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欲望まみれの僕らの日々は、勇者NAISEI後の世界のせい  作者: 万丸うさこ
2章 人食いの街、混沌街

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第16話 ママにプレゼントしたいもの

 ミリムちゃんがポシェットから取り出したのは、赤い色の魔石だった。

 さっきの緑色の魔石よりも大きい。


 価値としてはギリギリ上級になるかならないかといったところだろうか。

 お金にすれば結構な額になるはず。


「あとねー、これと……これも」


 僕が感心してため息をついたのを見て、ミリムちゃんは手応えを感じたらしい。

 色とりどりの魔石を次々に取り出し、簡易テーブルに並べ始める。


 ミリムちゃんの後ろを通りがかった冒険者が、机に並んだ魔石を見てちょっと驚いたような顔をした。

 のけ反った拍子に青色の髪がギラリと光って、僕の目を刺す。迷惑。


 そんなふうに通りすがりの冒険者が驚いたのは、ミリムちゃんが取り出した魔石が全部、上の下から中の上くらいの価値があったからだ。


 魔法使いや魔導具や武器防具を作る職人たちが欲しがってもおかしくないものばかりである。

 ちょっと低品質になってしまうかもしれないけれど、これを核に大型の魔導具も作れそうだった。


「すごいねえ! どれも換金したらけっこうなお金になるよ」


「ほんとう? ミリム、魔石見つけるのじょうずなのかな! このへんにおっきいのありそうって掘ると、ちゃんとおっきいのがあるの」


「ミリムちゃんはもしかしたら魔石探しの天才かもしれないね」


 一個ずつ確認しながら小さな手のひらに魔石を返しつつ、そう言う。


 魔石狩りで収穫した魔石でポーションを買っていく人のなかでも、ミリムちゃんの見つけた魔石は群を抜いて質が良い。

 初日から飴型ポーションを買ってくれるので、彼女が支払いに使う魔石の品質が徐々に上がっていることもわかっている。


 僕は本気でミリムちゃんは天才かもしれないと思い始めていた。

 もしかしたら将来、魔石関係の称号をもらえるかもしれない。贔屓目ひいきめかな。


「もっとおっきい魔石を見つけてね、それで、この国の人になるけんりをママに買ってあげるんだ」


 昨日ミリムちゃんが来た時に言っていた〝ママにプレゼントしたいもの〟は、ピンクに渦巻いた飴型ポーションではなくて、フィデリフィ王国の市民権だったのか。


 ミリムちゃんたちはナビール王国からの難民だ。

 もしかしたら正規の手続きを経ていない不法入国者かもしれない。


 市民権を得るには金だけではなくて、この国の貴族や公的機関が身分を保証することが必須である。

 暮らしぶりから見るにそういう伝手のなさそうなミリムちゃんたちが、この国の人になるのはそうとう難しいことだった。


 けれどここは迷宮都市ボアダムだ。

 金さえあればスライムだって市民権を得られる街。


 ある意味真っすぐな秩序を重んじる、人種の坩堝るつぼ


「そっかー」


 ミリムちゃんがこのペースで採る魔石の質と量を上げていけば、もしかしたら、あるいは。

 そうなればいいな。


 飴型ポーションをミリムちゃんに渡しながら、そう思った。


「おそろいの飴も、お母さん喜ぶよ。きっと」


 僕の言葉に、ミリムちゃんはにこにこと笑った。

 茶色の小さな耳がぴこぴこと揺れている。ご機嫌だ。


「ママにはないしょね!」


 大事そうにピンクとオペラピンクとショッキングピンクの渦巻きがくっついた棒を握りしめたミリムちゃんへ、僕は「わかった」と笑ってうなずいた。


「ところで、ピンク系統の飴で迷ってたけど、ピンク好きなの?」


「ママが好きな色なの。ミリムのお鼻のピンクのところ、かわいいねっていっつもつんつんするよ」


 ちょんと上を向いたピンク色の鼻をふこふこと動かし、ミリムちゃんが平べったいピンクの渦巻きで顔を隠してはにかんだ。


 ミリムちゃんの母親とは魔石狩り初日以来会っていないが、ことあるごとにミリムちゃんがお母さん情報をくれるから、なぜだかもう親戚くらいの付き合いに思えてきた。


 ミリムちゃんと同じように苦い食べ物が苦手で、ミリムちゃんの鼻がかわいいから、鼻と同じピンク色が好き。

 なにより娘を愛している、優しいお母さん。


 そんなミリムちゃんの母親が、遠くのほうから歩いてくるのが見えた。

 もちろん僕より早くその姿を見つけたのは、娘であるミリムちゃんだ。


「ママ!」


 ぶんぶんとピンクの飴を振って、ミリムちゃんが飛び出していく。


 ミリムちゃんと合流した母親が、ピンクとオペラピンクとショッキングピンクの渦巻き飴をミリムちゃんから渡されて破顔した。

 母親の飴を受け取る手つきの優しさが、少し遠くからでもわかった。


 母親に手を繋ぐことをねだったミリムちゃんに応えつつ、ぺこりとこちらに頭を下げた母親へ、僕も小さく会釈を返す。


「ばいばいおねえちゃん! また明日ね!」


「おー、また明日!」


そして親子は楽しそうに何かを話しつつ、魔石狩りの会場の方へ歩いていった。

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