見えている者
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風が、妙に冷たかった。
南門外。
壊れた荷車。
砕けた石畳。
乾ききっていない血痕。
でも。
死体だけが、ない。
「……不自然ですね」
東嶺の双剣使い――フィオが、小さく呟いた。
その隣で。
ルーも周囲を見渡している。
シンだけは黙ったままだ。
空気を探るみたいに、目を細めている。
「これだけ戦って、何も残ってねぇのかよ……」
グリードが眉をひそめた。
レオンも険しい顔をしている。
本軍兵士たちが周囲を封鎖していた。
その中心。
クレイスが、地面を調べている。
片目の銀レンズが、鈍く光った。
「この戦闘規模に対して、痕跡が少なすぎる」
淡々とした声。
「回収された可能性が高い」
「誰が?」
ミオが、不安そうに呟く。
クレイスは答えない。
代わりに。
ケッヒル大佐が、低く口を開いた。
「まだ終わっていない」
短い言葉だった。
だけど。
その場の空気が、静かに変わった。
……やっぱ、この人すげぇな。
その時だった。
ぞくり。
背筋に、嫌な感覚が走る。
反射的に、顔を上げた。
外壁の上。
白い何かが立っていた。
細い。
人影。
風もないのに。
白い布みたいなものが揺れている。
こちらを見ていた。
心臓が跳ねる。
――いる。
間違いない。
「……っ」
思わず足を止めた。
「シュトック?」
リシェルの声。
でも。
視線を外せない。
白い影が、ゆっくり首を傾げる。
その瞬間。
「……シュトック」
小さな声。
隣を見る。
フィナだった。
青い顔で、外壁を見上げている。
小さな手が、ぎゅっと俺の服を掴んでいた。
隣で、リシェルが小さく目を細めた気がした。
フィナの手が震えてる。
「……まだ、います」
「フィナ?」
セレーナが、妹を見る。
フィナは、かすれた声で呟いた。
「……います」
空気が止まった。
レオンが振り返る。
クレイスの目が細くなる。
「どこです?」
低い声。
でも。
見えていない。
アルスも。
グリードも。
ミオも。
誰も。
白い影を見ていない。
喉が乾く。
おいおいおいおい。
なんなんだよ、これ。
その時。
シンが、小さく呟いた。
「……妙だな」
東の剣士の目が、細くなる。
「気配だけ、ある」
クレイスがゆっくり立ち上がった。
銀のレンズが、こちらへ向く。
「エイゼンシュタイン」
「君には、見えているのか?」
空気が重い。
全員の視線が集まる。
白い影は。
まだ、そこに立っていた。
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