守護
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門の奥。
金属音が近付いてくる。
カシャン。
カシャン。
規則正しい。
聞いているだけで嫌な音だった。
白甲冑とは違う。
重い。
もっと。
底冷えするような音。
老人が震えていた。
目を見開いたまま。
門の奥だけを見ている。
「来る……」
掠れた声。
「来てしまった……」
レオンが剣を構える。
ドルガンも。
カイゼルも。
アルスも。
誰も喋らない。
いつもの軽口が消えていた。
アルスの細剣が、ゆっくりと正中へ戻る。
無駄のない構え。
微笑んでいない。
本気の表情だ。
シンが門を睨んでいる。
汗が一筋。
頬を伝った。
フィオが驚く。
「シン?」
返事がない。
ルーが小声で聞いた。
「何がいるか分かるの?」
しばらく沈黙。
そして。
シンが小さく首を振った。
「分からない」
思わずシンを見る。
あのシンが。
緊張してるのを見たのは初めてだった。
門の奥。
闇が揺れる。
ゆっくり。
何かが姿を現した。
黒。
真っ黒な甲冑。
だけど。
違う。
前に見た黒甲冑じゃない。
大きい。
二メートルはある。
肩には。
折れた王冠の紋章。
右腕は。
剣じゃない。
巨大な杭。
鉄塊みたいなそれを。
地面へ引きずっている。
ギギギ……。
嫌な音が響く。
俺の背中に寒気が走った。
あれは。
武器じゃない。
処刑具か何かだ。
老人の唇が震える。
聞き取れたのは。
ただ一言。
「王殺し……」
ケッヒル大佐だけが。
目を細めた。
老人を見ている。
その横顔が。
少しだけ遠く見えた。
シンが呟く。
「こいつは……」
全員が振り向く。
シンの目は。
黒い甲冑を見ていた。
低い声。
「俺たちを見てない」
レオンが眉をひそめる。
「何?」
シンは答える。
迷いなく。
「エイゼンシュタインだけを見ている」
思わず黒い甲冑を見る。
顔なんて見えない。
目も。
表情も。
分かるはずがない。
なのに。
なぜか。
見られている気がした。
その瞬間。
ザッ――。
前へ出たのは。
白甲冑だった。
一体。
また一体。
さらに。
次々と。
俺と。
黒い甲冑の間へ並ぶ。
剣を抜く。
白い刃。
一斉に。
黒い甲冑へ向けられる。
グリードが目を見開く。
「お、おい……」
「嘘だろ」
ドルガンも笑っていない。
カイゼルが舌打ちする。
「チッ」
レオンは剣を構えたまま。
白甲冑たちを見ている。
白甲冑は。
俺を見ない。
第7も見ない。
黒い甲冑だけを見ている。
守っている?
そう思った。
思った瞬間。
頭の奥が痛む。
ズキッ――。
白い旗。
雪。
吹き荒れる風。
白甲冑たち。
その中央。
誰かが立っている。
見えない。
顔が。
どうしても。
見えない。
『守れ』
声が聞こえた。
男の声。
低い。
だけど。
不思議なくらい懐かしい。
『最後まで』
知らない。
知らないはずだ。
なのに。
胸の奥が熱くなる。
現実へ戻る。
老人の目が。
俺へ向く。
「いけません……」
掠れた声。
震える唇。
何かを伝えようとしている。
それだけは分かった。
だけど。
言葉にならない。
そんな顔だった。
黒い甲冑が。
ゆっくりと。
杭のようなものを持ち上げる。
白甲冑たちが。
一歩。
前へ出た。
そして。
巡礼路に。
白と黒が対峙した。
鐘の音だけが。
遠くで鳴っていた。
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