まだ間に合う
お読みいただきありがとうございます!
第二部の北部編に入りましたが、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
白い服の子どもは。
そこに立ったまま。
俺を見つめていた。
小さな体。
白い服。
透けるような肌。
さっきまで。
何度追っても。
消えていた子。
今は。
逃げようとしない。
俺は。
思わず。
一歩踏み出す。
「待って!」
声をかけた。
子どもは。
何も答えない。
ただ。
俺だけを見つめている。
その瞳には。
怯えも。
悲しみも。
怒りもなかった。
ただ。
何かを訴えるような。
静かな光だけが。
宿っていた。
次の瞬間。
風が吹いた。
森の木々が。
大きく揺れる。
落ち葉が。
一斉に舞い上がった。
思わず。
目を細める。
風が止む。
もう。
そこには。
誰もいなかった。
「……消えた」
リシェルが。
小さく呟く。
俺は。
森の奥を見る。
返事はない。
鈴の音も。
聞こえない。
残っているのは。
静かな森だけだった。
クレイスが。
空を見上げる。
木々の隙間。
夕日が。
赤く差し込んでいた。
「戻りましょう」
静かな声だった。
「日没です」
「これ以上は」
「危険です」
俺は。
もう一度だけ。
子どもが立っていた場所を見る。
頭から。
離れない。
『まだ』
『間に合うよ』
あれは。
誰に向けた言葉だった?
俺に?
それとも。
第五採掘区の誰かに?
俺たちは。
来た道を戻り始めた。
クレイスは。
枝へ結んだ目印を。
一つずつ回収していく。
帰路を示した布が。
静かに。
消えていく。
やがて。
森を抜ける。
夕暮れの空が。
北部を赤く染めていた。
北部守備隊。
仮設本部。
戻ると。
まだ誰も。
帰ってきていなかった。
俺たちは。
簡単に。
見つけたものを整理する。
石碑。
ヴァルムーアの紋章。
銅板。
子どもの移送記録。
そして。
俺たち兄妹だけが。
名簿から消されていたこと。
クレイスは。
紙へ。
静かに書き留めていく。
一つも。
漏らさないように。
しばらくして。
扉が開いた。
戻って来たのは。
レオンたちだった。
フィナは。
少し疲れた顔をしている。
ルーも。
無言だった。
「何か」
「分かったか?」
俺が聞くと。
レオンは。
短く頷く。
「聞き込みで」
「妙な話を聞いた」
全員の視線が。
集まる。
「北へ子どもを運ぶ荷馬車を」
「見たっていう老人がいた」
俺は。
思わず息を止める。
「いつだ?」
「十数年前だ」
「夜間だけ運んでいたらしい」
クレイスの手が。
止まる。
「人数は?」
「分からない」
「だが」
「荷馬車は何台もあったそうだ」
部屋が。
静まり返る。
俺たちが見つけた。
移送記録。
そして。
町で語られていた。
荷馬車。
別々に集めた情報が。
初めて。
一つに繋がった。
その時。
再び。
扉が開く。
ケッヒル大佐たちが。
戻ってきた。
その表情を見た瞬間。
俺は。
何かあったと。
直感した。
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