第31話 ありがてえ称号
めきょめきょとアート作品を制作し続けていたアーロン君はその指を止めて、僕のほうを向いた。もう片方の手は牛の首根っこを掴んで捕獲している。
「あのあと約束通り店に連れてったら、案の定この牛、サキュバスどもにえらく気に入られてな」
「うん」
「二晩フルコースを楽しんだあと、やつらの精力も安定して店も再開できたんだが……」
「うんうん。うん? 二晩サキュバスとフルコース?」
驚いてミノタウロスを見ると、彼は顔を青くしながら頬を染めるという全く正反対のことを器用にやって視線をそらした。
「それでよく干物にならずに生きてるね」
精力絶倫の魔物と本番まで楽しんで、なのに死ぬこともなくぴんぴんしてる人間なんて僕は見たことがない。初めて。
そもそも彼は餌だったはずだ。
僕もアーロン君も、ミノタウロスがサキュバスに精力も生気も吸われて死ぬかもしれないなーと思っていながら、彼を餌として扱った。
だって冒険者ギルドで教えられていたにもかかわらず、彼の確認不足で闇なべルールを破ったのだから。まあ自業自得でしょ。
アーロン君も使い捨ての餌のつもりで八万ギルを払ったはずだ。
だから生きているだけでもびっくりなのに、楽しんだうえに元気に冒険者として活動できるなんて信じられない。
さっきピンピンした様子でギルドに戻ってきたミノタウロスを見て、僕はまだ餌として与えられてないのかなって思ったくらい。
「よっぽど相性が良かったのか、この牛が魔物並みの精力だったかしらねえが、それからサキュバスどもが事前の餌を与えなきゃあ仕事しねえようになっちまった」
「えさ」
僕が呟いてミノタウロスを見ると、牛男はなんともいえない情けない顔をしてこちらを見返してきた。繁殖のために精を搾り取られる種牛みたいな顔だ。
「従業員に優しい俺は、しょうがねえからミノ太郎を従業員《餌》として雇ってやったんだがな」
アーロン君が言葉を切ってミノタウロスを見る。微塵も生気を感じない黒い目からは、なぜか「この牛、言うこと聞かねえし使えねえんだよ」という不満がしっかりと読み取れた。
「聞いてくだされアーロン殿! 私も他国からきたばかりで物入りのため、店で働くことに異存はござらん。従業員寮も大変ありがたい。い、いや餌というのは承服しかねるが、しかしっ、アーロン殿もご存知のように、あのような称号がついては……私は騎士として情けないやら恥ずかしいやら……」
「迷宮に認められた、ありがてえ称号の何が不満だっつうんだ」
とほほと肩を落とすミノタウロスの言葉と、それに首を傾げるアーロン君の言葉に、僕はびっくりして声を上げた。
「えええ称号⁈ ついたの? まじで? ミノタウロスさんボアダムにきて二週間とか言ってなかった?」
「その通りであるが……というか、魔導具屋殿。私の名前はミノタウロスではなく、エンデ」
「僕いまミノタウロスさんの名前について話してたっけ」
「……いや」
なぜか悲しそうな顔でうなだれたミノタウロスに首を傾げつつ、僕はゼノビア・ジェーンと話したばかりの内容を思い出す。
テラはちょっとの腕自慢に称号を与えるほど優しくはない。
「えー? テラにきた時は称号もらえなかったんだよね? なのに二週間で称号獲得とか。いったいどんな事をしたらそうなるの?」
一生かけて物作りの技術を磨いたって他に自分より良いものを作る職人がいれば世界一とは認められないし、何年も戦い続け、迷宮に潜り続け、あげくその迷宮にのまれて心身ともにぶっ壊れたって称号を与えられない冒険者のほうが多い。
ボアダムに生まれ育った人間だって、称号なんかもらえずに死んでいくのが普通だ。それが当たり前なのに、この短時間で何をしたらそうなるんだ。
周りで僕たちの話を盗み聞きしていた冒険者たちも驚いたようで、むさ苦しい空気が動き出す。辺りはひそひそざわざわと、いつもとは違った騒がしさに包まれた。
「迷宮証憑をセタガヤに見せてやれ」
「ステータスなどが記載されているゆえ、むやみやたらと他人には」
「あ? てめぇの雇用主の俺が、出せっつってるんだが?」
「……これである」
レベルとスキル、各パラメーターの数値が記載され、ミノタウロスの顔が立体的に描かれたランクDのミノタウロスの迷宮証憑。
その一番下の『称号』のところに浮かんでいた文字に、僕は目を疑った。
「せっ」
迷宮証憑とミノタウロスを五往復くらい見比べながら、僕は呆然と称号名を呟いた。
「性豪」
周囲の雑音がぴたりと収まって、誰もがこの新しい称号を理解しあぐねた顔でミノタウロスを見つめた。
剣豪ではない。
性豪である。
「これ、どういう意味かな……」
笑わない。僕は笑わないぞ。
もしかしたら僕がイメージする〝性豪〟とは違った意味の〝性豪〟なのかもしれないし。もっと真面目な意味の、性に関する何かじゃないやつ。たぶん?
僕の震える声に、ミノタウロスはぎゅっと唇を噛みしめた。
「セタガヤ、これが、由来だ」
僕と同じように声を震わせたアーロン君が、ミノタウロスが手に持っていた迷宮証憑の〝性豪〟の部分を横から人差し指でちょんとタッチする。
〝性豪〟と書かれた文字がキラッと光り、ふわりと空中に浮き出した。勇者がテラを魔改造した結果の、超謎技術である。
その下に、光の文字がゆらゆらと現れる。
【性豪】
――二十体以上の淫魔サキュバスと二晩休憩なしで性行為をし、その性力で淫魔を屈服させたものに贈られる称号。
【スキル】
:レベルアップ時、精力と体力に+0.2%のボーナス。
:レベルアップ時に各パラメーターに+性交を重ねた回数のボーナス(レベルアップすると回数はリセットされる)
:性病無効。
:性行為中、男根を振動させられる。
:性行為中、男根から微弱な電流を流せる。
:着床率を自在に変えられる。
:ゴールドフィンガー取得(レベル50で解放)
:精液に催淫効果付与(レベル80で解放)
:フライング・ペニス(レベル100で解放)
「せ、性豪だ」
これぞまさしく。




