目覚め
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暗かった。
遠くで。
誰かの声がする。
聞き覚えがある。
優しい声。
必死な声。
「……トック」
聞き取れない。
「シュトック!」
今度は。
はっきり聞こえた。
俺は。
ゆっくり目を開く。
白い。
空。
違う。
天幕。
軍用の布。
見慣れた天井だった。
ぼやけた視界。
その向こう。
泣きそうな顔。
リシェル。
「……シュトック?」
声が震えていた。
俺は。
瞬きをする。
頭が重い。
身体も。
まるで。
何日も眠っていたみたいだった。
「……リシェル?」
言った瞬間。
リシェルの顔が崩れた。
「よかった……」
涙。
ぽろぽろ落ちる。
「本当に……」
「よかった……」
次の瞬間。
胸に飛び込んできた。
柔らかい。
暖かい。
でも。
頭が回らない。
「え?」
それしか出なかった。
テントの端。
クレイスがため息をつく。
「起きたか」
その隣。
シンもいる。
腕を組み。
無言。
だけど。
少しだけ。
肩の力が抜けていた。
「……どれくらい寝てた?」
クレイスが答える。
「半日だ」
半日?
そんなに?
俺は起き上がろうとして。
頭を押さえる。
ズキッ――。
鐘。
雪。
壁画。
白い外套。
『おかえり』
思わず息を呑む。
夢?
違う。
あまりにも。
鮮明だった。
「どうした?」
クレイス。
俺は首を振る。
「いや……」
言えるわけがない。
レオン達といた。
地下へ降りた。
壁画を見た。
頭の中で。
知らない奴が喋っていた。
そんな話。
誰が信じる。
その時。
外から声。
兵士。
「第七軍」
「前線の再編が完了しました!」
クレイスが幕を開ける。
光。
俺も外を見る。
巡礼路。
相変わらず。
巨大な門は開いている。
黒甲冑。
動かない。
白甲冑も。
剣を下ろしたまま。
まるで。
時間が止まったみたいだった。
だけど。
兵たちは動いている。
慎重に。
少しずつ。
前へ。
門の内側へ。
陣地を広げていた。
誰も。
何が起きたのか分からない。
だから。
止まらない。
少しずつ。
確実に。
押し上げる。
それが軍だった。
俺は門を見る。
黒い門。
開いたまま。
その向こう。
何かが待っている。
そんな気がした。
「レオン達は?」
気づけば。
そう聞いていた。
クレイスが眉をひそめる。
「突破隊か?」
頷く。
クレイスは門を見る。
「まだ戻っていない」
嫌な予感。
胸がざわつく。
あの地下。
あの壁画。
あの声。
全部。
夢じゃない。
そんな気がしていた。
外がなんだか騒がしい。
テントの入口を見る。
兵士たちの向こう。
老人だった。
あの老人。
門を見ている。
ずっと。
動かない。
俺は眉をひそめる。
何を見ている?
その時。
老人が。
ゆっくりこちらを向いた。
視線が合う。
老人の目が。
大きく見開かれる。
まるで。
何か信じられないものを見たみたいに。
そして。
深く。
頭を下げた。
ええっ。
なんで?
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