同じ痕跡
お読みいただきありがとうございます!
第二部の北部編に入りましたが、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
小さな足跡は。
荷馬車の後ろから。
森の奥へ。
続いていた。
裸足。
子どものものだ。
俺は。
その場に。
しゃがみ込む。
落ち葉の上。
小さな。
五本の指。
一歩。
また一歩。
見間違いじゃない。
「……これ」
胸の奥が。
ざわつく。
リシェルが。
俺を見る。
「どうしたの?」
すぐには。
答えられなかった。
思い出していた。
白い霧。
人の消えた村。
食卓に残された。
パン。
井戸の桶。
風に揺れる。
洗濯物。
そして。
南へ続いていた。
無数の。
裸足の足跡。
「……あの村だ」
思わず。
口をついて出た。
リシェルが。
小さく頷く。
俺は。
足跡を見つめたまま。
呟く。
「同じだ」
「全部」
「同じだ」
胸の奥が。
重くなる。
南方巡礼路。
白甲冑。
鐘。
北部。
消えた人たち。
まさか。
全部。
「つながってるのか?」
クレイスは。
すぐには答えない。
周囲を見る。
横倒しの荷馬車。
黒く変色した土。
森の奥へ続く。
小さな足跡。
「その可能性は」
「考えるべきでしょう」
短い答えだった。
断定はしない。
だけど。
否定もしなかった。
リシェルが。
足跡の先を見る。
「追うの?」
クレイスは。
黙り込む。
さっきまでなら。
戻ると言ったはずだ。
声の正体も。
分からない。
足跡も。
突然現れた。
危険だ。
それでも。
南方巡礼路と。
同じ現象なら。
ここで。
見失うわけにもいかない。
クレイスが。
懐から。
細い布を取り出す。
近くの枝へ。
結びつけた。
「帰路を」
「確保します」
俺は。
思わず聞く。
「行くのか?」
「長くは追いません」
「異変があれば」
「すぐに戻ります」
リシェルを見る。
「エイゼンシュタイン君の傷にも」
「限界があります」
「分かってる」
答えると。
リシェルが。
じっと。
俺を見る。
信用していない顔。
「本当に?」
「……たぶん」
リシェルが。
小さく息を吐く。
「それ」
「分かってない時の返事」
何も。
言い返せなかった。
クレイスが。
足跡の横へ。
ゆっくり踏み出す。
「足跡を」
「踏まないでください」
「何が起きるか」
「分かりません」
俺たちは。
一定の距離を空け。
小さな足跡を。
追い始めた。
一歩。
また一歩。
足跡は。
黒い土の道と。
並ぶように。
森の奥へ続いている。
だが。
触れてはいない。
まるで。
避け方を。
知っているみたいに。
「子どもが」
「これを避けたのか?」
クレイスは。
黒い土と。
足跡を見比べる。
「そう見えます」
「ですが」
「それなら」
「この子は」
「黒い土の性質を」
「知っていたことになります」
嫌な感じがした。
こんな森で。
一人で。
裸足で。
何から。
逃げていた?
その時。
足跡が。
消えた。
巨大な木の前。
そこから先には。
何もない。
俺たちも。
足を止める。
「また」
「消えた……」
リシェルの声。
クレイスが。
木の周囲を調べる。
裏側。
根元。
左右。
どこにも。
続きはない。
俺は。
木を見る。
太い幹。
古い傷。
苔。
そして。
低い位置に。
小さな。
手の跡。
泥でついた。
子どもの手形だった。
「ここに」
「いたのか……」
思わず。
近づく。
その時。
クレイスが。
腕を伸ばす。
「待ってください」
足を止める。
手形のすぐ横。
何かが。
刻まれていた。
浅い。
細い傷。
子どもの指で。
何度も。
なぞったみたいな文字。
クレイスが。
顔を近づける。
「読めますか?」
「いや」
そう答えた。
なのに。
目を離せなかった。
知らない文字。
読めるはずがない。
でも。
胸の奥で。
何かが。
その形を。
知っていた。
頭が。
ズキッ――。
「っ……」
リシェルが。
すぐに俺の腕を支える。
「シュトック?」
文字が。
揺れる。
木。
森。
二人の声。
全部が。
遠くなる。
そして。
知らない文字が。
頭の中で。
意味へ変わった。
「……かえして」
自分の声だった。
クレイスが。
振り向く。
「読めるのですか?」
俺は。
答えられない。
知らない。
読めない。
なのに。
そう書いてある。
分かってしまった。
その時。
木の向こうから。
カラン。
鈴の音。
続いて。
子どもの声。
今度は。
はっきりと。
「……返して」
俺たちは。
一斉に。
木の向こうを見た。
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