遺されたもの
お読みいただきありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
通路は。
思ったより。
狭かった。
石造り。
天井も低い。
足音だけが。
妙に響く。
先頭はレオン。
その後ろに。
ドルガン。
ヴェルナ。
フィオ。
ルー。
アルス。
俺は。
最後尾。
……のはずなのに。
妙な違和感があった。
ここ。
初めてじゃない。
そんなはずない。
知らない。
知らない場所だ。
なのに。
曲がり角。
崩れた柱。
壁の傷。
全部。
何となく。
見覚えがある気がした。
嫌になる。
何だこれ。
頭の奥。
『真っ直ぐだ』
声。
ビクッとする。
『左へ曲がるな』
「っ」
思わず立ち止まる。
ドルガンが振り返る。
「どうした?」
「いや……」
言えない。
頭の中で。
知らない奴が。
道案内してるなんて。
レオンが立ち止まる。
「左だな」
通路が二つに分かれていた。
右。
左。
左の方が広い。
レオンは迷わない。
「行くぞ」
左へ踏み出そうとした。
「待て!」
声が出た。
全員が振り向く。
俺も驚いた。
何で止めた?
知らない。
知らないはず。
なのに。
頭の奥。
『右だ』
「右へ行け」
気づけば。
そう言っていた。
ドルガンが眉をひそめる。
「何で?」
「知らない」
即答。
本当に。
知らない。
レオンが俺を見る。
じっと。
何も言わない。
それが。
少し怖かった。
それから。
右を見る。
左を見る。
少し考えて。
「……右だ」
ドルガンが笑う。
「マジかよ」
「勘だ」
レオンは短く言った。
俺を見ることなく。
右へ進む。
通路は。
すぐに終わった。
開けた。
小さな。
石造りの部屋。
中央。
机。
椅子。
そして。
灯り。
ランプが。
灯っていた。
ドルガンが。
眉をひそめる。
「何だよ……これ」
レオンも。
言葉を失っている。
ヴェルナが。
ゆっくり部屋を見回す。
アルスも。
珍しく黙ったままだった。
誰もいない。
なのに。
誰かが。
たった今まで。
ここにいたみたいだった。
俺は。
ゆっくり。
机へ近づく。
そこに。
一冊の本があった。
開いたまま。
古い。
革表紙。
見たこともない文字。
なのに。
読める気がした。
嫌な汗が流れる。
読むな。
そう思った。
でも。
指が。
止まらない。
文字をなぞる。
口が。
勝手に動いた。
「巡礼暦……四八三年」
全員が。
俺を見る。
俺も。
固まった。
何だ今の。
知らない。
読めるはずがない。
なのに。
続きを。
読んでしまう。
「シュトックは」
そこで。
止まった。
シュトック。
俺と。
同じ名前じゃん。
何だこれ。
頭の奥。
声。
少しだけ。
笑った。
『そうか』
それだけだった。
俺は。
眉をひそめる。
何が。
そうかなんだよ。
返事はない。
だけど。
本の文字だけが。
静かに。
そこにあった。
俺は。
震える声で。
続きを読む。
「シュトックは」
息を呑む。
「また帰ってきた」
風が吹く。
ランプの炎が。
揺れた。
俺は。
その一文を。
もう一度見る。
シュトック。
俺と。
同じ名前。
また?
頭の奥。
声。
今度は。
聞こえなかった。
だけど。
部屋の空気だけが。
少し。
懐かしくなった気がした。
俺は。
ゆっくり。
顔を上げる。
白い外套。
揺れる灯り。
誰もいない部屋。
なのに。
初めて。
はっきりと思った。
ここには。
まだ。
何かが残っている。
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