突然変わる生活
<登場人物>
名取界
名取一郎
名取撫子
名取雄一
名取佐那
白金クロエ
狛犬霧子
真柴百合子
真柴(母)
真柴(父)
今日は1学期の終業式、明日からは夏休み。校門前で人を待っていると
「兄ちゃん、お待たせ」
妹の真柴由利が走ってやってくる。由利は中学2年生、僕は中学3年生で一緒の中学校に通っている。基本的に登下校は一緒。今日も通いなれた通学路を歩いて家に帰る。
「お母さんたち、どんな用事かな?」
「さあ?旅行の計画とかじゃない?」
「そうかも。今年はどこがいいかな?京都とか沖縄?」
「どこも混んでそうだよね」
数日前、母さんたちに終業式の後どこにもよらずすぐに帰ってきてと頼まれていた。梨々花の言う通り旅行の話かな?確かに早く話してもらった方が予定が調整できるからいいけど。梨々花とたわいない話をしながら家に戻ると
「何あれ?映画でよく見る高級車?り、り、リプトン」
「リムジンな。リプトンだと紅茶のメーカーじゃん」
このリムジン、家の前で停まってるってことはお金持ちのお客でも来ているのか?とりあえず家に入ってみるか。
「「ただいま」」
「おかえりなさい二人とも。荷物を置いたらリビングに来て」
リビングから母さんの声が聞こえる。自室にカバンを置いてリビングに降りると母さん・父さんの他にもう一人女性が椅子に座っている。その女性が来ている服だが
「え?メイドさん。なんでメイドさん!」
僕の後からリビングに入ってきた梨々花が驚いて叫ぶ。そう、家の中にメイドさんがいる。以前テレビの特集で見た王宮などにつかえてそうなクラシカルなタイプのメイド服。このリビングの間取りの中では違和感しかないね。
「驚くのもわかるけどとりあえず座りなさい、二人とも」
父さんに促され椅子に座る僕たち。配置としては4面のテーブルの内、僕の隣に梨々花、正面に父さん・母さん、右隣の面に謎の女性。父さんは少し目をつぶった後話し出す。
「界、今から話すことは本当のことだ。ゆっくり受け入れてくれ」
「え?何?すごく怖いんだけど」
父さん達の表情は怒ってるわけでも落ち込んでいるわけでもなく初めて見る表情。なにかすごく言いづらそう。一体これから何を話されるの。すごく怖いんだけど。
「実は界、あなたは私たちの本当の息子ではないの」
「・・・・え?」
いきなりのことで頭が真っ白にある僕。
「混乱しているだろうが真実なんだ。界は俺たちの親友の息子なんだが、幼いころの度重なる誘拐未遂が起こってこのまま育てるのは危ないってことで俺たちに預けられたんだ。誘拐未遂事件に関してはすぐに犯人はわかったが、その原因を取り除くために今までかかってしまったらしい。今年の4月に解決したことを知らされた俺たちは相談した結果、今日伝えることにした」
「それでね、界ちゃん。あなたの本当の両親の名前は名取雄一・撫子というのよ」
「名取雄一・撫子・・何か聞き覚えがある」
「テレビで言ってた。NATORIの社長だよ、兄ちゃん」
梨々花の声で思い出す。そういえばテレビで見たことあるわ。でもまだ全然理解が追い付いてない。これって現実?
「これが証拠よ」
母さんが出してきたのは1枚の紙。その紙は僕の戸籍謄本。戸籍謄本には僕の名前と母親と父親の名前が書かれている。僕の名前は名取界、父親の名前は名取雄一、母親の名前は名取撫子。それを見た僕の心にすとんと何かが入ってくる。これは納得?
「本当のことなんだね。僕の本当の名前は名取界」
「ああ。名前に関しては役所で一時的に変えさせてもらった。界が名取だとばれると意味がないからな」
「つまり僕は家族じゃなかったんだ」
一気に心が冷えていく。だけど
「それは違うわ、界ちゃん。私たちは梨々花と同じようにあなたに愛情を注いできたわ。間違いなくあなたは私たちの家族よ」
母さんは泣きながら伝えてくれる。その涙に嘘はないと思う。それを聞いた瞬間心が温かくなっていき、涙が出てきた。
「それで雄一と撫子と相談したんだけど、界には明日から二人の家で暮らしてもらおうと考えたんだ。さすがに二人に悪いから」
「それって兄ちゃんが出ていくってこと?」
「ああ、でも携帯でいつでも連絡はとれるしいつでも遊びに来てくれていいから」
「ええ。ここは界ちゃんのもう一つの家なんだからね」
「学校はどうするの?」
「学校側と相談して出席日数は足りているから残りは課題を提出することで卒業を認めてくれるんだって。進学先については2人と相談して。ちゃんと二人に界の意見を言うんだよ。さて、そろそろ彼女の紹介をしようか?お願いします、狛犬さん」
ここでずっと座って待っていた女性に話が降られる。彼女は立ち上がると
「初めまして。私は名取家に仕えるメイドの一人狛犬霧子と言います。これから界様の身の回りの世話をさせていただきます。本日はご挨拶に来ました」
「それはご丁寧にありがとうございます。でもお世話って一体?」
「基本的に部屋の掃除や洗濯・食事の準備など様々な事柄について手伝わせていただきます」
「そうなんですか」
どうやら名取家では専属のメイドを付けるのが普通らしい。さすがお金持ち、ここも慣れていかないといけないのかもしれない。
狛犬さんは明日迎えに来ると伝えるとリムジンに乗って帰っていく。3人で母さんが作った豪勢な夕食を食べ今までの思い出を話したりした夜、自分の部屋で荷づくりを進めていると
コンコン
「兄ちゃん、入っていい?」
「いいよ」
梨々花が部屋に入ってきた。梨々花はそのまま僕の隣に座ると話し始める。
「兄ちゃんは納得したの?」
「うーん、納得はしてないよ。でも学校や役所に根回ししてるってことはどうしようもないことでしょ。もしかすると僕が嫌って言ったらどうにかなるかもしれないけど周りに迷惑をかけるかもしれないでしょ。そこまで迷惑をかけて断ることじゃないしね。これが勝手に進路を決められたり、婚約者ができたりとか人生が変わることだったら反発してたけど。それに見極めないといけないでしょ?」
「見極める?」
「うん。名取雄一と名取撫子さんのこと。これから生きていく中で絶対かかわらないといけない人だからどういう人か実際にあってみないと。それに携帯でいつでも連絡取れるし大丈夫大丈夫」
そして翌日
「元気でね」
「きちんと雄一と撫子と話すんだよ」
真柴家の前で3人と抱き合い、ベンツに乗り込む。窓から流れていく10年ほど暮らして見慣れた風景を見ながら前の座席に座っている狛犬さんに尋ねる。
「これからどこに行くんですか?」
「界様専用の別荘に向かいます」
「別荘ですか?」
「はい。昨日幼いころ名取家から真柴家に界様が預けられた話をしましたが、その原因が名取家で界様の誘拐未遂事件が多発したからです。犯人は旦那様と敵対関係にある組織や会社の敵対派閥でした。もちろん当時取れる対策は取っていたのですが、使用人や警備員など身内にも協力者がおりこのままだと危険だと判断したそうです」
「なるほど、用意とは何かと思いましたがそういうことですか」
「界様を真柴家に預けた後、旦那様と奥様は会社の改革や身内の再調査などを行いやっと今日界様を迎える環境ができました。界様には申し訳ないのですが、警備の都合上これから向かう界様の別荘は名取家が買い取った愛知県にある孤島にあります。通称名取島、この名取島では本島と橋でつながっており、その橋で島の出入りを確認しています」
僕のために島まで買っちゃったのか。どんだけお金持ってるんだ名取家って。
「喉乾いていませんか、界様」
「乾いていますが」
僕が答えると狛犬さんは社内にある冷蔵庫を開き(あれ冷蔵庫なんだ)
「ミネラルウオーター・お茶・ジュースと取り揃えていますが何をお飲みになりますか?」
「お茶でお願いします」
狛犬さんは茶色の液体の入ったボトルを取り出すと別の棚からコップを取り出し注いで渡してくれる。コップを受け取り口に含むと口中に普段飲んでいる麦茶より濃くすっきりした味が広がる。
「おいしい」
「京都の宇治園から取り寄せている天風焙煎麦茶です」
これってすごく高いよね?麦茶にも高級ブランドってあるんだね。座席の取っ手付近にあるポケットにコップを戻し周りの風景を見ていろいろ考える。車はしばし進むと飛行場にたどり着き、そのまま自家用機に乗り空の旅へ。
名取島で生活をはじめ2か月、今は自室で本を読んでいる。この島での生活だけど基本的に今までと変わらない。朝7時ごろに起きて歯磨きを済ませると朝食。その時狛犬さんから今日の予定を聞いて、朝食後は学校からの課題を消化したり外へ散歩に出かける。別荘だが1階・2階・地下一階の3層構造で僕の部屋は2階の一室、従業員は11人。
名取島だがそこそこ大きく小さな町や湖・森・川などがあり、大体300人ほどが住んでいる。東京と違い自然も多く毎回いろんな発見があるし、町の人々もいい人ばかりで気持ちよく過ごしている。
ジー―
時折視線も感じるけど今のところ問題もないからほっとこう。
コンコン
「はい」
「界様、一郎様・佐那様が到着しました」
読んでいた本にしおりを挟み軽く身だしなみを整え、狛犬さんの案内で2人が待つ部屋へ。
「初めまして。わしの名は名取一郎、お主のおじいちゃんじゃ」
「私の名前は名取佐那、あなたのおばあちゃんよ」
部屋の中にいたのは僕のおじいちゃんとおばあちゃん。それともう一人
「彼女は儂らの家の世話をしてもらっているメイドのクロエじゃ」
「初めまして、界様。白金クロエです」
白銀の長髪に狛犬さん達と同じクラシカルなメイド服を着こなす女性が二人の背後に仕えていた。
「霧子、ここは私に任せてもらっていいわよ」
「わかりました。お願いします。クロエ様」
彼女は狛犬さんを下がらせ、お茶の準備を進める。へぇ、命令を聞くんだ、狛犬さん。少し驚いていると
「一応私はMRのトップで彼女たちの指導もしたことがあるんです」
白銀さんは僕が驚いている理由に気づきお茶をいれながら説明してくれる。察しが良すぎでしょ?彼女。ちなみにMRとはメイドランクの略称でメイドの能力(事務能力・家事能力・戦闘力など)を総合的に評価したランクのこと。メイド界では名取家のMRは有名で高ランク保持者は一目置かれるらしい。ちなみにMRは大きく分けてビギナー→ノーマル→エリート→エキスパート→マスターとランク分けされていると。
よくわからんね、メイド界。白銀さんにお茶を入れてもらいおじいちゃんたちと会話を始める。どうやらおじいちゃんたちは真柴家で暮らしていた時の情報を資料や映像で知っていたらしく、誕生日会や家族旅行の話などの話で盛り上がる。思慮や映像などではわからないところも多いからね。
「雄一と撫子ちゃんとはうまくやってるかい?」
佐那おばあちゃん(本人からそう呼んでほしいと頼まれた。一郎さんは一郎爺ちゃん)からその話題が降られた。
「・・うまくやってるよ」
「嘘だな。本当のことを言ってみなさい」
ちょっと言葉に詰まっただけで見破られた。これでもポーカーフェイスは得意なんだけどな。
「私から見てもあなたのポーカーフェイスは一流よ。でも雄一ちゃんの言葉を聞いた瞬間少し間ができちゃったわね」
あのわずかな隙でばれるなんて、この二人いや白銀さんも気づいてるなこれ。はぁ、しょうがないか。
「うまくやってるかって話だとそれ以前の話だよ」
「どうゆうことだ?」
「だって実際にまだ直接会ったことが無いし。ここに来た日の夕方にテレビ画面越しに10分ほどじゃべたくらい。それ以降は忙しくて会えないんだって。何度か狛犬さん達に聞いても断られちゃった。そんな人たちとうまくやれると思う」
ゾクッ
僕の話を聞いた2人の雰囲気が変わる。部屋の空気がピリッとして背中に冷や汗が垂れる。
「あのバカ息子たちが」
「これは教育を間違えたかしら、ウフフフ」
怖いんだけど、二人とも。
「旦那様、奥様。界様が怖がっています」
白銀さんがカステラを差しだしながら二人に声を掛ける。するとさっきまでの威圧感が消え
「すまんかったな」
「ごめんなさいね」
さっきまでの雰囲気に戻った。
「儂らから二人にもっと接するように話してもいいぞ」
「大丈夫です。もしそれで会う機会が増えても、わざわざ言われないと会おうと思わないんでしょ?と思うだけですし。それにどうせリモートになるでしょうしね」
「そうか・・」
「ねえ、界ちゃんは旅行好きかしら?来週一郎さんと京都の方に出かける予定なの?一緒にどうかしら?」
「え?でも二人の旅行なんですよね?」
「それはいい?わしらも孫と一緒に旅行してみたいしな」
名取島に来て一番ゆったりした時間過ごせたかもしれない。
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