第7話 異種姦できるのがこの世界の魅力
なんで急にそんなエロいこと言い出したの。
んー……? や、これエロいかな?
「えらく感情こもってるけど、その声で言われるとスケベさ消えちゃって違和感しかない。虚しい気持ちになるからやめてくれる?」
「触手さんの白くてあつぃのびゅっびゅされてゎたしもぅらめぇいっちゃうぅ……! までが店名だ」
「だから、そのひっくい声と死んだ魚みたいな目でそういうの言うのやめろって」
戦士職の冒険者か騎士か兵士かというほどガタイの良い男が、感情をこめて言っていいセリフじゃない。
それ、言う相手が僕じゃなかったらセクハラでぶっ飛ばされるからね。ミナトだったら視線で凍りついて死んでるよ。
やめてよほんと。
低い声で無理やり女の子みたいな声を出そうとするから声カッスカスじゃん。なのに結局失敗して重低音ボイスのままカサカサしてただけだし。
喉痛めるよ、アーロン君。
触手にアレコレされる女の子を個室から眺めながら男どもがナニする店なのだそうだけど、それにしてもなんだその頭の悪い店名は。
語呂が悪いし、長いし。触手以外なんにも頭に残らないよ。
「この暑さで触手が……というか植物型の触手が干からびた。全滅だ」
「おーぅ」
「だから俺ァ触手型のスライムにしろっつったのに、テイマーギルドに仕入れに行った新人が足元見られて値段つり上げられやがって。あの新人、今度新しく触手仕入れたらショーに出演させてやる」
アーロン君にしてはめずらしく、さっきみたいな作った声ではなく素の声に感情が乗っている。
まあ仕方がない。触手って高いらしいし。
「新入りって女なんだ。めずらしいね」
「ドワーフの男だが、見かけ女みたいだからそれなりに需要あんだろ」
「おー。ショタっすか」
「男の娘ってやつだ。興味あるか?」
「それはショー的な意味で? それとも異性として? どっちにしろ僕はあんまり興味ないかな」
勇者が築いた新しい扉は開けなくても、僕は現状で満足してる。
「一人称〝僕〟のお前も似たようなもんだろ」
「違いますが?」
ジトッとした目で見てやると、アーロン君はずれてもいないサングラスを直して仕切り直すように咳払いをしたあと再び口を開いた。
「あと……ミナトが、注意しにきたらしいが……。俺は魔法が使えねえからよくわからんが、その魔力の異常な増加で魔物がちょっとおかしくなってんだろ?」
「そー。オッタヴィアーノさんとかもね、今日もちょっと体の中の目玉がいくつか血走ってたし。魔力はほんと、なんか気持ち悪いくらい増えてるよ」
魔力の大半をテラのせいで失ったとはいえ、一応僕も魔導具を扱う魔導具屋の端くれなので、魔力の流れくらいはわかる。
テラが改変期に入る少し前から、空気中に漂う魔力が日を追うごとに増えていた。
ギルドが注意喚起するのも納得である。おかげでこの店にくる魔術師系の客は魔法の威力が上がったと言ってウハウハしている。
人間を含めこの世界の全ての生き物には魔力がある。
魔力が尽きると死ぬこともあって、命を維持するための大事な要素のひとつだ。
だけど魔法を使える人は限られているし、アーロン君みたいに魔力を感知できない人間もいる。僕も今は魔法を使えない。
魔導具制作はじいさんの担当なので、空気中の魔力濃度が高かろうが低かろうが、僕にはあんまり関係ない。
「そのせいで〝背徳の館〟のほうで使ってるサキュバスたちの性欲が、もの凄いことになっててな……。最中に客を殺しかけたんで、こっちは営業停止食らったわ。今月は俺も干からびて死ぬかもしれん」
「そもそも魔物を風俗店で働かせようってとこから間違っているんだよ? アーロン君」
サキュバスはもともとそういう性質の魔物だからギリギリセーフな感じもするけれど、魔物とあれこれしたいやつはボアダムでもけっこう特殊だ。
「異種姦できるのがこの世界の魅力って、何代目かの勇者が言ってたろ」
「その勇者、最後には嫉妬に狂ったドラゴンに焼き殺されたじゃん」
アラクネやらハーピーやらという魔物のメスをテイムしてハーレムを作りつつ魔族と戦っていた勇者は、最終的にドラゴンのブレスでドラゴン以外の魔物のメスたちともども消し炭になった。ドラゴンって嫉妬深いんだって。
吟遊詩人が酒場で悲劇の恋として歌ったが、コメディとして定着した話である。
そしてお子様には聞かせたくない勇者譚のひとつでもあった。
「管理さえきちんとできてりゃ、人間雇うよりよっぽど儲かるぞ。人件費はタダだし。そういう趣味の客は金払いもいい」
「そのお客さんを殺しかけてるじゃん」
「客とる前に餌を与えりゃあ満足すんだけどな」
「奴隷でも買えばいいのに」
「健康な男で犯罪奴隷って滅多にいねえだろ。あいつらグルメだから、栄養不良で痩せた男や薬で汚れた血の男なんか見向きもしねえ」
「ほー」
もう試食済みですか。そうですか。
そういや三日くらい前に、警邏隊の事務班が犯罪奴隷のオークションを開催してたっけ。
この国では司法によって裁かれたあと、奴隷として働くよう刑罰を与えられた罪人以外の奴隷は認められていない。
領地によってその期間はまちまちだけど、公に認められた貴族の警備機関しか奴隷を扱うことはないのは絶対だ。この街では警邏隊がその管轄。で、だから奴隷商という商売は存在しない。
借金が返せなくて奴隷落ちというのもない。十八歳未満の未成年者も、罪を犯したとしても奴隷にはならない。
オッタヴィアーノさんをテイムした勇者がうきうきで薄い本にしたためていた、性奴隷なんてもってのほか。
そうしたお店で働く人間は、みんなお給料をもらって同意のうえに働いている。
スラムの共同便器くらいクリーン。
「ウチは奴隷関係に弱ェからなあ。他のギルドに貸し作るのも上手かねえし」
責任者は苦労が多いようだ。
一応〝行為の最中に死んでも文句言いませんよ〟という念書を書かせてからサービスを提供しているらしいけど、一度きりのご来店になるよりも、リピーターとして何度も来てくれるほうが儲かるのは当然だ。
ぐでっと椅子の上で溶けながら、投げやりな感じでアーロン君は呟いた。
「どっかに体力が有りあまってる健康な男、転がってねえかな」
薄黄色いレンズ越しにチラッと見られた気がしたが、そんな危ない仕事に立候補する気はない。
「そもそもだよ。お忘れかもしれませんが、僕、女だからね」
「女でもやりようによっちゃ、満足するんじゃねえか? ケーキとかクッキー食うみたいなもんで」
「目死んでるくせに値踏みするみたいな器用すぎる視線止めれる? やる気ないよ僕」
サキュバスに搾り取られて死んだなんて、もしも孫がそんな死にざまを晒したら、さすがのじいさんも泣くんじゃなかろうか。




