石門
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頭の奥が痛んだ。
ズキッ――。
思わず石門から目を逸らす。
その瞬間だった。
白い影が見えた。
白甲冑じゃない。
門の向こう。
誰かが立っていた。
瞬きをする。
消えている。
気のせいだったのか。
白甲冑たちが並ぶ道を。
第7は進んでいた。
左右。
白い甲冑。
無数の視線。
なのに。
誰も襲ってこない。
……気味が悪い。
本気で。
グリードも落ち着かないらしい。
何度も左右を見ている。
「なぁ」
小声だった。
「これ絶対おかしいだろ」
「今さらかよ」
俺も小声で返す。
「いや今さらじゃねぇよ」
グリードが俺を指差した。
「前に白甲冑に刺されてただろ!?」
「なんで今は襲われねぇんだよ!?」
知らねぇよ。
俺が聞きたい。
その時。
少し前を歩いていたクレイスが口を開いた。
「ええ」
銀のレンズが静かに光る。
「私も気になっています」
グリードが振り向く。
「分かるんですか!?」
「まだ」
クレイスは即答した。
「ですが」
そこで言葉を切る。
クレイスの視線は白甲冑に向いていた。
「前回と今回で、何かが変わっています」
何か。
って何だよ。
聞こうとした時だった。
先頭を歩いていたシンが立ち止まる。
フィオが首を傾げた。
「シン?」
シンは答えない。
じっと前を見ている。
ルーも眉をひそめた。
「どうしたの?」
しばらくして。
シンが呟く。
「聞こえる」
クレイスが反応した。
「鐘ですか」
シンは首を振る。
「違う」
短い返答。
それだけなのに。
なぜか背筋が冷えた。
「声だ」
風が吹く。
巡礼路の奥から。
冷たい風。
誰も喋らない。
いや。
喋れなかった。
シンは冗談を言う人じゃない。
だから怖い。
やがて。
先頭のケッヒル大佐が足を止めた。
全員が止まる。
その先。
霧の向こうに。
巨大な石門が立っていた。
崩れかけた古い門。
蔦が絡み。
苔が張り付き。
誰も読めない文字が刻まれている。
そして。
門の中央。
赤黒い染みが見えた。
クレイスが近付く。
指先で触れる。
銀のレンズが細くなった。
「新しい」
レオンが目を細める。
「血か」
「そのようです」
クレイスが立ち上がる。
「警備隊でしょうか」
ミオが小さく呟く。
けど。
クレイスは首を振った。
「違います」
全員の視線が集まる。
クレイスは門の前の地面を見ていた。
「足跡が多すぎる」
風が吹く。
門の向こうは見えない。
霧しかない。
その時だった。
シンの目が細くなる。
初めて。
明確な敵意が宿った。
「いた」
フィオが振り向く。
「何が?」
シンは門の向こうを見たまま答える。
「黒い方だ」
フィオが目を見開く。
「黒い方って……」
シンは答えない。
ただ。
石門の向こうを見ていた。
まるで。
そこに何かいることを確信しているみたいに。
冷たい風が吹く。
門の隙間から流れてくる風が。
妙に冷たかった。
クレイスが石門へ近付く。
古びた文字を指でなぞる。
銀のレンズが静かに光った。
「妙ですね」
小さな声だった。
レオンが振り向く。
「何がだ」
「削られています」
クレイスが石門の中央を指した。
そこだけ。
不自然に傷が走っている。
まるで。
誰かが文字を消したみたいに。
「読めるのか?」
グリードが聞く。
「いえ」
クレイスは首を振った。
「ですが」
「隠したかったのでしょう」
ぞくりとした。
なんでそんなことが分かるんだよ。
クレイスは石門を見上げる。
「文字を消す理由は二つです」
「知られたくないか」
「思い出されたくないか」
風が吹く。
誰も口を開かなかった。
なんか嫌な言い方だった。
その時。
頭の奥が痛んだ。
ズキッ――。
思わず眉を押さえる。
まただ。
鐘が近付くほど。
頭が痛くなる。
白い霧。
鐘の音。
そして――
白い影。
門の向こう。
誰かが立っていた。
白い。
人影。
俺は息を呑む。
いた。
間違いない。
あの時見たやつだ。
「――」
声が出ない。
瞬きをする。
次の瞬間。
消えていた。
誰も反応していない。
見えていたのは。
俺だけだった。
「シュトック?」
リシェルが心配そうに覗き込む。
「顔色が……」
「いや」
喉が渇く。
「なんでもない」
そう答えるしかなかった。
その時だった。
ゴォォォォォン――。
鐘が鳴る。
今までより近い。
門の向こうから。
直接響いてくるみたいだった。
全員が身構える。
ギギギ……
嫌な音が響いた。
石門が動く。
ゆっくりと。
わずかに開いていく。
グリードが青ざめた。
「おい」
「おいおいおい……」
レオンが剣を構える。
ドルガンが大剣を肩へ担ぐ。
カイゼルが舌打ちした。
アルスも静かに細剣を抜く。
皆が門の向こうを警戒している。
クレイスだけは違った。
銀のレンズ越しに。
門そのものを観察している。
「妙ですね」
いや。
もう全部妙だろ。
門の隙間。
その奥は暗い。
何も見えない。
でも。
目を離せなかった。
何かいる。
シンが一歩前へ出る。
フィオとルーが、反射的にその後ろへ回った。
「来る」
低い声だった。
その直後。
闇の奥から。
重い足音が響いた。
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