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欲望まみれの僕らの日々は、勇者NAISEI後の世界のせい  作者: 万丸うさこ
2章 人食いの街、混沌街

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第15話 ピンクとオペラピンクとショッキングピンク

 ロドニーのおっさんが去ったあと、とんでもない棒演技をみせた大根役者は僕と少し話して、串焼き屋で肉を焼く部下の様子を見てから帰っていった。


 代わりに人混みの隙間を上手に縫ってやってきたのはミリムちゃんだ。

 密集する水草に触れることなく、すいすいと泳ぐメダカみたいな身のこなし。


 ミリムちゃんは息を弾ませてうちの店の前にたどり着くと、「おねえちゃんこんにちは!」と満面の笑みを浮かべた。


「おー。こんにちは、ミリムちゃん。今日は何個だった?」


「じゅっこと、あといっぱい!」


 ミリムちゃんは斜めにかけたポシェットをぽんぽんと叩いてから、小さな両手をパーにして僕に見せつける。

 ポシェットのベルトにつけた闇なべ通り商店街オリジナルレザーチャームが、ポシェットの黄色い布の上でぽんぽんと弾んだ。


 十個以上を数えられないミリムちゃんが教えてくれた数は、魔石狩りで集めた魔石の数だ。集めた袋の数ではなく、取り分の話。


 冒険者ギルドからの依頼で魔導具職人のじいさんが作ったのは、魔石だけが入るように設定された特別製の収納袋だ。

 数も一袋五十二個しか入らないように制限されている。制作するのには結構な技術が必要な魔導具だ。

〝時の魔導具師〟という称号を持つじいさんは、魔朝顔を育てる傍ら鼻歌まじりで作っていたけれど。


 魔石狩りの参加者はその袋を持って魔石を採りにテラへ入り、出入り口でギルド職員が見ている前で袋から二個取り出して自分のものとするルールだった。


 ミリムちゃんが数えられるぶんだけで十個採れたということは、五袋以上。一袋五十二個の魔石が入るわけだから……。

 そこまで考えて、僕は感心した。子供の体と体力で、よく集めたねミリムちゃん。


 午前中に十個以上採れたのなら稼ぎとしてはもう十分だと思うけど、小さな魔石ハンターはまだまだ満足していないらしい。


「アメちゃんください!」


「はいまいどー」


 ミリムちゃんはポシェットから魔石を取り出して、ケースの中に並べてあるカラフルな飴を真剣な様子で選び始めた。

 午前中に消費した体力は飴型ポーションで癒してから、午後の魔石狩りに挑むようだ。


 亥人族特有のつんと上を向いた鼻に小さな皺を寄せて、やや寄り目になりつつ飴を吟味する様子はとても微笑ましい。


 色ごとに味を変えるなんて繊細な芸当が引きこもりの妖精族にできるわけもなく、飴の中でぐるぐると渦を描く色はカラフルだけど、実は全部同じ味で甘いだけである。


 でも子供の真剣さに水を差すようなことは言わない。

 子供にとって、色の違いは世界の違いだ。


「おねえちゃん、この魔石でアメちゃんは二個買える?」


 首を傾げるミリムちゃんが見せた魔石は、勇者の世界でいうところの一番小さなビー玉サイズの球体だ。

 魔導具制作の時に核として加工せずにそのまま使えるほど見事な球体で、さすが勇者たちに魔改造されたダンジョンで採れる魔石である。


 他のダンジョンで採れる魔石はここまで見事な球体にはならないから、きっと今回の魔石狩りで採ったどんな魔石も、他ダンジョン産の魔石よりも高めに買い取ってくれるはずだ。


 ミリムちゃんが差し出した緑の魔石も綺麗な丸い形をしている。

 芽吹きたての若葉みたいな黄緑色。


 それを慎重につまんだミリムちゃんの手先は血色良く桃色に染まっていて、魔石狩りのせいでちょっと汚れている。

 だけどスクエア型に切りそろえられた小さな爪には欠けもなく、指先にささくれもない。

 健康的に整った指に、今は不在の母親の姿が見えた気がした。


 スタートこそ休日だったが、魔石狩りの期間には当然平日も含まれる。

 ミリムちゃんの母親に限らず、仕事を持つ者はそっちに行っている。一時の魔石に目がくらみ、仕事を疎かにしてはこのあと食っていけなくなるから当然だ。


 それでもその仕事すらないやつらや、ミリムちゃんのように親の分もせっせと魔石を集めて稼いでいるたくましい子供たちで魔石狩りは盛況だった。


「もちろん買えるよ」


 魔導具屋の人間なので、僕も魔石の目利きはじいさんに叩き込まれた。

 大きさで一律いくらと決めて取引しているそこらの節穴とは違って、細かく値段も付けられる。


 ミリムちゃんの手のひらに乗った魔石は小さいけれど色が濃くて品質は中の下程度。上質な魔石とはいえないまでも、飴を二個買ってもいくらかお釣りが出るくらいのものだ。


 僕の言葉にほっとしたように笑顔になったミリムちゃんは、僕に魔石を渡してからまた真剣に飴を選び始めた。


「もう一個の飴は、誰かにあげるのかな?」


「今日は午後からママといっしょなの! だからママに一個、プレゼント!」


「ああ、お母さん半ドンなんだ」


 ピンクとオペラピンクとショッキングピンクの渦巻きというなかなか見ない色の組み合わせの飴と、ピンクと赤とオレンジというこの夏に見るだけで暑苦しい色の飴と、ピンクと紫とマゼンタの水玉柄という三つで迷いながら、ミリムちゃんは嬉しそうに笑う。


 今は午後二時ちょっと過ぎくらいである。

 午後からといっても、仕事を終えて着替えたり用意したり移動したりの時間を含めたら、待ち合わせはこのくらいの時間になるのだろう。


 ミリムちゃんは母親の仕事時間に合わせて、いったん魔石狩りの会場であるテラから戻ってきたようだ。

 彼女は時計を持っていないから、迷宮内で見張りをしている冒険者にでも時間を聞いたのかな。


「どれがいいかなあ?」


 ミリムちゃんがうーんとうなり始めた。

 むずっとも動かないでケースの中を凝視するミリムちゃんに、僕はいったん店の奥に引っ込んで飴型ポーションの在庫からひとつ取り出した。


「これならお母さんとおそろいにできるんじゃないかな」


 ミリムちゃんに見せたのは、彼女が迷っていたピンクとオペラピンクとショッキングピンクの飴型ポーション。

 ケースの中にあるどぎついピンクの飴と同じ渦巻きだ。


「おそろいだー!」


 ピンク色と、ついでに渦巻きの方向もそろった飴型ポーションを見て、まるで宝石を見つけたみたいにミリムちゃんが顔を輝かせた。

 笑顔で頬がぷっくりと持ち上がって、細くなった茶色の目が満足そうに瞬く。


 大好きなママとのおそろいの飴をなんとしてでも確保すべく、ミリムちゃんがぐいぐいと魔石を僕に押し付けてくる。

 それを受け取り先にお釣りを渡していると、お金をポシェットにしまったミリムちゃんがふと真面目な顔になった。


 そして声をひそめて「おねえちゃん、これ、どのくらいのお金になるかな」と言ってポシェットを開けて見せた。


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