邂逅
お読みいただきありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
嫌な汗が。
止まらなかった。
「おい」
ドルガンが近づく。
「顔色悪ぃぞ」
「……平気」
平気なわけがない。
俺の身体じゃない。
知らない場所。
知らない記憶。
なのに。
どこか。
懐かしい。
それが。
何より気持ち悪かった。
壁画を見る。
長い髪。
白い外套。
俺に似ている。
違う。
俺じゃない。
なのに。
目が離せない。
レオンが隣に立つ。
「知っているのか?」
「知らない」
即答。
……のはずだった。
その瞬間。
頭の奥。
知らない声。
『嘘だ』
ゾクリとした。
俺は振り返る。
誰もいない。
ドルガンが首を傾げる。
「どうした?」
「今」
言いかけて。
止まる。
言えるわけない。
頭の中で。
知らない奴が喋ったなんて。
レオンが壁画を見る。
「昔の英雄か」
「あるいは」
少し考える。
「聖潮国の王族」
フィオが首を振る。
「でも」
「白甲冑と黒甲冑」
「両方いるよ?」
確かに。
白甲冑。
黒甲冑。
そして。
中央の男。
まるで。
二つの勢力が。
一人を巡って争っているみたいだった。
嫌な胸騒ぎ。
その時。
また。
ズキッ――。
痛み。
違う。
今度は。
景色。
雪。
巡礼路。
白甲冑が並ぶ。
その中央。
誰かが笑っている。
白い外套。
長い髪。
俺だ。
違う。
俺じゃない。
なのに。
俺は。
その男の名前を。
知っていた。
『シュトック』
声がした。
俺の声。
違う。
俺より。
少し低い。
懐かしい声。
『最初の』
『シュトック』
「っ!!」
気づくと。
壁画から飛び退いていた。
息が荒い。
ドルガンが驚く。
「お、おい!」
フィオも。
ルーも。
心配そう。
レオンだけが。
じっと。
俺を見ている。
「思い出したのか?」
首を振る。
違う。
思い出してない。
でも。
知っている。
そんな感覚。
壁画の男。
その顔だけが。
どうしても。
見えない。
見えそうになるたび。
頭が痛む。
知らない方がいい。
本能が。
そう叫んでいた。
その時。
ガタッ――。
鐘楼の奥。
崩れた壁の向こう。
暗い通路。
そこから。
風が吹いた。
冷たい。
雪の匂い。
そして。
誰かの声。
『来い』
低い声。
優しい声。
懐かしい声。
ドルガンが眉をひそめる。
「聞こえたか?」
レオンも。
剣へ手をかける。
アルスが。
珍しく真面目な顔をした。
「……人ですね」
俺は。
暗い通路を見る。
胸が。
痛い。
怖い。
でも。
行かなきゃいけない。
そんな気がした。
俺は。
まだ知らない。
その通路の先で。
自分の名前を。
もう一度。
疑うことになるなんて。
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