召命
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王都は、静かだった。
三日前まで。
あれだけ悲鳴と怒号に包まれていたとは、思えないくらいに。
窓の外。
朝の光が、石畳を照らしている。
崩れた壁。
折れた槍。
焼け焦げた跡。
第二城郭区は、まだ傷だらけだった。
それでも。
人が動いている。
兵士。
職人。
荷車。
止まりかけていた王都が、また動き始めていた。
「……ほんとに、生き残ったんだな」
思わず漏れる。
自分でも変な言葉だった。
でも。
まだ少し、信じられなかった。
あの白甲冑。
黒甲冑。
押し潰されるみたいな絶望。
あれを。
本当に、生きて越えたのか。
窓の横。
レオンが腕を組んだまま立っている。
「生き残った、か」
小さく呟く。
その横顔は、少し疲れて見えた。
「……お前も寝てないだろ」
言うと。
レオンが、少しだけ目を細める。
「誰かさんが三日も起きなかったからな」
「うっ」
返せない。
その時。
ベッドの横で、こくり、と小さく頭が揺れた。
リシェルだ。
椅子に座ったまま。
また眠っていた。
さっき起きたばかりなのに。
細い指が、まだ俺の服の端を掴んでいる。
……どんだけ心配してたんだよ。
胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
レオンも、それを見ていた。
「シュトックが死ぬんじゃないかって、ずっと泣いてたぞ」
「おい、言うなよ……」
思わず小声になる。
レオンが、珍しく少し笑った。
「熱も下がらなかった」
「治癒術を使い続けて、自分の方が倒れかけていた」
視線が、自然とリシェルへ向く。
金色の髪。
小さな寝息。
その顔は、少しやつれて見えた。
……馬鹿だろ。
いや。
馬鹿なのは俺か。
無茶して。
心配かけて。
その時だった。
遠くで、重い角笛が響く。
ボオォォォ――。
窓ガラスが、びり、と震える。
腹の奥へ落ちてくるみたいな音だった。
「……本軍か」
レオンが頷く。
「ああ」
「北方遠征軍だ」
窓の外を見る。
城壁の向こう。
赤と黒の軍旗が見えた。
数が違う。
整列した重騎兵。
巨大な荷馬車。
長槍隊。
守備隊とは、空気そのものが違った。
「すげぇな……」
自然と声が漏れる。
レオンが静かに言う。
「ヴァルクレイン本軍」
「王国最強の軍だ」
その声には。
少しだけ、誇りが混じっていた。
「間に合わなかったら、王都は落ちていた」
空気が重くなる。
自然と。
三日前の光景が蘇る。
崩れる盾列。
止まらない白甲冑。
押されるカイゼル。
そして。
黒甲冑の赤い光。
ぞくりとした。
「……なあ」
喉が少し乾く。
「結局、あいつら何だったんだ」
レオンが黙る。
数秒。
視線を窓の外へ向けたまま。
「まだ分からない」
短い返事だった。
「だが」
「王家も、本軍も動き始めてる」
その言葉に。
胸の奥がざわつく。
守備隊だけの話じゃない。
もっと大きな何かが、動いている。
その時だった。
コンコン!!
静かな部屋に、場違いなくらい元気な音が響く。
「失礼しまーーす!!」
返事を待たずに、扉が開いた。
飛び込んできたのは、小柄な少女だった。
栗色の髪。
大きめの軍帽。
ぶかぶかの軍服。
歳は、俺たちより少し下くらいか。
「いた!!」
「エイゼンシュタイン発見!!」
びしっ、と指を差される。
「……誰だ?」
「ミオ!」
「本軍伝令隊所属!」
元気がうるさい。
少女――ミオが、ずかずか部屋へ入ってくる。
「いやー、探した探した!」
「総司令部、今めちゃくちゃピリピリしててさー!」
レオンの眉が、ぴくりと動く。
「……総司令部?」
「そ!」
「王城中央宮!」
ミオが、ぐっと顔を近づけてくる。
「総司令官!」
「将軍!」
「王族!」
「それに、ケッヒル大佐までいるよ!」
……今、なんて?
「大佐?」
「そりゃそーでしょ!」
「元・本軍所属だもん!」
頭が追いつかない。
ケッヒル隊長が。
本軍?
しかも。
大佐?
ミオが、にっと笑う。
「で!」
「その大物たちが、君を呼んでる!」
俺を?
なんで。
嫌な予感しかしない。
その時。
窓の外で、再び角笛が鳴った。
ボオォォォ――。
重い音だった。
まるで。
王都そのものが、動き始めたみたいに。
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