巡礼者
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重い足音が響いた。
視線が一斉に門へ向く。
門の向こう。
闇の奥から。
ゆっくりと何かが近付いてくる。
石を踏む音。
一定の歩幅。
迷いがない。
まるで。
最初からここへ来ると決まっていたみたいに。
レオンが剣を構える。
ドルガンが大剣を肩から下ろした。
カイゼルも無言で前へ出る。
アルスの細剣が、いつの間にか突きの構えへ変わっていた。
本軍兵士たちが息を呑んだ。
黒甲冑。
そう思った。
俺も。
全員そう思ったはずだ。
だが。
現れたのは。
違った。
「……人?」
ミオが呟く。
門の奥から現れたのは。
一人の老人だった。
痩せている。
異様なほど。
骨と皮だけみたいな身体。
古びた灰色の法衣。
裸足。
長い白髪が胸元まで垂れている。
そして。
顔を覆うほど伸びた髭。
巡礼者。
そんな言葉が頭をよぎった。
老人はゆっくり歩いてくる。
白甲冑たちの間を。
まるで当然のように。
「待て」
レオンが低く言う。
老人は止まらない。
ドルガンが眉をひそめた。
「なんだこりゃ」
カイゼルも剣を下ろさない。
「気味が悪ぃ」
シンだけが動かなかった。
その目は。
最初から老人を見ていた。
「シン」
フィオが呼ぶ。
返事はない。
ただ。
警戒だけが強くなっている。
俺にも分かった。
この人。
普通じゃない。
老人は歩く。
ただ歩く。
敵意はない。
殺気もない。
なのに。
全身が警鐘を鳴らしていた。
クレイスが静かに呟く。
「おかしいですね」
また始まった。
今さら何がおかしいんだよ。
「呼吸をしていません」
全員が固まった。
「……は?」
グリードが変な声を出す。
クレイスは老人から目を離さない。
「胸が動いていない」
「歩行速度も一定です」
「そして」
銀のレンズが淡く光る。
「瞬きをしていません」
空気が凍った。
老人は歩く。
変わらない歩幅で。
変わらない速度で。
ただ。
こちらへ。
「生きていない」
シンが言った。
短く。
断定するように。
老人は止まった。
俺の前で。
ぴたりと。
全員が構える。
リシェルの手が俺の袖を掴んだ。
老人が顔を上げる。
その瞬間だった。
ズキッ――。
頭の奥が痛む。
視界が揺れる。
白い海。
鐘の音。
空。
どこまでも白い光。
知らない景色。
知らないはずなのに。
懐かしい。
『――シュトック』
声が聞こえた。
フィナじゃない。
もっと遠い。
もっと古い。
老人の唇が動く。
乾いた唇。
声にならない声。
それでも。
聞こえた気がした。
『……やっと』
心臓が跳ねる。
何だ。
何なんだ。
老人の目が。
真っ直ぐ俺を見る。
そして。
ゆっくりと片膝をついた。
全員が息を呑む。
白甲冑たちも動かない。
鐘も鳴らない。
世界が止まったみたいだった。
老人は頭を垂れる。
まるで。
王へ礼を捧げる臣下のように。
そして。
震える声で言った。
「お帰りなさいませ」
――シュトック様。
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