門
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巨大な影が立ち上がる。
霧の奥。
巡礼路の最深部。
鐘の鳴る場所だった。
ゴォォォォォン――。
重い音が響く。
そのたびに。
白甲冑たちが動く。
まるで。
命令を受けているみたいに。
「大佐!」
レオンが叫ぶ。
「どうします!」
ケッヒル大佐は答えない。
ただ。
霧の奥を見ていた。
巨大な影。
鐘。
白甲冑。
その全てを。
やがて。
低い声が響く。
「鐘を止める」
グリードが目を剥き、思わず叫ぶ。
「は?」
「止めるって、どうやって!?」
「白甲冑がいるんすよ!?」
……俺もそう思った。
だけど。
ケッヒル大佐は変わらない。
「白甲冑は囮だ」
静かな声だった。
その一言で。
空気が変わる。
クレイスの銀のレンズが光る。
「やはり、そう考えますか」
ケッヒル大佐は頷かない。
否定もしない。
クレイスが続ける。
「白甲冑は鐘が鳴るたびに反応している」
「つまり主導権は、鐘の側にある」
「ならば原因は――」
「後だ」
低い声。
クレイスが口を閉じる。
「今は止める」
その言葉に。
クレイスの眉がわずかに動いた。
分かる。
納得していない。
この人は理由を知りたい。
でも。
ケッヒル大佐は違う。
理由より先に。
最悪の結果を止めようとしている。
兵士が震えていた。
リシェルが肩を支えている。
ヴェルナも傍にいる。
それでも。
兵士の震えは止まらない。
「鐘を……」
掠れた声。
「止めないと……」
全員が振り向く。
兵士の顔は真っ青だった。
「何が起きる」
レオンが聞く。
兵士は答えない。
いや。
答えられない。
唇が震えている。
まるで。
思い出したくもないものを思い出しているみたいに。
ゴォォォォォン――。
鐘が鳴る。
兵士が悲鳴みたいな声を上げた。
「門が開く!」
「門?」
ミオが呟く。
兵士は必死に頷いた。
「あそこだ……」
「巡礼路の奥だ……」
「開くんだ……」
グリードが顔をしかめる。
「だから何の門だよ」
兵士の目が見開かれる。
恐怖。
そのものだった。
「知らない」
「誰も知らない」
「でも……」
兵士の声が震える。
「開いた」
その瞬間だった。
頭の奥が痛んだ。
ズキッ――。
視界が揺れる。
白い霧。
鐘の音。
誰かの声。
『シュトック』
『またいなくなる』
胸の奥がざわつく。
何だ。
何なんだ。
どうして。
鐘の音を聞くたびに――。
「シュトック!」
リシェルの声。
気付くと。
俺は膝をついていた。
「大丈夫!?」
「……ああ」
ほんとは全然大丈夫じゃない。
だけど。
説明できる気もしなかった。
クレイスがこちらを見ている。
銀のレンズ。
あの目だ。
何かを考えている目。
でも。
今は何も言わない。
その時。
霧の奥で。
巨大な影が動いた。
一歩。
地面が揺れる。
白甲冑たちが一斉に頭を垂れた。
まるで。
主へ跪くみたいに。
鐘が鳴る。
ゴォォォォォン――。
ゴォォォォォン――。
ゴォォォォォン――。
ケッヒル大佐は微動だにしない。
その視線は最初から変わらない。
鐘の鳴る場所。
巡礼路の奥だけを見ていた。
「進むぞ」
その一言で。
第7は巡礼路へ踏み込んだ。
胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
だけど。
あの鐘は。
どこかで聞いた気がした。
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