届かない距離
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「……終わったか」
試合のざわめきが、まだ残っている。
でも。
頭の中は、静かだ。
勝った。
でも。
正直、ギリギリだ。
「……余裕ねえな」
グリード。
「そりゃそうっすよ」
軽く返す。
でも。
視線は、別の場所。
「……」
カイゼル。
さっきの試合のあと。
もう、普通に立ってる。
息も乱れてない。
汗も、ほとんどない。
「……化け物かよ」
小さく呟く。
そのとき。
「呼んでいる」
声。
レオン。
「は?」
「行け」
顎で示す。
その先。
カイゼル。
……は?
「いやいやいや」
「なんで俺」
「知らん」
即答。
「だが」
少しだけ、目が細くなる。
「行け」
……はぁ。
「めんどくせえな」
ぼそっと言って。
歩き出す。
距離が縮まる。
一歩。
また一歩。
「……」
近づくほどに。
わかる。
違う。
空気が。
重いわけじゃない。
圧があるわけでもない。
でも――
「……なんだよ、これ」
言葉にならない。
「来たか」
カイゼルが言う。
振り向く。
視線が合う。
「……どうも」
とりあえず言う。
何言えばいいかわかんねえし。
「……」
何も返ってこない。
ただ、見られている。
値踏み。
いや。
違う。
「……」
観察されてる。
「……なんすか」
思わず言う。
「いや……」
「呼ばれたって聞いたんすけど」
「呼んでいない」
は?
「……じゃあなんで」
「興味があった」
それだけ。
あっさり。
「……はあ」
なんだそれ。
「お前」
カイゼルが言う。
「崩したな」
……やっぱりそこか。
「まあ、ちょっとだけ」
「遅い」
即答。
カチンとくる。
「いやいやいや」
「昨日できなかったことなんで」
「普通はもっと遅い」
「だが」
一瞬だけ、間。
「お前は早い」
……は?
なんだよ。遅いとか早いとか。
「……どういう意味っすか」
「気づいている」
それだけ。
「何に」
「変わらないことに」
……っ
言葉が詰まる。
リシェル。
レオン。
さっきの試合。
全部、繋がる。
「……まあ」
なんとか返す。
「そこは」
「で?」
カイゼルが少しだけ近づく。
「どうする」
「……どうするって」
「崩し続けるか」
「戻るか」
……は?
「戻る?」
「安定する」
「だが、止まる」
「崩す」
「不安定になる」
「だが、伸びる」
淡々と。
言葉が落ちてくる。
「……」
選択?
そんなの――
「決まってるでしょ」
即答。
「崩しますよ」
迷いない。
「……」
カイゼルが、ほんの少しだけ目を細める。
「そうか……」
それだけ。
立ち去ろうとする。
だが。
振り向く。
「次で終わる」
……は?
「何が」
思わず聞く。
「試験だ」
それだけ言って。
歩いていく。
小さくなっていく背中。
……遠い。
「……なんだよ、それ」
意味わかんねえ。
でも。
「……終わるって」
胸の奥が、少しだけざわつく。
ただの試験じゃない。
そんな気がする。
「……はぁ」
息を吐く。
「……やるしかねえな」
今度は、はっきりと。
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