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27:ちょっとしたいたずら

「ヒローナ……大丈夫かな」

「大丈夫だよ。きっと」


 心身ともに疲弊したヒローナを見送った次の日の朝、俺は朝食を食べながら呟いていた。


「そうだよな。あいつのことだもん。きっとケロッと元気になっているよな」


 一晩経ったが、昨日のことを気にして、俺たちは意気消沈していた。

 無理に気分を上げて話そうとするも心の重荷が引きずって、楽な気分にはなれなかった。


「きっとそうだし。私たちが暗くなってたら、ヒローナも元気になれないよ」

「うん。俺たちが元気じゃなかったら笑顔になれないよな!」


 流石は国中の人たちに愛される聖女様だ。数々の経験を経てどう向き合うべきか心得ている。見習うべきだ。

 俺は朝食を平らげて、服を着替えて、明るい空の下に出ようとしたとき、


「ちょっと待って、私も行く」


 セイに呼び止められた。


「あぁ、まぁ良いけど」


 玄関で待ち続けて、腰辺りが少し痛くなってきた頃。リビングにつながる壁の左側からひょっこりとセイが顔を出してきた。


「お待たせ!」


 そう言ってぴょんと姿を現したセイの服装は白の裾にフリフリしたものがついている綺麗なワンピースだった。その姿は思わず神様も振り向いちまいそうなほど綺麗で、美しくて


「何固まってるの……?」

「いや……なんでも」


 だが彼女は自分の綺麗さを自覚していないのか首を傾げている。


「見惚れちゃってた?」


 前言撤回。このセイってやつ、自分が綺麗なことをちゃんと自覚している。


「み、見惚れてねーし!」

「顔、赤くなってるよ?」


 心を見透かしているのか……!

 セイから顔を背けてペタペタと顔を触るが、いつもと何ら変わらない気がする。


「と、とりあえず行くぞ」

「もう……アンは正直じゃないんだから」


 恥ずかしい気持ちを誤魔化そうと、セイの手をつないで強引に元気の良いお天道様の下に行く。

 家の外に出た瞬間、涼しい風が俺たちの近くを通り過ぎる。木々は揺れて、話でもしているのかと思えるほど賑わった音を奏でている。


「今日は良い日になりそうだね」

「昨日あんなことがあったのに良い日に何てなるわけないだろ」


 突然おかしなことを言うセイに俺は冗談めかしてツッコミを入れる。


「あっ! ヒローナ!」

「え?」


 セイが指さす方に身体を向けると、歩くヒローナの姿が見えた。その背中には、背中一面を覆うくらい大きなリュックが担がれていて、どこかに行くようだった。


「ヒローナ! どこに行くんだ?」


 まだ気づいていない様子の彼女に、声が聞こえるように手で口を覆って呼んでみる。すると、声が届いたのか彼女は俺たちの方に振り向いてくれた。手を振ってくれる彼女に応えるべく、俺たちは駆け寄る。


「もう、大丈夫なのか?」


 さっき言ったこととは違うけど、一番気になっていたことが自然と口から出ていた。


「……すまない。指名手配についてはまだ解決できそうにない」

「違う。そんなことじゃない。お前は大丈夫なのかって聞いたんだ」

「そんなことって……」


 彼女の眉が、一瞬ピクリと動いた気がした。


「アン……そんなことで片付けていいものじゃないよ」


 後ろからセイの呆れるような声。


「そ、そうか…うん、そうだな」


 俺としては、彼女が大丈夫なのか聞きたかっただけなのだが……これって状況が理解できてないバカだと思われるか? もしかして。


「ま、まぁ良いさ。それで、君たちは私に何かようがあるのかい?」

「いやまぁ、でっかい荷物担いでるし、どこか行くのかなって」

「色々なところだよ。揺れの被害を受けた村や都。困ってる人がいるかも知れないから」


 ヒローナの声色はいつも通り落ち着いた声だった。昨日のような自分を刺すような悲観した声ではない。ほほ笑む顔は頼れるお姉さんみたいだった。


「俺にも手伝わせてくれよ」


 けれど、昨日の気に病む彼女を見た俺は無理しているように思えて、いくら彼女が強いからと言って放っておくことはできなかった。


「良いのか?」

「良いに決まってるだろ。なぁ、セイ」

「そうだよ。遠慮なんてしないで、ヒローナ」

「……ありがとう」


 やっぱり誰かに感謝されるのは気持ちが良い。でも、何もやっていないのに感謝されるのは変な感じがして素直には受け取れない。


「それを言うのはやりきった後だぜ。それに、困ったときはお互い様。そうじゃないか?」

「そうだな。なんか、心が軽くなった気がするよ」

「それなら良かったぜ」


 彼女はつきものが落ちたように微笑むのだった。


「よし、じゃあ早速手伝ってもらおうかな」


 そう言って彼女は、小麦袋が十袋は入りそうなくらい大きなリュックの中からタオルなどの日用品や、豆や野菜などの食料が入った袋を取り出した。


「このリュックがちょっと重くてね。少しだけ持ってくれ」

「任せろ!」

「任せてください」


 俺は見るからに重そうな、食料が入っている袋を手に取った。


「おっっっっっっっっも!!!」


 食料袋を持ち上げようとしたが、全然……ビクリとも動かなかった。


「えっ持ち上がらないんだけど」


 俺が何とかして持ち上げようとしていると、背後からクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「セイ。一回お前も持ってみな?」

「任せなさいよ。私、アンよりかは力あるから」


 俺より華奢なセイが何故だか自信満々だった。

 ま、まさか普段から鍛えていて、実はムキムキだったりするのか?

 男としての不安をよそに、セイは食料袋に手をかける。


「ん~~~~! ぜ、全然持ち上がらない~~~!」


 案の定、セイも持ち上げられないようだった。のどに詰まった空気が一気に抜けて、肩の力が抜けた。もしもセイが持ち上げられたら、流石に男を名乗るのを辞めようかと思っていたが、まだ俺は男としていて良いらしい。


「重かったらいくつかリュックの中に戻してもらっても構わないよ」

「……煽ってる?」


 俺の言葉にヒローナは驚いていた。


「そういう意図は無かったんだがなぁ……」


 困った表情を見るに、どうやら本当に親切心で言ってくれたらしい。


「いやごめん。男として情けなくて神経質になっちまってた」

「その気持ち、よく分かるぞ」


 突然、俺の肩に何かが置かれた。振り返ると、後ろにいたのはセイと、俺の肩に手を置く筋骨隆々の男がいた。


「そんなにムキムキなのに?」

「いやな……こいつと一緒に過ごしてりゃ、そう思う日もあるぜ」


 こいつと言って指をさした先には、ヒローナ。


「く、比べる対象が悪いんじゃないっすかね……」

「そうかなぁ……? 俺は今でも勝ちたいと思ってるんだがな」


 マジかこの人、ヒローナに勝てると思ってるのかよ。

 俺は控えめに言っても化け物な彼女に勝てる未来なんてイメージさえしていなかったが、彼にはあるのかもしれない。


「無理さ。マックスが私に勝つなんてね」

「分かんねぇぞ? 俺の筋肉たちは勝てるって毎日言ってくれる」


 両者の間には相変わらず火花が散っている。


「マックスさん、今日も燃えてるね」

「そういや、あの人ってマックスって言う名前なんだな。今日初めて知ったわ」

「おっと……アンコには名乗っていなかったな。俺の名はマックスだ。ヒローナとは幼馴染みたいなものだ。改めて、よろしくな!」

「よろしく!」


 ここにきて早数日……ようやく名前を知ることができた俺たちは、がっちりと握手を交わした。


「いたたたたたたたた……!!! マックスお前、わざとか!?」

「あっ、バレちまったか」


 最初は普通に握手していただけなのに、急にマックスが握る力を強くしてきやがった。


「アハハ。まだそんないたずらをやっていたのか?」

「いや~、男だからついな」

「いやな、こいつ私と初めて会った時にも同じことしてきたんだよ」


 俺とマックスのやり取りが懐かしいのか、ヒローナは笑っていた。

 一方の俺はというと、今まで良い人だと思っていたマックスの評価を改めなくちゃいけないようだ。いやまぁ……良い人ではあるんだろうけど。

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