鐘楼
お読みいただきありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
鐘が。
完全に。
止まった。
静寂。
風だけが吹く。
黒甲冑。
動かない。
白甲冑も。
剣を下ろしたまま。
まるで。
時間が止まったみたいだった。
グリードが呟く。
「……終わった?」
誰も答えない。
シンは。
門の奥を見ている。
クレイスも。
老人も。
とにかく、何もかもが止まった。
訳が分からない。
「何が起きたんだ?」
老人が震える。
「鐘が……」
掠れた声。
「止まった」
その目。
俺を見る。
いや。
俺の向こう。
もっと。
遠い何かを見るみたいに。
「ようやく……」
涙。
「ようやく……」
言葉にならない。
その時。
頭の奥が。
ズキッ――。
「っ!」
膝をつく。
視界が揺れる。
黒甲冑。
白甲冑。
門。
全部が。
滲む。
リシェルが振り向く。
「シュトック?」
返事ができない。
痛い。
違う。
頭痛じゃない。
何かが。
流れ込んでくる。
白い旗。
雪。
吹き荒れる風。
鐘。
誰かの声。
『見つけた』
黒甲冑?
違う。
もっと。
昔。
もっと。
懐かしい。
誰かが。
笑っている。
『久しぶりだな』
誰だ。
お前。
『俺だよ』
知らない声。
なのに。
知っている。
頭が。
割れそうになる。
老人が叫ぶ。
「いけません!!」
クレイスが駆け寄る。
「エイゼンシュタイン!」
シンが。
初めて顔色を変えた。
「おい!」
俺は。
門を見る。
黒い。
巨大な門。
開いている。
向こう側。
誰かいる。
長い髪。
白い外套。
顔は見えない。
なのに。
笑った気がした。
次の瞬間。
意識が落ちた。
静かだった。
鐘の音が。
消えている。
……あれ?
俺は。
どこにいる?
巡礼路じゃない。
巨大な部屋。
黒い鐘。
壁画。
見覚えのない場所。
なのに。
何故か。
懐かしい。
俺は。
自分の手を見る。
白い。
指が長い。
……俺の手じゃない。
「レオンよぅ」
ドルガンが笑う。
「なんでコイツは鳴り止んだんだ?」
レオン?
思わず振り向く。
いた。
レオン。
ドルガン。
アルス。
ヴェルナ。
ルー。
フィオ。
突破隊!
なんで?
なんでこいつらがここに?
「おい!」
思わず声を上げる。
全員が振り向いた。
ドルガンが目を丸くする。
「お?」
フィオが首を傾げる。
「あれ?」
ルーが笑う。
「あらぁ」
ヴェルナが目を細める。
「どうした?」
レオンだけが。
固まっていた。
じっと。
俺を見る。
「……エイゼン?」
は?
何言ってる。
「お前」
レオンが眉をひそめる。
「髪」
髪?
触る。
長い。
肩まである。
茶色。
さらりと。
指の間を流れた。
フィオが嬉しそうに言う。
「わー」
「エイゼン君」
「そんな服持ってたんだね」
服?
見る。
白い外套。
銀の刺繍。
見たこともない。
だけど。
妙に。
似合っている気がした。
いや。
待て。
何でだ。
「貴族みたい」
フィオ。
「いや」
ヴェルナが首を傾げる。
「違うな」
俺を見る。
じっと。
観察するみたいに。
「貴族っていうより」
少し考える。
「王子?」
「馬鹿言え」
思わず言った。
ルーが笑う。
「あらぁ」
「でも」
「男っぽくなったわよ?」
「いい感じ」
「イケメン君」
「うるさい」
何なんだ。
さっきから。
みんな。
何を言ってる。
「てか!」
思わず叫ぶ。
「俺!」
「なんでここにいるんだ!?」
皆黙り込む。
ドルガンが。
レオンを見る。
レオンが。
俺を見る。
アルスまで。
珍しく。
真面目な顔をしていた。
「……何言ってる?」
レオン。
低い声。
「お前が」
「俺たちを連れてきたんだろ」
は?
「は?」
同じ言葉が。
そのまま出た。
「何言ってんだ」
「俺」
「さっきまで巡礼路に――」
そこまで言って。
止まる。
巡礼路。
黒甲冑。
白甲冑。
鐘。
……鐘?
頭が。
痛い。
ズキッ――。
思わず額を押さえる。
白い旗。
雪。
吹き荒れる風。
剣。
叫び声。
白甲冑。
倒れていく。
その中央。
誰かが立っている。
長い髪。
白い外套。
俺?
違う。
俺じゃない。
でも。
知っている。
その男が。
ゆっくり振り返る。
顔は見えない。
だけど。
笑った。
俺の声で。
「久しぶりだな」
「っ!!」
飛び退く。
息が荒い。
何だ。
今の。
ドルガンが目を丸くする。
「おい」
「大丈夫か?」
フィオも。
少し心配そう。
ルーも笑っていない。
レオンだけが。
ずっと。
俺を見ている。
その目。
警戒。
困惑。
そして。
ほんの少し。
恐れているようにも見えた。
「……お前」
「誰なんだ?」
嫌な汗が流れる。
俺は。
俺だ。
シュトック・エイゼンシュタイン。
なのに。
今。
初めて。
そう言い切れない気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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