視線
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風が吹く。
白い影の裾だけが、ゆらりと揺れた。
外壁の上。
そこに、確かに立っている。
なのに。
見えているのは、俺とフィナだけ。
喉が嫌に乾く。
クレイスの視線が、まっすぐこちらへ向いていた。
「どう見えている」
静かな声。
「……白い影です」
「人っぽい」
「でも、輪郭が変で」
「ぼやけるっていうか……」
言葉にしてるのに。
自分でもよく分からない。
ちゃんと見ようとすると。
ブレる。
気持ち悪ぃ。
フィナの手に、力が入る。
「まだ、います……」
怯えた声だった。
セレーナが、妹の肩を抱く。
「フィナ」
「また、何か見えているの?」
低い声。
その目には、隠しきれない緊張があった。
フィナが、小さく頷く。
「……嫌な感じがするの」
リシェルが、不安そうに俺を見る。
「シュトック」
「顔色、悪いよ……?」
そりゃまぁ。
あんなの見えたら。
その時だった。
「……っ、動いた」
思わず呟く。
白い影が。
ゆっくり腕を上げた。
指差している。
まっすぐ。
こっちを。
いや。
俺を。
ぞわり。
背筋が粟立つ。
「っ……」
息が止まりかける。
アルスが眉をひそめた。
「お前ら、何を見てる?」
見えてない。
この人にも。
グリードが、大剣の柄を握る。
「おい、なんかいるのかよ」
目の前にいるだろ。
なんで見えないんだよ。
レオンが、低く呟く。
「……空気が変だ」
シンだけが、目を細めていた。
「気配が近い」
声が低い。
クレイスが静かに口を開く。
「全員、警戒を維持」
「不用意に動くな」
ケッヒル大佐の目が、鋭く周囲を探る。
「前面、臨戦態勢に」
戦場の空気だった。
その瞬間。
白い影が。
ゆっくり首を傾げた。
まるで。
俺を観察しているみたいだった。
笑っているようにも見える。
ぞくりとした。
傷が痛む。
吐き気がする。
リシェルが俺を覗き込む。
「シュトック、大丈夫?」
俺の手を握り、回復の光を放つ。
次の瞬間。
すうっと。
輪郭が薄れる。
消えた。
風だけが残る。
誰も動かない。
「……消えました」
フィナが、小さく呟く。
クレイスの目が、細くなる。
「記録と一致する」
低い声だった。
レオンが振り返る。
「記録?」
クレイスは、少しだけ黙った。
その横で。
フィナが、まだ俺の服を掴んでいる。
震えてる。
……俺もだ。
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