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欲望まみれの僕らの日々は、勇者NAISEI後の世界のせい  作者: 万丸うさこ
3章 迷宮テラが見せる願いと欲

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第47話 だから……ああ、もう

 一緒にミリムちゃんを探すと言いつつも、一昨日からずっと探し続けていたクレアさんは体力的にも限界だった。

 今にも倒れそうだったクレアさんをローザに任せて、僕は店を出た。


 手の中でレザーチャームをもてあそびながら、僕は人でごった返す通りをギルドのほうへ歩いている。ミリムちゃんのポシェットから外したものだ。


 とりあえずアーロン君に相談して、人を貸してもらおう。

 人探しなら人数は多いほうがいい。


 あとはロドニーのおっさんに頼んでみるか。クレアさんは不法移民だからって理由で相談できなかったみたいだけど、あのおっさんはこの街でなんの悪さもせずに立派に働く親子に冷たくなんかしない。


 クレアさんには大見得切っちゃったけど、結局僕ひとりでできる事なんかたかが知れている。

 僕の使える伝手といえば、あとは……ゼノビア・ジェーンはどうだろう? 頼みこめばなんとかなるかも。本当にラン・ティエンと交渉してみてもいいかもしれない。その時はまた僕を担保にするかな。


 ああ、あとはミナトがいる。

 ミナトに言って、ヤマガタ・ディディエ以外に魔石狩りの警備を担当していた冒険者たちにもう一度話を聞くべきだろう。


 なんて考えながら歩いていたら、「まだミリムちゃんはテラにいるわ」と耳元に声が聞こえた。ミナトの声だ。


「ちょっと! いつも言ってるじゃん、声かける前に存在感出してって!」


 現れたのはやっぱりミナトだった。人の間をすり抜けながら早歩きをしていた僕の耳元に、急に囁きかけてこないでほしい。びっくりして叫んだ僕を、周囲の人たちが目を丸くして見てくるじゃないか。


「そんなことを言っている場合ではないのよ。ヤマガタ・ディディエが、魔石狩り最終日最後の迷宮内の見回りをするためにテラへ向かったの。本来の担当だった冒険者から、かなりの額を支払ってその仕事を買っていたから」


「なんでそんなこと知ってるの」


 早歩きをしながら二人並んで話をしつつ、僕は眉根を寄せた。


 魔石狩り会場であるテラへの入り口は、撤収作業のせいで封鎖されているのだそう。魔石が湧き出ている今の間は、まだ迷宮に物を置いてきても残っているようだ。

 だけどこれからダンジョンとして通常の状態に戻れば、魔物に殺された冒険者の荷物や死体は半日で消滅するようになる。


 だからミリムちゃんを探すのなら、今のうちだった。


「見たのよ」と、凶器のようなヒールで石畳を歩いているのにもかかわらず、音もなく移動するミナトが端的に言った。


「おそらくヤマガタ・ディディエは、ミリムちゃんの魔石を回収しに行くのではないかしら。魔石狩りの期間中は、警備担当の冒険者も不正をして魔石を持ち出していないかのチェックを受けることになっているから、奪った魔石はテラへ隠していたのだと思うわ」


「……そうかもしれないね」


「そこにミリムちゃんも――ミリムちゃんも、()()


「……やっぱり、()()のか」


 ヤマガタ・ディディエのどんな話を聞いて、何を見たんだろう。ミナトは躊躇を振り払うようにうなずいた。


「テラへ行かなければならないわ。今すぐ」


「……うん」


「急いだほうがいいわ」


「――……うん」


 早歩きが運動不足の僕にはきつくて、もうすでに息が弾んでくる。この暑さのせいもあるかもしれない。ああ、人混みがきついっていうのもあるかも。

 ミナトの言葉にうなずいた拍子に、一瞬だけくらりと眩暈がした。


「前を見て」


 眩んで影が落ちた視界と、ザーッと音を立てて下に流れていく血の音に、僕はこのまま動けば倒れると思って立ち止まった。ミナトの言う通り、急がなきゃいけないのに。じゃなきゃミリムちゃんが消えてしまう。


 人のざわめきが遠くなっていく耳元に、「ぶつからないように注意して」とミナトのひんやりした声が届く。


 それに、「わかった」と答えた。いつもはこんな速いテンポで移動しないから、調子が狂ったのかもしれない。もしくは、クレアさんとの会話でヤマガタ・ディディエへ怒りを覚えたからか。


「セタ……。私は先にテラへ行くわ」


 それとももしかしたらそれは全部理由としては間違っていて、これから大嫌いなテラへ入らなきゃいけないからかもしれない。


 ――やばい、やっぱり倒れそう。


「おっ……と、セタガヤ? どうした、大丈夫か?」


「……アーロン君?」


 耳鳴りのせいか遠くのほうで聞こえた低い声と、それとは反対にしっかり掴まれた肩のちぐはぐな距離感にちょっと混乱しながら、僕は首をいつも幼馴染みを見る時の角度に反らした。


「なんだお前、顔が真っ青だぞ。フラフラしてねえで店に戻れ」


「うん、それはもう、そうしたいのは山々なんだけど……」


 僕はアーロン君の黒スーツの胸元を握りしめてうつむいた。

 このままアーロン君にミリムちゃんとヤマガタ・ディディエの話をして、テラへ行ってもらうのがいいかもしれない。いつもだったらそうしてたし、さっきまでそういう算段をしてた。だって人手が必要でしょ。テラへ近づくのは嫌だから。何か適当な報酬を提示して頼んだと思う。


 だけど、僕は。


 ――おねえちゃん。と、耳鳴りの合間にミリムちゃんの声が聞こえた気がする。


 見てー! と、ふかふかの白いパンを頭の上に掲げて、幸せそうに笑っていた子供。大好きで大事なママの手作りごほうびイッチを、今度少しだけわけてくれると言ってくれた。


 僕がその言葉に「じゃ今度ね」とうなずくと、ミリムちゃんは真剣な顔で右手の小指を僕に向かって差し出した。


 ゆびきりげんまん。


 僕も屈んでミリムちゃんの小指に小指を絡める。


 うそついたらはりせんぼんのーます。


「ゆびきった、し」


 クレアさんとも約束したし。


「なによりミリムちゃんは、良い子なんだ……良い子、だったんだ」


 自己責任と自業自得のこの街で、ミリムちゃんは何もしくじってなんかなかった。ただママのために、ママに喜んでもらいたくて、笑顔が見たくて魔石狩りを頑張ってただけだ。


 しくじったのは僕だ。

 かわいくて魔石採取の才能があるミリムちゃん。それを狙うやつがいるって、僕はわかってた。わかっていて中途半端にしか守れなかった。


 手の中のレザーチャームが、冷や汗を吸って重い。

 底抜けの馬鹿に踏みにじられた跡がついた、お守りになり損ねた飾り物。


 いつだったかミナトが、ダンジョンには絶対行かないと言った僕へ尋ねた言葉が耳の奥によみがえる。


 ――この世から冒険者がいなくなって、ギルドもなく、物資も潰えそうで、老若男女問わず救いを待つ人がいて、動ける人がセタしかいなくても?


 行かないよ。行きたくないよ。なんでそんな見ず知らずのやつらのために命張って、一回死にかけた大嫌いな場所に行かなきゃいけないの。


 今回は冒険者なんて腐るほどいるし、ギルドもあるし、物資だってある。世界はなんにも変わってない、危機的状況なんかじゃない。

 救いを待つ人はクレアさんだけで……でも、これでミリムちゃんのためにテラに行かないなんて、そんなのあまりに無責任で、ダサすぎるじゃないか。


 人手がいるんだ。ミリムちゃんを無事にママの元に返すのに、時間もないんだ。

 それに僕と同じようにテラで大失敗したミナトは、先にテラへ行くって言っていた。


 だから……ああ、もう。

 クソがよ。


「アーロン君、ごめんなんだけど、ちょっと僕を担いで、急いでテラまで行ってくれない?」


 翳っていた視界が少しだけ晴れて、サングラスの奥で目を見開いたアーロン君の顔が見えた。驚いている。


「は? 店じゃなくて、テラにか?」


 アーロン君は僕がテラを嫌いなことを知っている。五年前にテラで倒れていた僕を助けてくれたのはアーロン君だ。そのあとの僕の鬱っぷりもよく知っている。


「うん」


 僕は昼ご飯を食べて店に戻ってからあったことを、かいつまんで話した。ミリムちゃんの失踪と、クレアさんからの依頼と、ヤマガタ・ディディエの話。


「ミナトが、テラへ行けって。先に行ってるって言うけど、僕今なんかすっごい立ち眩みみたいなのしてて、自力でたどり着くの無理そうだから」


 だけど行かなきゃいけないから。


「……」


 話を聞いたアーロン君は無言で僕を見下ろして、ひょいっと肩に担いだ。予備動作なし。さすが〝怪力〟のスキル持ちだ。


 視界が大きくぶれて、アーロン君の肩が僕のお腹に刺さって苦しい。


「その状態でテラに一人は無理だろう。俺も一緒に行ってやる」


 そう言って、アーロン君は「どけ!」と怒鳴って人混みを割ると、頼んだ通りに僕を担いで走り出す。


「ヤマガタなんとかはろくなことしねえなあ」


 ぐりんぐりん視界が揺れて、さっきはなかった吐き気が込み上げる。

 乗り物酔いで目を回す僕の耳に、「……ロドニーのおっさんとの約束は守れそうもねえな」と呟くアーロン君の低い声が聞こえた。

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魔冬虫夏草の苗床かな?埋めて水をたっぷり飲ませて楽しいガーデニング。
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