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貧民出身の俺、王立剣術院で半年間ただ素振りしてただけなのに“完成された剣”だと見抜かれて最強への道が始まった〜姉妹を取り戻すために成り上がる〜  作者: シラセユウ


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霧の鐘

お読みいただきありがとうございます!


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

誰も動かなかった。



霧の向こう。


白い影だけが立っている。



近い。


近いはずなのに。


輪郭だけが曖昧だった。



「……見えるか」


ドルガンが低く言う。



ガハハと笑う時の声じゃない。


本気の声だった。



アルスが細剣へ手を添えたまま答える。


「見えてるよ」


「だから困ってる」



「何がだよ」


思わず聞き返す。



アルスは目を離さない。


「大きさだ」



レオンも目を細めた。


「距離感が狂っている」



クレイスの銀のレンズが光る。


「霧です」


「輪郭が膨張して見える」



言われてみれば。


大きく見える。



だけど。


どこか不自然だった。



人影に見えるのに。


人間の大きさが掴めない。



その時だった。


影が崩れた。



全員が武器へ手を掛ける。



でも。


違う。


襲ってきたんじゃない。



倒れた。


膝から。


力尽きるみたいに。



「生存者です!」


リシェルが駆け出す。



ヴェルナも同時に走った。



ケッヒル大佐は止めない。



代わりに。


短く命じる。


「警戒維持」



一瞬で第7が展開する。



ドルガン。


カイゼル。


レオン。


アルス。



それぞれが別方向を警戒していた。



俺も剣へ手を掛ける。



倒れていたのは。


本軍兵士だった。



鎧は裂けている。


泥。


血。


傷。



でも。


生きていた。



「まだ脈があります!」


リシェルが叫ぶ。



ヴェルナが傷を確認する。


その表情が曇った。


「おかしい」



クレイスの目が動く。


「どうしました?」



「傷が少ない」


ヴェルナが低く言った。


「この状態でここまで逃げてきたなら少なすぎる」



確かに。


鎧は壊れている。



なのに。


本人は生きている。



妙だった。



兵士が目を開く。


焦点が合わない。



荒い呼吸。


震える瞳。



そして。



最初の言葉が。


「逃げろ」



誰も口を開かなかった。



兵士は続ける。


「巡礼路へ行くな」


「来る」


「来るぞ」



クレイスが静かに聞く。


「何が」



兵士の瞳が揺れた。


その顔は。


“恐怖そのもの”を見たような顔だった。



そして。



兵士は言った。


「白甲冑じゃない」



空気が止まる。



クレイスの銀のレンズが光る。


レオンが眉をひそめる。


ドルガンから笑みが消える。


カイゼルだけが無言だった。



ケッヒル大佐が聞く。


「何を見た」



兵士は答えない。


いや。


答えられない。



震える指だけが。


南を指した。



旧アルヴェリア巡礼路。



そして。



掠れた声で呟く。


「鐘が鳴った」



鐘。



クレイスが反応する。


「巡礼路の鐘は百年以上前に――」



そこまでだった。



――ゴォォォォォン。



全員が顔を上げる。



低い音。


重い音。


地面の下から響くような鐘の音。



南。


霧の奥。



見えるはずのない場所から。


確かに聞こえた。



兵士の顔から血の気が引く。


「来る」


「来る」


「来る」



壊れたみたいに繰り返す。



そして。



兵士は。


最後に。


全員の背筋を凍らせる言葉を吐いた。



「……あれは」


「人じゃない」



その瞬間。



霧の奥で。


何かが動いた。



一つじゃない。


二つでもない。



霧の向こう。



無数の白い影が。


静かにこちらを見ていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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