間後、たまに聞こえる声からそろそろ雄一さんたちが本格的に探索を始めるタイミング、一郎じいちゃんとさえおばあちゃん・クロエさんがやってきた。さすがに来ちゃうよね。できることならおじいちゃんたちが来るまでに外へ出たかったんだけど。雄一さんたちが大多数を連れて本島に向かって数分後おじいちゃんたちが部屋へやってくる。俺は物音を一つも立てず、呼吸音も小さくする。でも
「もう雄一たちは思惑通り家を出たぞ。わしたちはお主の味方だから出てきなさい、界」
さすがクロエさん、ばれちゃったか。俺が天井の床をはがし部屋に降り立つと3人がこちらを見ている。
「どうしてわかったんですか?」
3人に話しかけながらゆっくり窓際による。よし、これで最悪逃げ出すことはできる。
「天井の一部のほこりが無くなってますね。まるで天井の床を取ったみたいに。あとわずかに呼吸音も聞こえました」
「それともう一度言うが儂たちはお主の味方じゃ。家出する理由も・・・・だろ?だから窓から飛び出そうとするなよ」
うわあ、いろいろ気づかれてる。
「とりあえず、このままここで話すのはまずいだろう?わしらが乗ってきた飛行機で名取島から出るぞ」
おじいちゃんたちの言う通りいつこの部屋に誰か来るかわからない。いろいろばれてるし、雄一さん達に話してないってことは本当にこっちの味方なのかもしれない。3人に誘導され駐車場に向かう。
「界様、そちらの部屋へ隠れてください」
道中、クロエさんに指示されそばの部屋に入り窓際まで移動して隠れる。数秒後扉の前に人の気配が追加される。
「一郎様・佐那様、用事は終わったのですか?」
「ああ。一応部屋を見たけど何もわからなかったのだが。ここで儂らがいても何もすることないだろうしそろそろ帰るわ。そっちも忙しいだろうから見送りは良いぞ」
「わかりました。お気をつけてお帰り下さい」
そのままメイドたちを見送ったおじいちゃんたちは
「もういいぞ、界ちゃん」
部屋から顔を出すともうそこには先ほどのメイドたちはいなくなっていた。
「他のメイドたちにも通信で伝えましたのでこのまま車に向かいましょう」
それから誰にも出会わずおじいちゃんたちの乗ってきた飛行機までたどり着く。じいちゃんたちが乗ってきたのはいつも移動用に使っている室内を改造した輸送機。運転はクロエさんで俺たちは後部座席のソファに座り、輸送機は飛び立つ。
「さて計画を話してくれ、界ちゃん」
「当初の予定とは違ったけど名取島から脱出したら雄一さん・撫子さんが学生の頃巡った瀬戸内の7県(兵庫県・岡山県・広島県・山口県・香川県・愛媛県・福岡県)を探索しようと計画してます。手紙に書いた通りヒントとして各所で1分余りの動画を撮って載せようと思ってる」
「だから期限が7か月なのね。それに瀬戸内を巡ったら気づいてくれるかもしれないわね」
「なら内を拠点とするか?」
「いや、予定通りネットカフェやホテルで暮らすよ。これも経験だから」
「資金はどうなの?」
「一応400万はここに入ってるから」
「ならそれはもしもの時に持っときな。このカードを使いなさい。引き出し上限はないし、儂個人のカードだからばれることもない」
じいちゃんは財布から一枚の黒いカードを差しだす。これってブラックカードってやつ?
「旦那様・奥様、界様についていってもいいでしょうか?」
突然クロエさんが会話に入ってくる。僕についてくるってどういうこと?それを聞いたおじいちゃんとおばあちゃんは少し驚いていたが
「いいぞ。むしろこっちから頼もうとしてたが・・そうか・・つまりそういうことだな」
「はい、決めました」
「わかった」
「ちょっと待って?」
「どうした、界ちゃん?」
「何の話をしているの?」
「何ってサポート役としてクロエに付き添ってもらうんだが。クロエがサポートに入ったら便利だぞ?この子は全てが一級品だから。それと内からもう一人、PCなどが得意なロナもつけよう」
確かにクロエさんが付いてきてくれたらありがたいし、ロナも来てくれたら万全なメンバーになるけどいいの?これって名取家に対する真っ向からの反逆だけど?それを説明すると
「これは私の意思ですから誰も縛ることはできません」
クロエさんにきっぱりと言われちゃった。これは断れない。ということで強力な仲間ができました。
「絶対参加するわ。そんな面白い話断るわけにはいかない」
じいちゃんたちが住んでる屋敷にたどり着きロナに説明すると前のめりに参加を表明。彼女の名前はロナ・フィレン。銀髪のポニーテールがトレードマークでPC作業やハッキング技術はメイド隊随一。MRはエキスパートだがPCなどの電子機器などの知識だけは誰にも負けない。どれくらいすごいかというと電子機器の故障を自力で修理することができる。橋の電子ロックの解除も彼女から教えてもらった。
クロエさんはこの屋敷のメイドたちの統括を、ロナはセキュリティ関連の統括をしている。長くても7か月離れるからそれら仕事はどうするのかと聞くと、二人ともいい機会だから後継者を育てるらしい。
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